「ラストシーン」は、“未来に何が残り、何が消えるのか”をテーマとするタイムトラベル・ラブストーリー。脚本家の倉田が、自身の手がけるテレビドラマ「もう恋なんてしない」の脚本の改訂を依頼されたことから物語が展開する。ラストシーンを変えた彼のもとに、50年後からタイムトラベルしてきたという女性・由比が現れ、主演女優の孫であるという彼女は、該当シーンを再度書き直してほしいと依頼するのだった。仲野が倉田、福地が由比を演じ、黒田がプロデューサーの山瀬役で出演した。主題歌として、Vaundyの書き下ろし楽曲「まじで、サヨナラべぃべぃ」が使用されている。
本作には、是枝と「そして父になる」「海街diary」でタッグを組んだ瀧本幹也がシネマトグラファーとして参加した。是枝は企画を聞いた当時を「瀧本さんだったら面白がってくれるだろうと思いました」と振り返り、「普段から機材やフィルムにこだわりを持っている方ですし、iPhoneの機能を全部使って撮影することに貪欲で楽しそうな瀧本さんを見られて、僕も幸せでした」とほほえむ。仲野は「普段の撮影では僕らの目の前に撮影隊がブワーっているわけですが、iPhoneだとプレッシャーがない。リラックスして役に入っていけるのが新鮮でしたね」と振り返った。
福地は撮影の初日が観覧車のシーンだったと明かし、「iPhoneで撮影することが初めてで、“初の試み”として最初に映された瞬間はとても緊張しました。でも『これで撮れているのだろうか?』と心配になるくらい、カメラといい距離感を作ってくれたんです」と撮影現場の印象を口にする。仲野も「観覧車には是枝さんと瀧本さん、アシスタントさんと僕たち2人の計5人で入りました。従来の機材だったら実現できないシチュエーションなのですが、iPhoneのコンパクトさと機動力が効果的に働いていました」と続き、「沈みかける夕日の一瞬の時間を狙おうというタイトなスケジュールでしたが、ミニマムな撮影だからこそ、すごく濃厚な撮影ができたのではないかと思います」と充実感をのぞかせた。
「『いつもと違うな』と思うこともなく…」と切り出すのは黒田。「無意識に、自覚なく“圧のなさ”を感じられていたのはすごいことですよね。“撮っている側”と“撮られている側”のボーダーがすごく薄くなっているということ」と言及する。仲野はそんな彼を見やり「(従来の機材との)違いを探すことがむしろ難しいと感じるくらい、当たり前のように撮影できるスペックを持っているのが“新時代の到来”という感じですね」と語った。
リリーが扮したのは、まさに“新時代”を感じさせるようなキャラクター。彼が「今まで何度か是枝作品に参加していますが、今回が一番難しかった」と笑みを浮かべると、是枝は「いつも脚本を考えるとき、何かリリーさんが演じる役を考えてしまうんです。どこかにいてほしいなと……」と目線を送る。さらに是枝が「もうずいぶん(自作に)出ていただいているので、面白がっていただける役じゃないと『もういい』と思われてしまう(笑)」とキャラクター設定の裏を明かすと、リリーが「でも太賀の老けメイクのほうが面白かったから!」とツッコミを入れる一幕も。そしてリリーは「僕や黒田さんが10代の頃は、映画監督になりたいと思ったらまずお金をためなければいけなかった。こんなにきれいにiPhoneで撮れるのであれば10歳でも100歳でも監督になれますよね。俺も何か撮りたいなって思いました」と話した。
最後に仲野は「テクノロジーが発達して、近未来とされていたものが身近になっています。こうして当たり前のようにあった景色や人との触れ合いが、もしかしたら未来ではなくなってしまうのでは?という不安がある中、作品でその尊さを再確認できました」と言葉を紡ぐ。是枝は「とにかくやったことのないことをやってみようと、“短編”や“iPhoneでの撮影“、“タイムスリップもの”といろいろチャレンジしました。映画界を背負っていく2人(仲野、福地)と現場を経験できたことも、僕にとってとても新しくていい経験になりましたね」と晴れやかに語った。
なおYouTubeでは、撮影の裏側に迫ったメイキング映像も観ることができる。
名乗るほどのものではない @cxjwLOLQRaJQuUg
【イベントレポート】是枝裕和がiPhoneのみで撮影した短編配信、仲野太賀「新時代の到来という感じ」 https://t.co/lCiSepROFc