「沖縄出身として観てよかった」──ラッパー・CHICO CARLITOが映画「宝島」を通して見つめる沖縄の歴史と今

妻夫木聡・広瀬すず・窪田正孝・永山瑛太が出演した映画「宝島」が、9月19日に全国公開される。

真藤順丈の直木賞受賞作を映像化した「宝島」は、米軍統治下にあった戦後沖縄を描く物語。過酷な時代に立ち向かい、熱く生き抜いた若者たちの闘いと、沖縄社会の光と影が交錯し、圧倒的な熱量を放つ3時間超の大作が完成した。連続テレビ小説「ちゅらさん」や大河ドラマ「龍馬伝」、映画「るろうに剣心」シリーズなどを手がけてきた監督・大友啓史が並々ならぬ覚悟で挑んだ1作である。

本特集では、沖縄出身のラッパー・CHICO CARLITOにインタビュー。まず「沖縄出身として観てよかった」と切り出した彼は、映画の率直な感想から、自身のルーツと重なる記憶、世代を超えて続く基地問題への思いなどを語る。さらにAwichらと開催したライブイベント「RASEN OKINAWA TOUR」の手応えや、新曲に込めた沖縄へのリスペクトについても聞いた。

取材・文 / 小松香里撮影 / 西村満
スタイリング / HARUHIヘアメイク / Misao Touyama

映画「宝島」予告編公開中

学校で習ってきたことを再確認できた

──「宝島」を観た率直な感想はいかがでしょうか?

久しぶりに3時間超えの映画を観たのですが、まず「沖縄出身として観てよかった」と思える映画でした。「宝島」は1950年の頭から1972年までの沖縄の動乱を描いている作品です。僕の両親は、ともに1968年生まれ。全編を通して、家族や親戚から伝え聞いた話、学校で習ってきたことを再確認できましたね。米軍と沖縄県民の関係性、沖縄の警察の「表と裏の顔」、女性教師と女性活動家の対比などが描かれていて、一辺倒な目線ではなく複数の視点が存在していることが印象的でした。

CHICO CARLITO

CHICO CARLITO

──グスク(妻夫木聡)、ヤマコ(広瀬すず)、レイ(窪田正孝)、そして彼らのリーダー的存在・オン(永山瑛太)の幼なじみ4人を中心にさまざまな立場の人物が登場します。特に印象に残ったシーンや人物というと?

特にいいなと思ったのは、(栄莉弥演じる)戦争孤児のウタがお父さんを探すところ。僕自身、米兵の孫なのですが、おじいちゃんには会ったことがないので胸にくるものがありました。また、互いの正義がぶつかり合う刑事グスクとヤクザのレイのシーンは特に印象的で、ヤマコの家にレイが来ていることを知らず、グスクが外から話しかけるあたりからは緊迫感がさらに高まりましたよね。グスクがモーテルでCIAから拷問を受けるシーンで「『豊かさなんていらないから出て行け』と言えば、お前たちは出ていくのか?」と言い放つのも印象的です。そんな簡単な話ではない、米軍基地にまつわる複雑な事情が凝縮されていると思いました。武器を持つか持たないかというやり取りは、まさしく性善説と性悪説の対立だと思いましたし。沖縄にも理想論を掲げる人と、そうではない現実主義的な人がいるので。

──確かに、思想や立場の違いが丁寧に描かれていましたよね。

そうなんです。記憶に残るシーンが本当にたくさんありました。

消息を絶った親友・オンを探すため、刑事となったグスク(妻夫木聡)。米軍の高官や通訳と協力し、米兵を取り締まりながらオンの行方を追う

消息を絶った親友・オンを探すため、刑事となったグスク(妻夫木聡)。米軍の高官や通訳と協力し、米兵を取り締まりながらオンの行方を追う

平和をあきらめないグスク(右)に対し、レイ(窪田正孝 / 左)は「武器を持て」と挑発する

平和をあきらめないグスク(右)に対し、レイ(窪田正孝 / 左)は「武器を持て」と挑発する

──ヤマコというキャラクターには、どんな印象を持ちましたか?

沖縄の、いわゆる“教養があって中道的な立場を取る女性”という印象がありました。その対比として、コザの活動家の女性たちが描かれていて。ヤマコ側には「沖縄返還」「本土復帰」という思いがあり、一方でコザの人たちのシーンでは「祖国復帰反対」というポスターがちらっと映って、二極対立の描き方がとても印象的でした。結局、全部の根っこには戦争とアメリカの基地問題が絡んでいるので重いですよね。

コザの英雄・オン(永山瑛太 / 左)と恋人・ヤマコ(広瀬すず / 右)。ヤマコは教師になり、失踪したオンの帰りを待ちながら、祖国復帰運動に参加していく

コザの英雄・オン(永山瑛太 / 左)と恋人・ヤマコ(広瀬すず / 右)。ヤマコは教師になり、失踪したオンの帰りを待ちながら、祖国復帰運動に参加していく

オンの弟・レイ(窪田正孝)。ヤクザとなって裏社会に身を投じ、自らの手で兄を探す

オンの弟・レイ(窪田正孝)。ヤクザとなって裏社会に身を投じ、自らの手で兄を探す

ニコ・ロビンのセリフをふと思い出した

──最大の見どころの1つであるコザ暴動(※1970年、沖縄コザ市で民衆が米軍関係車両を次々と焼き払った反米騒動。「コザ騒動」とも言われている)のシーンには、延べ2000人超のエキストラを投入し、大友啓史監督自ら群衆1人ひとりに演出を加えたそうです。迫力ある映像で、エンタメ大作としても見応えのある作品になっているかと思います。

ポスタービジュアルにも使用されているコザ暴動のシーン。何十台もの希少なクラシックカーを使って撮影された同シーンは、約20分にわたる長尺で描かれる

ポスタービジュアルにも使用されているコザ暴動のシーン。何十台もの希少なクラシックカーを使って撮影された同シーンは、約20分にわたる長尺で描かれる

「どうやって撮影したんだろう?」と思いました。それに、コザ暴動に対して自分が持っていた認識と重なって、とてもリアルでした。ただ、テーマが重い映画なので、どこまでエンタメにするかが難しいところではありますよね。例えば、コザ暴動のシーンに派手な音楽を付けたらエンタメ性は上がるかもしれませんが、そうはせずに重いドラムの音がずっと響いていました。沖縄の民謡を流しても、きっと雰囲気が軽くなってしまう。だからこそ、あのシーンをポップにはしたくなかったんだろうなと思いました。監督の大友さんとじっくり話したいです(笑)。

──ほかのシーンでは、琉球音楽だけでなく、1950年代の沖縄で実際に流れていたであろうジャズやロックが使われていました。

CHICO CARLITO

CHICO CARLITO

CHICO CARLITO

CHICO CARLITO

音楽の面でも当時の沖縄を再現しようという意識を強く感じました。パブやバーのシーンの雰囲気もリアルでしたよね。序盤に、重いトーンから急に明るい音楽に切り替わるシーンがありましたが、そこにも意味を感じました。「宝島」というタイトルには、米国から見た沖縄という意味もあるし、オンやレイが米軍基地から奪った戦果を手にする意味もある。内地(※沖縄県外の日本本土)の人からしたら、きれいな海のある沖縄は“宝島”だろうし、いろんな意味が込められていて、すごいタイトルだなと思いました。僕、「ONE PIECE」で好きなセリフがあって。ニコ・ロビンの「地図の上から人は見えない」という言葉なんですが、「宝島」を観ながら、ふと思い出しましたね。