全国で公開中の映画「
真藤の同名小説をもとにした「宝島」は、アメリカ統治下にあった戦後の沖縄を舞台に、米軍基地から奪った物資を住民らに分け与える“戦果アギヤー”と呼ばれた若者たちを描いた物語。妻夫木が過渡期を全力で生きたグスクを演じ、広瀬すずが幼なじみのヤマコ、窪田正孝が兄を見つけるためヤクザへの道を選んだレイ、そして永山瑛太がレイの兄で突然失踪するリーダーのオンに扮した。
妻夫木と大友は、今年6月から3カ月以上に及ぶ“全国キャラバン”で各地へ赴き、本作へのたぎる思いを伝え続けてきた。9月19日の全国公開から2週間が経った今、戦後の沖縄を正面から描く“挑戦”に対するさまざまな議論がSNSを中心に巻き起こり、物語の舞台・沖縄では連日満席が続くなど盛り上がりを見せている。妻夫木は「僕は沖縄出身ではないからプレッシャーはありました。ただ誰よりも沖縄の方々の、先人の方々の思いを背負ってきた覚悟はあったので……」と述べ、2006年の主演作「涙そうそう」から続く沖縄への強い思い入れを口にした。
舞台挨拶では、映画公開後に数多く寄せられた感想や疑問に登壇者たちが回答。191分の上映時間にも話題が及び、真藤は「どんな小説でもそうですが『宝島』でも賛否両論はあった。物語に込めた熱量に没入して称賛していただける声もあったし、非難する声もあった。けれど、それが健全な在り方としてうれしかったし、作り手としては、“黙殺”されてしまうことが一番悲しい」と原作の発売当時の反響に触れつつ、映画についても「いろいろな議論が行われていることはいいことだと思う」と吐露。大友は「沖縄で感じた豊かな時間や歴史、そこで生きていた方々の思いの厚みを表現するには、表面的なものは作れない」と譲れなかったこだわりを力説する。
小説執筆にあたり取材や時代考証に多くの時間を費やしたという真藤は、妻夫木が演じたグスクの人物像についても解説。「当初は東京から沖縄に渡ってきたキャラクターにしようかという構想もあった」と裏話を交えつつ、「でも書けなかったんです。その視点ではとてもこの話は書けないから、グスクは現地に生きる人物にしました。沖縄出身ではない自分が沖縄の人になりきれるのか、沖縄の歴史を生きた人々にどれだけ近付けるかというのはすごく大変だった」と当時の苦労を述懐した。また映画化にあたって、大友が目指した“追体験”というテーマは真藤自身が執筆時に大切していたものでもあり、その思いに共鳴して「ぜひお任せしたい」と感じたことも振り返った。
そんな中、妻夫木は「この映画をきっかけに初めて知る事実も多かった」と切り出し、「過去を知ることで痛みを知ることができる。痛みを知れば『同じ過ちを繰り返してはいけない』と未来ににつなげることができる」と力強く発言。「また僕たちは武器を持ってしまうかもしれない。でも武器を持ったらまた戦争が始まってしまうかもしれない。失った命は取り戻せないわけで、そういう時代は二度と来てほしくない」と続け、「自分も子供がいますし……」と大粒の涙を流して感情をあふれさせる。声を震わせながらも「そんな未来は作りたくない、絶対に」と訴える姿に、自然と拍手が沸き起こった。
イベントの後半には、妻夫木の役作りに影響を与えた佐喜眞美術館の館長・佐喜眞道夫氏からの手紙がサプライズで紹介された。「困難を乗り越えるために突っ込んでいった人々の心の根底に何があったのか。忘れていた共同体と人々への深い愛情を思い出させてくれました」という重みあるメッセージに、妻夫木は再び言葉を詰まらせながら「佐喜眞美術館で拝見した『沖縄戦の図』は『宝島』と向き合ううえで支えだった。自分が生きるうえでの一生の“核”のような存在になった」と感慨深げに口にする。そして最後に「この映画を通して死生観が変わった」とし、コロナ禍に亡くなった祖母の思い出を涙ながらに回顧。「僕は『宝島』でいっぱい宝が見つかった。だから、皆さんもいっぱい宝を見つけてほしい」と語りかけ、イベントの幕を引いた。
佐喜眞美術館 館長・佐喜眞道夫氏からの手紙全文
沖縄戦で地上のすべてを吹き飛ばされた沖縄には80年たった今なお巨大な米軍基地が居すわってます。その圧倒的な不条理に果敢に飛び込んでいった沖縄のニーニー(兄貴)達、戦果アギヤーは、少年だった私にとって英雄でした。コザ暴動のシーンは圧巻でした。私も中に入って車をひっくり返したい思いになりました。妻夫木さんが役作りのために何回もご来館され、丸木位里・丸木俊の「沖縄戦の図」の前に立たれていたと伺い、しみじみとありがたさを感じています。そんな妻夫木さんが演じられた、リアルに描かれた映像を通してみると、その壮絶さに少しうろたえました。しかし、そんな中で真っ直ぐに生きようとする青年たちの姿に感動しました。困難を乗りこえるために突っ込んでいった人々の心の根底に何があったのか。忘れていた共同体と人々への深い愛情を思い出させてくれました。
佐喜眞 道夫 佐喜眞美術館 館長
映画「宝島」本予告
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