女性アクションの広がりと「ベビわる」がもたらしたもの
女性アクションも、この10年でよりいっそう存在感を増してきた。中でも筆頭として語られるのが「ベイビーわるきゅーれ」シリーズだ。監督を務めた阪元のもと、三元が俳優、園村がアクション監督として参加した同作は、
阪元裕吾 逆に今、なんでも「ベビわる」と言われがちで。女の子が戦う=「ベビわる」みたいな。でも、それって単純に数が少ないからなんですよね。女性が主役で戦う作品がもっと増えればいいのにとずっと思っていますが、なかなか難しいんだろうなとも感じていて。いわゆる“アクションスター”って、どうしても男性に偏ってきた歴史があるじゃないですか。芸能事務所側の意向もあるのか、女性アクションスターって日本では育ちにくい。岡田准一さんとかリーアム・ニーソンみたいに「この人が出てくれば絶対戦うでしょ」という期待感のある女性俳優がもっと増えてほしいんですよ。「ベビわる」は、そこをひたすら担っていたという意識はあります。
三元雅芸 日本の芸能界では、1人の俳優を“アクション専業スター”として育てるのが難しいですよね。所属プロダクションも幅広いジャンルの仕事をさせたいという考えがあるでしょうし。でも「ベビわる」での伊澤さんの存在はアクション界にとって革命でした。スタント出身で主演を張る……彼女の活躍によってスタントウーマンを目指す若い子も増えたと思うんです。
阪元 実際そうみたいですよ!
三元 やっぱり! ただ、ここからさらにつなげていくにはプロダクション側が「アクションを武器にできることのすごさ」をきちんと認識し、どう育てるかが重要になってきます。海外のようなサポート体制を整え、俳優自身のモチベーションを維持できる環境に。そういう土壌作りが女性アクション作品の数を増やすことにもつながっていくんだと思います。
園村健介 アクションを作る側の視点で言えば、女性だから・男性だからと大きく作り分けることはあまりありません。でも昔の女性アクションって、男性キャラとの対比として肌を露出したり、アクションに向かない衣装が多かったんです。そのあたりは、ここ数年で変わってきたと感じます。動きに関しても、自分としては、女性らしさを強調したアクションより、ズタボロになるまで戦う姿のほうが感情移入しやすいと考えていて。セクシーさは不純物に見えてしまうので意図的に排除しています。だから女性か男性かで考えるより、「このキャラがどう追い込まれ、どう戦うのか」というシチュエーション作りに一番気を配っています。そこがしっかり設計されていれば自然と個性が立ち上がると思うので。
日本アクションの課題と希望
アクションの現在地を語ってきた3人に、最後は「次の10年」に望むことを聞いた。日本のアクションはどこへ向かうのか。何が課題なのか。それぞれの立場から、率直なビジョンが語られた。
園村 海外の現場もいろいろ見てきましたが、アクション部の技術そのものは日本が本当にトップレベルだと思います。海外は特化型の人材が多いのに対して、日本のスタントマンはみんなオールラウンダー。客観的に見てもしっかりしているなと。ただ、そのスキルを最大限に生かせる制作体制がまだ整っていないのが現状です。もしハリウッド並みの予算があったら、どれだけできるんだろうと悔しくなる瞬間もあります。だからこの先10年で必要なのは、“輸出できるアクション産業”の仕組み作りだと思います。……誰か偉い人が本気で動いてくれないといけないんですけどね(笑)。
阪元 本当に、みんな必死に工夫して、なんとかギリギリを攻めてますもんね。
園村 そうなんです。仕事のやり方も、悪い意味でプロとして円熟してきたなと感じることがあって。今は現場の人間が本当に“ちゃんとしている”んですよ。だから新人が入ってきても「いや、そのやり方は違う」と一蹴してしまうんです。でも、違うアプローチを試すことで生まれる発見もある。もっと自主映画みたいなフットワークの軽さで「やってみよう」「ダメだったね」と失敗が許される環境にしていかないと、今以上のイノベーションは生まれないと思います。
