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森達也が日本のジャーナリズムに言及「劇的に変わる可能性はまだ残されている」

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左から森達也、河村光庸。

左から森達也、河村光庸。

i-新聞記者ドキュメント-」の記者会見が本日11月12日に東京・日本外国特派員協会で行われ、監督の森達也とプロデューサーの河村光庸が出席した。

本作は東京新聞社会部の記者・望月衣塑子の活動を追うドキュメンタリー。報道の問題点、ジャーナリズムの地盤沈下、社会が抱える同調圧力や忖度の正体に迫る。第32回東京国際映画祭では日本映画スプラッシュ部門の作品賞を受賞した。

「私」という意味を含む「i」がタイトルとなっている本作。森は「人は群れる生き物です。群れるからこそ文明を持つことができて、地球上でもっとも栄えている生き物になっています。でも群れには副作用があって、それは魚みたいにみんなが同じように動くこと。このときに人類は大きな過ちを犯す。We(集団)もI(個)もどちらも大事だけど、僕は日本人にはIが足りないと思っています」と持論を展開する。河村も森に同意するように「望月さんはまったく空気を読まないし、忖度もしない。この映画で言いたいことは政治的な圧力ではなくて、日本を危険に導いていく忖度。つまり同調圧力のことです。望月さんは官邸と1人で闘っていますが、その思いを表現したかった。日本に足りないものだと思うから」と力強く発言。「i」をなぜ大文字ではなく小文字にしたのか聞かれた際には、森が「かっこ悪いし、数字の1に見えちゃう。大した理由じゃないです」と淡々と述べ、会場を和ませた。

映画では伊藤詩織や森友学園、沖縄・辺野古に関する事件がフィーチャーされている。これに関して森は「いろいろな事件や災害が日本では起きてますが、映画で扱っているのは、大きい事件であるにもかかわらずいつの間にか忘れられていたもの」と説明。また、かつてテレビ番組を制作していたことを振り返りつつ「昔に比べて今は調査報道が減っている。それは日本人が新しいもの、刺激的なもの、与えられたものにすぐに反応するから。調査報道がもっと必要だと僕は思っているし、望月さんもそうだと思う」と語った。

「A」「A2」といったオウム真理教に関するドキュメンタリーも手がけてきた森。「朝から夜までテレビではオウムの特番だらけ。オウムを撮らないと仕事にならないと思っていました。でも、僕以外は誰も撮っていないことに気付いた。オウム真理教という絶対的な悪に対して、撮影という交渉すら許されない風潮があったと思います」と回想する。そして「森達也はすごいでしょうか?」と報道陣に問いかけ、「……すごくないですよね。普通のことをやっただけ。望月さんも同じで、政治権力に質問をして、納得できなかったらまたぶつける。当たり前のことをやっているだけなのに注目されて、映画化もされてしまう。それは周りが地盤沈下してるからだと感じます」と日本のジャーナリズムに言及した。

望月の行動によってメディアは変わっていくかと問われた森は「難しいかもしれない」とつぶやく。それから少し考えたのち、「ただ、このままじゃいけないんだという気持ちを本気で持てば、望月さんの影響を受けなくても、この映画を観なくても人は変わる。派手な動きはしていなくても今のジャーナリズムをおかしいと思ってる方はたくさんいます。劇的に変わる可能性はまだ残されていると思う」と吐露。河村は「プロデューサーとして感じることは政治権力を恐れることはないということ。同調圧力は恐ろしいけれど、それは幻を怖がっているだけ。(映画製作において)政治の直接的な圧力はなかったし、『新聞記者』もヒットしました。どんどんぶつかっていきましょう」と自身の体験を踏まえてメッセージを送った。

「i-新聞記者ドキュメント-」は11月15日より東京・新宿ピカデリーほか全国で順次ロードショー。

(c)2019『i –新聞記者ドキュメント-』

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