本作では、人生の岐路に立つ高校生の息子・佑と、難病を抱えながら我が子の明日を願うシングルマザー・美咲の揺るぎない愛が描かれる。佑を山時、美咲を菅野が演じたほか、介護施設のケアマネジャー・下村香織役を西野七瀬、佑の同級生でバスケ部のマネージャー・松田杏花役を南琴奈、バスケ部の元チームメイト・大平翔太役を田中偉登が担った。
中川駿の作品には悪い人が出てこない
中川が、母を看病した経験をもとにキャラクターを構築した本作。数年前に母を亡くしたという彼は「なんて言うんでしょうか……僕、あまりいい息子じゃなかったんです」とこぼし「母からの愛情に“反抗”として返してしまい、不器用な、向き合えない関係性がずっと続いていた。母に対して申し訳ない気持ちがあったんです」と思い返す。そんな彼はあるドキュメンタリー番組を視聴したところ、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の母と、彼女をケアする息子の話に出会ったという。「番組内でケアマネージャーさんが、その男の子に『僕が家にいなきゃいけない、と思わなくてもいいような環境を作るのが私の仕事です』とおっしゃっていた。でも自らに置き換えたとき、『あなたは自由に人生を歩んでいいです』と言われても、母に対しての罪悪感や、後ろめたい気持ちを抱いてしまうんじゃないかなと。ヤングケアラーという問題の核心がそこにあるのではないかなと思い、映画として描きたいと思ったんです」と本作を製作する経緯を明かした。
SYOいわく、本作を鑑賞した菅野や西野が「悪い人が出てこないのが素晴らしい」と口にしていたという。それを聞いた中川は「あまり僕の周囲に悪い人がいなくて……」と切り出し、「エンタメにはよく根っからの“純粋悪”みたいな人が登場しますが、僕自身はそんな人に出会ったことがないんです。本作は原作がなく、自分の価値観を100%反映した物語になっていますから、自然と悪人が登場しない形になりました」と説明する。またヤングケアラーという題材にも触れ、「フィクションではなく、皆さんが日頃生活されている現実と地続きであるということが大事。常にリアリティを大切にしていました」と振り返った。
大森元貴の主題歌が、親子のストーリーとしての強さを表現
主題歌として使用されたのが、
高校生は大人と子供の“いいとこ取り”
これまで中川は「カランコエの花」「少女は卒業しない」『か「」く「」し「」ご「」と「』など、高校生が主体となる作品を手がけてきた。観客とのQ&Aでは、学校を舞台にすることのこだわりについての質問が。中川は「高校生の年代の子たちが放つ言葉はすごくメッセージ性が強いと思っている」と語りかけ、「個人的な意見ですが、中学生以下の人はメッセージを発しても『社会を知らないからそういうことを言うんだよ』と片付けられてしまうことが多い。一方で大学生や社会人になると、僕も含めてですが自分の利益のために嘘をつくことを覚えてしまうから、発するメッセージが少し弱くなってしまう感覚を抱くんです」と口にする。加えて「だから高校生ってすごく絶妙で。大人ほど世の中に擦られていないし、子供ほど世間知らずではなく、大人と子供の両方の“いいとこ取り”をしている。特にこういう社会問題を取り扱う作品とは相性がいいと思うんです。別に『高校生を描こう』と意識しているわけではないのですが、自然と舞台が学校になっていますね」と言葉を紡いだ。
また長回しで登場人物のセリフや表情をじっくり捉える撮影手法の意図を聞かれると、中川はそれがリアリティ追求のためだと言いつつ「その場で感じてほしい空気をしっかりと伝えるために、役者さんが実際に演じている間をそのまま収めることを重視しました。緊迫した雰囲気を伝えたいときは、なるべくカットを割らないようにしています」と回答。ハンディカメラで撮影された場面に関しては「構図やライティングがバッチリ決まっていると確かに美しいですが、どこか作られたもののように感じてしまい。僕はあまり心が打たれないんです。画の中にあるものを本当に起きていることのように受け取ってほしいときは、あえて揺れが出る形で撮影することもあります」とその狙いを打ち明ける。
菅野美穂の芝居は最初から完成されたクオリティ
終盤には、ALSを患う美咲のセリフの発し方についての質問も。中川は監修担当と菅野への演出について準備をしていたそうだが「『では1回芝居を見せてください』と言ったときに、もう完成していたものを披露してくださったんです」と告白。「ご自身で深く研究されたんだなと。単純に動きがゆっくりであるとか、滑舌が鈍ければいいわけではなく『どうしてそうなってしまうのか?』を理解して芝居に落とし込まないと、どこかで違和感が出ると思うんです。もう本当に言うことがないくらいなクオリティに最初からなっていました。本当は僕が演出したと言いたかったですが……」と菅野の芝居に賛辞を贈った。
最後に中川は「ヤングケアラーやALSなど、病気や障害が題材の作品はどうしても『重たそう、暗そう』と敬遠されがちです。でも皆さん本作をご覧いただいて、『しんどかった』とは少し違った思いになられたのではないでしょうか。ぜひその気持ちを周囲に伝えてほしいです」と呼びかけた。また本作のノベライズが販売中であることも告知。同作では登場人物の内に秘めた心情までが描かれており、映画鑑賞後に読むことで物語の理解が深まるのだそう。
「90メートル」は3月27日より全国でロードショー。
映画「90メートル」本予告
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