横浜聡子、早稲田の映画講義マスターズ・オブ・シネマで影響受けた1本と新作を語る

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映画監督の横浜聡子が5月1日に東京・早稲田大学で開催された講義「マスターズ・オブ・シネマ」に登壇した。

横浜聡子

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映像制作者たちが、制作にまつわるさまざまな事柄を語る「マスターズ・オブ・シネマ」。横浜は書籍「映画の言葉を聞く」にもまとめられている2016年の講義に続いて2回目の登壇となった。前回は横浜のキャリアをたどる内容だったが、今回は横浜が大きく影響を受けたというフレディ・M・ムーラー「山の焚火」を手がかりに、その魅力と自身の映画観を語った。講師は映画研究者の土田環。

「山の焚火」

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ヌーヴォー・シネマ・スイスの旗手の1人として知られるムーラーが、1985年にロカルノ国際映画祭で金豹賞を獲得した「山の焚火」。物語の中心となるのは、アルプスの山岳地帯で外界との交渉を絶ち、自給自足の生活を送る4人の家族だ。ろう者の弟は学校には通わず、父の手伝いをしながら教師志望の姉から勉強を教わっていた。あるきっかけで父の怒りを買った彼は、家を飛び出し山小屋で1人暮らすようになる。様子を見に来た姉と焚火を囲み一夜を過ごす2人。やがて弟は父と和解し家に戻るが、姉は弟の子供を身ごもっていたというストーリーだ。

20歳の頃に大学の視聴覚室で同作を鑑賞したという横浜。VHSによる小さなテレビでの鑑賞ながら「なんだかすごいもの観たという鮮烈な記憶だけは覚えていて」と当時を振り返る。講義中は横浜がピックアップした4つのシーンを参考上映。ここでは横浜が「本当にいろんなことが数分に詰め込まれた充実したシーン。自分が撮ると考えたらすごく難しい」と語る、弟が姉のラジオを奪い壊すシーンについて紹介する。

「山の焚火」

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望遠鏡のような大筒から、靴磨きをする姉をのぞき見る弟。少年の目にも画面にもラジオは映らず、ラジオから流れる音楽も聞こえていない。しかし、楽しげな姉の姿に何かを察知した少年は姉のもとへ走り出し、それに気付いた姉は隠していたラジオをさらに別の場所に隠す。横浜は「少年に主観的に響いている不穏な音から始まって、いつの間にかラジオの音楽に移行している。セリフはまったくないんですけど、2人の視線の交わし合いだけで、自分が聴くことのできないラジオに少年がフラストレーションを感じていること、姉が過去にラジオを壊されたことがある、というのがよくわかる」と説明する。

「マスターズ・オブ・シネマ」の様子。左から土田環、横浜聡子。

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そして姉弟は、全身もみくちゃになりながらラジオを奪い合う。横浜は「普通だったらここで姉は怒鳴るんですけど、弟を声に出して叱るのは無駄とわかってる。だから一切しゃべらずに肉体で弟へ飛びかかる。この急激なアクションへの展開、肉と肉のぶつかり合いが素晴らしいなと思います」と解説。さらに奪い合いの最中に流れるラジオの音の作り方にも言及し、「このシーンはラジオがもう1人の登場人物。2人の間で翻弄されるラジオはチャンネルが変わったり、音量が変わったり、どんどん変容していく。最後は(水に落とされて)声を奪われてしまう。監督は、物ですら生き物のように捉えようとしている。音はあとから付けられてますが、すごく精密に作られています」と続けた。

「山の焚火」

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本作の字幕翻訳を担当した土田曰く、劇中の物音や音楽だけではなく、登場人物たちのセリフもすべてあとから付けられたものだそう。土田は「観てるだけだとわかりづらいですが、演じている人たちは標準ドイツ語しかしゃべれない。セリフはスイスの方言なので、すべて吹替です」と述べ、横浜も「口とセリフがズレているのに本当に自然に見えてしまう。作り込まれたフィクショナルな部分がリアリティを超えて迫ってくる。こんなに作っちゃうの?と驚くほどあとから付け足された音ばかり」とムーラーのこだわりに驚嘆していた。

「いとみち」

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続いて土田は、弟の人物造形と横浜の監督作「ウルトラミラクルラブストーリー」で松山ケンイチが演じた主人公の類似を「言葉を介したコミュニケーションの成立が難しい青年」と示唆。ほかにも新作「いとみち」の津軽弁なまりに悩む主人公など、横浜の作品には「他人としゃべることが苦手なキャラクター」が多々登場する点に触れる。横浜は土田の指摘に同意しつつ「人が人とどうやって関係性を結んでいくか。そのことの難しさが、映画を作る根本にあります。無意識ですけど、毎回異なる主人公で、それをどう表現するか考えているのは間違いない気がします」と語った。

「いとみち」ビジュアル(青)

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講義では6月25日に全国公開を控える「いとみち」の話題も。越谷オサムの同名小説を実写化した本作は、無口で内気な高校生いとが、メイドカフェで働き始めたことをきっかけに、自分自身や身近な家族との関係を見つめ直す王道の青春映画。土田は、メイドカフェに比重が置かれていた原作に対し、映画では父親との親子関係が大きな軸になっている点に言及する。横浜は「メイドカフェと同じバランスで、今までもこれからも続いていくであろう父親との関係を描きたかった」と意識的だったそう。

原作にあった要素の取捨選択とテーマの拡大縮小の方法論を問われると、「脚本の第1稿は全部を盛り込もうとするからすごく長い。いろんな出来事がとっちらかってるし、実際に映画にすると4時間ぐらいになってしまう。何を残すかは計画的に考えてるわけではなくて、やりながらだんだんと要素をピックアップしていく。自ずと最後に残った要素が答え。最初からテーマが見えれば取捨選択しやすいんですが、私は逆で、あとから見えてくることが多いです」と答えた。

「いとみち」は6月18日より青森で先行上映。「山の焚火」はデジタルリマスター版が2020年にリバイバル上映された。現在上映予定はないが随時公式サイトで確認してほしい。

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