映画監督・
子供向けの芸術文化体験企画「ネクスト・クリエイション・プログラム」の一環である「映画と夏の7日間」は、鑑賞・企画・撮影・編集までの一連の映画作りを体験することにより、表現する楽しさや工夫する面白さを学ぶプログラム。200通を超える応募の中から抽選で選ばれた小学4年生から6年生までの26名が参加した。主催は東京都、アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)。
監督ってどんな仕事?是枝裕和の講習からスタート
映画制作の舞台は、東京・東京都庁。会議室や屋外の中庭など、撮影に使えるさまざまな環境が用意されている。集まった子供たちに向けて、まず是枝は「監督ってどんな仕事かわかる?」と問いかける。「現場を仕切る人!」「リーダー!」と声が上がっていく中、「はっきり『これをします』と決まっているわけじゃない。足の速い子も遅い子も含めて、みんなが楽しめて『これは自分の作品だ』と思えるようにするのが監督の仕事だと思う」と持論を展開。「かれこれ30年ぐらい監督をやっていますが、楽しい仕事です。今回の体験を通して映画作りに興味を持ってもらえたら」と呼びかけた。
続いて、撮影監督として映画「息をひそめて」「宇宙でいちばんあかるい屋根」などに参加し、広告やミュージックビデオでも活躍する上野千蔵が前に立った。カメラマンの役割を「物語は言葉で考えるけど、映像は感覚の部分が大きい。きれい・かっこいい・怖いといった感覚を、言葉を使わずに伝えられるのが映像の力です」と丁寧に紹介し、カメラとスクリーンを使いながら、被写体との距離やアングルでシーンの印象が変わるさまを実演。そして子供たちにもカメラを託して実践させ、「撮影に正解はない。全部が正解だからこそ、選ぶのが難しい」と奥深さを伝えた。
「消しゴム人間」に「DJヘンタイ」?子供たちの自由な発想力
いよいよ4グループに分かれて映画制作がスタート。ある班は登場人物の名前やあだ名といった細部から詰めていき、別の班はすぐに「ロケハンだ!」と叫んで施設内を歩き回るなど、それぞれまったく異なる進め方を見せた。主人公を“消しゴム人間”にしようと決めた班は「ダンボールで着ぐるみを?」「いや、本物の消しゴムを糸で引っ張ろう」と撮影方法をめぐって盛り上がる。教室で起こる物語を作ろうとする班は「(画角を)広めに撮って主人公をポツンと映したら寂しそうに見えるんじゃない?」と、習ったばかりのカメラアングルをさっそくアイデアに落とし込んだ。
2時間強という限られた時間の中で、物語と撮影方法をまとめ上げる子供たち。是枝は時に声を掛け、時に求められてアドバイスを送る。例えば“DJヘンタイ”という強烈なキャラクターを思いついたものの、生かし方に悩む班には、是枝も思わず笑いながら「それは怪物なの? そうなった理由をしっかり描いたほうがいいよ。それと犠牲者にも『その人が何をしようとしたか』と意味を持たせたほうが、演じる側もやりがいがある」と助言。別の班には「登場人物には“物差し”が多いほうがいい。『絵が得意』だけでなく『好きだけど下手』とか、複雑にしたほうが深みが出る」と伝え、それらのアドバイスを子供たちはすぐに反映していた。
試行錯誤の末に…ラッシュ上映で見えた課題
昼休憩後はいよいよ撮影へ。カメラのセッティングやマイクの接続まで子供たち自身で行うため手間取り、各チームともに苦戦。撮影時間が大幅に削られ、焦りの表情も見て取れた。そして最後は、この日撮った映像をつなげたラッシュを披露。“消しゴム人間”の班は、クリアファイルを下に敷いて引っ張ることで消しゴムが動いているように見せ、アイデア力で大人の講師陣を驚かせる。上野は「“主人公感”を出すにはライトを当ててみるといいよ」と次の工夫につながる助言を送った。
子供たちからは「もっと撮れると思っていたのに、1カット撮ったら20分も経っていた」「恥ずかしくなり笑ってしまってNGを連発した」と苦労の声が続々。それでも映画を完成させるべく、気持ちを新たに意気込んでいた。是枝は「マイクが映り込まないようにする大変さとか、やってみて初めてわかるよね。テイクを重ねながら、みんなで少しずつよくしていくのが楽しいところ。漠然とではなく『次はここを変えよう』としっかり話し合うことを意識してがんばりましょう」と次回への期待を込めて呼びかけた。
是枝裕和が語る創作の醍醐味「面倒くささが面白い」
休憩時間には是枝と上野が取材に応じ、今回の取り組みを振り返った。是枝は「制作現場を体験するだけでも、その後の映画の見え方が大きく変わると思いますよ」と意義を語る。子供たちについては「みんなモチベーションが高いし積極的。指導するというより、どこかをつつけば自然に動き出す感じ。手を引いてあげたほうがいいのかなとも思いますが、みんな楽しそうにやっているので、今ぐらいの距離感がいいんだと思います」と目を細めた。
また是枝は「意見をぶつけ合えば喧嘩も起きるかもしれない。でも一緒に作ることの楽しさを伝えたい」と話し、「映像を作るのは面倒くさい。でも面倒くささが面白いんですよね。面倒くさくなくなっちゃったら、つまんないですもん」と笑う。上野も「監督、脚本、カメラ、役者といった役割分担をどうするか自由に決めているのが面白い。みんなの表情を見ていると、本当はこうしたいっていう気持ちがあるけど譲り合っているような瞬間もたまにあって。コミュニケーションを取りながら関係性が育っていく過程も面白いですね」と子供たちの内面の成長にも言及した。
さらに是枝は、今回の取り組みを、自身の映画作りとも地続きだと捉えていると述べる。「自分の映画の現場をどうよくしていくかという課題と同時に、業界全体をどう健全にしていくかという視点もあります。そのうえで、子供たちが将来“映画を仕事にする”という選択肢を考えるきっかけになれば」と語り、「日本では映像リテラシー教育が遅れていて、学校でもほとんど手つかずの状態。でも日常には映像があふれている。たとえ作り手にならなくても、子供たちがどういう環境で映像と向き合うかを守り、育てていくことが大切だと思います。今回の取り組みも、その一環です」と続けた。
今回制作した映画は、9月21日に東京・東京都写真美術館1階ホールでの上映会にて披露される。是枝は「大きなスクリーンでね。普段観ているの(プロが作った映画)とは全然違う体験になると思いますよ」と期待を口にした。
是枝裕和の映画作品
関連人物
ジョンダオG @G20955873
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