三元 技術の面で言えば、日本のスタントマンは本当にレベルが高いですし、剣術や柔術といった日本古来の武術も世界のアクションに大きな影響を与えています。「ジョン・ウィック」とかね。そういった日本ならではの強みに、もう一度立ち返るのもいいんじゃないかと感じています。あとは……とにかく夏はキツい! 空調の効いた巨大スタジオでマーベルみたいにグリーンバック撮影ができるようになったら、日本のアクションはもう一段階レベルアップできるはずです(笑)。
阪元 脚本やトレンドの話だと、とにかく“速くてデカい”が世界的に主流ですよね。「ジョン・ウィック」も「ワイルド・スピード」もシリーズを重ねるごとに派手になって……もちろん、ああいう作品も超面白いんですけど、日本映画がそこに無理に乗っかる必要はないと思っていて。最近も「トワウォ(『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』)みたいなの期待してます」って言われたんですけど、予算も制作環境もまったく違う中で海外の流れに合わせようとするのは、本質を見失う危険がある。この前観た「プレデター:バッドランド」は、めちゃくちゃオーソドックスな三幕構成だったんですよ。主人公が一度敗れ、仲間ができて、最後に強敵を倒す。それだけ。でも、それだけでシリーズ歴代最高のヒットになっている。だから結局は「面白い映画を堅実に作る」。これに尽きると思います。
三元 確かに。評価されたりヒットしている作品って、物語とキャラクターがしっかり際立ってますよね。
阪元 愛しいキャラクターがいて、伝えたいメッセージがあって、そこに観客をワクワクさせるアクションがある。そうやって、この先の10年も面白い映画を堅実に撮り続けることを目指したいです。
参加者プロフィール
三元雅芸(ミモトマサノリ)
1977年5月3日生まれ、大阪府出身。ジャッキー・チェンに憧れ、中学3年生のときに空手で全国2位になる。近年の出演映画は「HYDRA」「燃えよデブゴン TOKYO MISSION」「BAD CITY」「⻤卍」「ゴーストキラー」など。2021年公開の「ベイビーわるきゅーれ」では、超人の戦闘能力を持つ男・渡部を演じた。アクション監督として「オカムロさん」「悪鬼のウイルス」などにも参加。「鬼卍」やショートドラマ「私人逮捕系ユーチューバーの俺vs島」では主演兼アクション監督を務めた。
園村健介(ソノムラケンスケ)
1981年1月4日生まれ、宮城県出身。学生時代に倉田アクションクラブに入団、スタントの基礎を学ぶ。退団後、フリーの時期を経て2003年にユーデンフレームワークスに所属。主なアクション監督作品は「ベイビーわるきゅーれ」シリーズをはじめ、「マンハント」「陰陽師0」など多数。2019年に「HYDRA」で監督デビューを果たし、「BAD CITY」「ゴーストキラー」も手がけた。2026年春に放送・配信のドラマ「ちるらん 新撰組鎮魂歌」、同年に世界配給される谷垣健治監督作「The Furious(原題)」にアクション監督として参加している。
阪元裕吾(サカモトユウゴ)
1996年1月18日生まれ、京都府出身。「べー。」で残酷学生映画祭2016グランプリ、「ハングマンズノット」でカナザワ映画祭2017の期待の新人監督賞に輝いた。2021年公開の「ベイビーわるきゅーれ」が大きな評判を呼び、その後も映画2作とドラマ版が製作される。2025年には「ネムルバカ」や、「最強殺し屋伝説国岡」シリーズの最新作「フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡 [私闘編]」が公開。2026年1月9日よりテレビ東京でドラマ「俺たちバッドバーバーズ」が放送される。2026年春公開の香港・日本の合作映画「殺手#4(キラー・ナンバー4)」では脚本監修を担当した。
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アンドロメダ銀河 @byNGC224
ハイローの裏話ある!撮影スケジュールに予備あるの凄いね。
阪元監督が「ハイローの裏話貴重です…!」て言ってて笑った…そのうち阪元監督が撮るハイローとか見れないかな〜!ハイローならやりかねない…🤔 https://t.co/GqgXTpnSAY