本作は、禅に伝わる悟りまでの道程を十枚の牛の絵で表した「十牛図(じゅうぎゅうず)」から着想を得て、京都・臨済宗大本山妙心寺の僧侶の協力のもと制作された作品。急速に変わりゆく時代、放浪の旅を続けていた狩猟民の男は、山中で神々しい黒い牛と邂逅する。人里離れた民家でともに暮らし、生きるために大地を耕し始めた男と牛だったが、自然の猛威を前に息を合わせることができない。しかしある禅僧との出会いをきっかけに、次第に心を通わせるようになる。ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督作の常連俳優として知られる主演のリー・カンションが“牛と出会う者”、田中が禅僧役で出演。公開された映像には、自然とのつながりを見失った狩猟民が自分の分身とも言える牛と出会い、大地を耕し昼寝をし、あぜ道を行く姿が収められた。
「フィルム以外では映画を撮らない」と明言している蔦。本作も全編フィルムで撮影し、70mmフィルムも一部使用している。蔦は東京工芸大学1年生のときにフィルムと出会ったことに触れ「感光したら使えなくなるとか、撮り直しのできない、デジタルにはないスリリングさに惹かれたのだと思います」と回想する。またフィルムで映画制作を続ける理由を「一番は、フィルムでないと自分が楽しめないからです。デジタルの映像がどんなに進化して、フィルムルックに近付いても、興味が湧かないのです。フィルムとデジタルの違いということで粒子の話はよく出ますが、私はそれだけではなく、感覚的にフィルムの画のほうが自然な色味で心地よく、芸術作品としての崇高さを感じています」と語った。
そんな蔦は70mmフィルムで撮影するにあたって、「オッペンハイマー」などで知られる
映画「黒の牛」は東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、K's cinemaほかで上映中。
映画「黒の牛」本編映像
岡田秀則(フィルム・アーキビスト)による「牛と映画」への考察
古代エジプトの頃から、牛は有用であるだけでなく、信仰の対象になるほどの神聖な生き物であり、美しいと見なされていたに違いない。そして、その頃から接着剤として膠(にかわ)が牛皮から製造されていたことが、ピラミッドから発掘された棺や工芸品から分かっている。その主成分はコラーゲンだが、現代のゼラチンとは精製の度合いが異なるだけで、ほぼ同一の物質である。ゼラチンの工業的な生産は17世紀末のヨーロッパに始まり、18世紀にはイギリス、19世紀にはフランス、アメリカ、ドイツでも産業化された。19世紀初頭までは牛の皮が主原料だったが、1814年にイギリスで脱灰牛骨の製造技術が確立するとともに工業的な骨ゼラチンの製造も開始され、また食用ゼラチンも生産され始めた。そして19世紀の後半、写真の乳剤にゼラチンが応用されて、ゼラチン工業はさらに発展する。写真乳剤に使われるということは、言うまでもなく、それに続く発明品である映画フィルムに塗布される乳剤にもなるということだ。こうして牛皮と牛骨は、映画の本質的な材料となった。ゼラチンは人工的に精製できない以上、そのことは今でも変わらない。現代人はゼリーやグミを食べ、病気になればカプセルの薬を飲むが、130年の歴史を持つに至った映画もいまだに牛を必要とする。コダック社は今日も映画フィルムを製造し、上映プリントをこしらえる現像所も随分減ったとはいえ稼働中だ。牛の恩恵は終わらない。
映画「黒の牛」予告編
蔦哲一朗の映画作品
リンク
タグ
K's cinema @ks_cinema
昨日より公開!本日15:40の回は、リー・カンションさん 須森隆文さん 蔦哲一朗監督舞台挨拶あり!
1/24(土)・25(日)13:30/15:40/18:20
1/26(月)~30(金)13:30/15:50/18:10
「黒の牛」蔦哲一朗がフィルムへのこだわり語る、クリストファー・ノーランに助け求めた過去も https://t.co/w33VVpmu78