是枝裕和はiPhone 16 Proで映画をどう撮った?仲野太賀ら出演「ラストシーン」撮影に密着

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「万引き家族」「怪物」の是枝裕和が監督し、仲野太賀福地桃子が出演した短編映画「ラストシーン」がApple Japanの公式YouTubeやApple TVアプリで配信中だ。是枝の作品で初めて全編iPhone 16 Proで撮影された同作。2024年12月下旬、神奈川・由比ヶ浜で行われた撮影の現場に映画ナタリーが密着した。

「ラストシーン」撮影現場で演出する是枝裕和

「ラストシーン」撮影現場で演出する是枝裕和

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「ラストシーン」キービジュアル

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Appleの企画から生まれた本作は、“未来に何が残り、何が消えるのか”をテーマとするタイムトラベル・ラブストーリー。脚本家の倉田が、自身の手がけるテレビドラマ「もう恋なんてしない」の脚本の改訂を依頼されたことから物語が展開する。ラストシーンを変えた彼のもとに、50年後からタイムトラベルしてきたという女性・由比が現れる。主演女優の孫であるという彼女は、倉田に該当シーンを再度書き直してほしいと依頼するのだった。倉田を仲野、由比を福地が演じ、プロデューサーの山瀬役で黒田大輔が出演。リリー・フランキーもキャストに名を連ねている。

「ラストシーン」撮影現場で談笑する仲野太賀(左)、黒田大輔(中央)、福地桃子(右)

「ラストシーン」撮影現場で談笑する仲野太賀(左)、黒田大輔(中央)、福地桃子(右)[拡大]

「ラストシーン」撮影の様子

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由比ヶ浜の現場にはiPhone 16 Proで撮影するための機材が持ち込まれ、そのコンパクトさから、すぐにはカメラの設置場所に気付かないほど。まずは倉田と由比が「もう恋なんてしない」の撮影現場に訪れ、山瀬に脚本の修正を依頼するシーンの撮影からスタートした。撮影スタッフはテストの際、普段遣いのときと同様にiPhoneの画面をダイレクトに触って画角の調整を慎重に行っていく。是枝は少し離れた場所からモニタで確認し、時折、仲野や福地らと談笑。福地には由比がカメラを構えるシーンの所作など、細かい動きを伝える。随所に是枝自らiPhoneを手にする様子も見られた。

「ラストシーン」撮影の様子

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「ラストシーン」撮影現場にて、iPhoneを構える是枝裕和(左)

「ラストシーン」撮影現場にて、iPhoneを構える是枝裕和(左)[拡大]

続けて、浜辺への入り口となる階段での場面に。それに伴ってカメラがレールごと移動されるのだが、iPhoneの軽量さから持ち運びはスムーズ。あっという間にセッティングが完了したと思えば、狭い場所での撮影もクルーに負担を掛けることなく淡々と進んでいく。また、iPhoneを地面スレスレの位置に設置してみるなど、デバイスの利点を生かした工夫を凝らす一面も。海岸で倉田と由比が歩きながら会話する場面では、是枝が仲野と福地に歩き方のスピードや、位置の前後関係などを丁寧に指示。iPhoneを携えたカメラマンが2人とともに歩を進め、より臨場感のある撮影を試みていた。

是枝裕和

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是枝は企画を聞いた当時の思いを「面白そうだなと思いました」と率直に吐露。事前にiPhoneで撮影された作品を観たと明かし「陳可辛(ピーター・チャン)の『Three Minutes』はとても面白かったですね。駅のホームだけで撮影したような感じでしたが、ドキュメントタッチかつ携帯電話の小ささを生かした短編に仕上がっていた。こういう作品を作れるのであればやりがいがあるなと」と振り返る。今作に挑むにあたっては「脚本を書くうえで、車の中や観覧車など、普段狭くて撮影が難しい場所をあえて選んでみました」とiPhoneの強みを意識した。撮影では手ぶれに合わせて補正を行う“アクションモード”が効果的に機能していたそうで、「再生したときに滑らかさを感じますし、今までこの安定感を得るために苦労してきたのに(iPhone 16 Proでは)簡単にできてしまうんだなと。ショックと言えばショック(笑)。きっとスクリーンに映しても遜色ないですね」とも口にする。

さらに是枝は、カメラが軽量であることから持ったときの手が安定すると言い、本来はカットを割るシーンでも長回しのワンカットが実現できると打ち明ける。それは仲野、福地の演技力に起因するものでもあったそうで、彼は「こんなに(表現が)できるんだったらこのセリフはいらないなと、かなり削ったんですよ。浜辺で2人が歩くシーンも5カットくらいを想定していましたが『ワンカットで押せる』と。完璧だなと思いましたね」と手応えを明かした。

瀧本幹也

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シネマトグラファーとして参加した瀧本幹也は、是枝と「そして父になる」「海街diary」などでもタッグを組んできた。「iPhoneで撮っていることを忘れるほど」と撮影を回想する彼は「レンズチェンジがないので(是枝との)コミュニケーションが取りやすいですね。再生も早いし、フットワークが軽くなった分、お互いにやりやすい環境になっています」と充実感をのぞかせる。そして「カメラセッティングの速さによって役者を待たせることなく、いい芝居を撮れる。例えば泣いているシーンで、別角度から撮りたいときにもパッと撮れちゃうんですよ。すごい進化ですよね」と声を弾ませた。

「ラストシーン」メイキング写真

「ラストシーン」メイキング写真[拡大]

iPhoneなどの手軽に高クオリティな映像を撮影できるデバイスが普及したことによって、誰もが映画制作に挑戦できる時代になった。映画撮影の未来を尋ねると、是枝は「新しい作家が出てくるのは間違いない」と断言しつつも、「フィルムからデジタルになったときにも失われたものは確実にありましたし、何を引き換えにこの便利さを手に入れるかということなのかと。文化が変化していくというのは単純なことではない」と続ける。iPhoneの進化に関しては「いい面は確実にありますから、それを取り入れながら自分の制作現場をどうアップデートしていくかが大切だと思います」と言葉に力を込めた。

iPhone 16 Proで撮影 短編映画「ラストシーン」本編

iPhone 16 Proで撮影「ラストシーン」の舞台裏

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おおとも ひさし @tekuriha

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