高岩成二

夏のスーツアクターってどうやってお仕事をしているの?

“ミスター平成仮面ライダー”高岩成二インタビュー

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気温35度を超えることも珍しくなく、時に40度に迫る日本の夏。この酷暑の影響をもっとも受けている仕事の1つは、特撮番組のスーツアクターではないだろうか。日陰のない採石場で、ウエットスーツと硬質ウレタンの防具で顔まで覆い、照明を浴びながら、時には爆炎のある現場で、激しいアクションをする。そんなスーツアクターという仕事の実情が気になった映画ナタリーは、“ミスター平成仮面ライダー”こと高岩成二に話を聞いた。

高岩はヒーローショー、スーパー戦隊シリーズのスーツアクターを経験したあと、「仮面ライダーアギト」から「仮面ライダージオウ」まで(「仮面ライダー響鬼」を除く)18人の主役ライダーを演じた人物だ。このインタビューでは過酷な撮影エピソードだけでなく、本人や撮影現場スタッフがどういった心構えで暑さという敵に挑んでいるかについても聞くことができた。さらに本日8月16日に発売された著書「スーツアクター高岩成二」の紹介や、9月3日にスタートする「仮面ライダーガッチャード」で主人公ライダーのスーツアクターを担当することが発表された永徳へのメッセージもあるので、特撮ファンはぜひ目を通してほしい。

取材・/ 松本真一 撮影 / 菊池茂夫

黒いスーツは直射日光がつらい。デザイン的にきつかったのはあのライダー

──仕事中の雑談で「この暑さだと外でお仕事してる人は大変なんじゃないか」「一番大変なのは特撮のスーツアクターでは?」という話が出まして。実際、現場はどんな感じだったのかを詳しく聞きたいなと思い、お話を聞きにきました。

よろしくお願いします。今、戦隊はほぼロケには出ずにオールセットでやってるらしいですけど。

──放送中の「王様戦隊キングオージャー」はLEDパネルに映した背景を使っていることが話題になっています。ファンタジー世界を再現できるだけでなく、撮影が天候に左右されないというのも利点ですよね。うらやましさもあるのでは。

室内だとバイクや大型のクレーンが使えないので、アクション面ではやれることに制約が増えるのかもしれないですけどね。でも暑さ、寒さをしのげるのはいいことだと思います。

──まず基本的なことから伺いたいんですが、スーツはどういった素材なんでしょう。

仮面ライダーだと、お芝居用のアップ用スーツと、アクション用スーツがあります。アップ用スーツはその作品やキャラクターにもよるんですけど、薄いウエットスーツですね。アクション用はカメラから見えづらい部分がメッシュになっていて、若干熱が逃げてくれるという違いがあります。ただライダーはスーパー戦隊より装飾が多いので、その中でも熱はこもりやすいんですけど。

──暑さ的な意味では戦隊よりライダーが大変なんですね。暑いスーツを着ると冬は温かいのかな、と思ってしまうんですが。

いえ、寒いです(笑)。素材が半分はゴム素材だったりするので、素材が冷えると熱を持っていかれますね。装飾の材質は硬質ウレタンで、夏場は柔らかいけど冬場は素材が固まってアクションの枷になっちゃうこともあります。戦隊とライダーの違いで言えば、戦隊の衣装は洗濯できるものが多いんですが、ライダーは装飾が多くて洗濯機に入れられないんです。手洗いはなんとかできますけど、毎回手洗いするわけにもいかない。

──じゃあどうしてるんでしょう。

脱いだあと、水で薄めた焼酎をシュッシュッとスプレーでかけてます。小道具担当の人がいろいろ試してみたところ、市販の消臭スプレーだと、かえってニオイが混ざって臭くなるんですって。焼酎を振りかけるのが一番臭いニオイがなくなるし、除菌にもいいそうですよ。

──映画などで数年前のライダーがゲスト出演することがありますけど、そういう場合にも過去のスーツは臭くなってはいない?

そうですね。「絶対カビてるんだろうな」と思ってたけど、管理がちゃんとしてるので。多少の古臭さのニオイぐらいです。

高岩成二

高岩成二

──ライダーの中でも、スーツの色などで暑さに違いはありますか?

カラーリングのベースが黒のライダーって特に平成初期は多かったんですが、黒はやはりきついですね。仮面ライダーウィザードも、ほぼ真っ黒で直射日光がつらかったです。

──デザイン面で言うと、パーカーを着た仮面ライダーゴーストが見るからに暑そうです。

あれはちょっと……つらかったですね(笑)。甲冑の上にさらにパーカーという二重構造なので。

──基本フォームはパーカーですけど、フォームチェンジの1つ「ニュートン魂」だとダウンジャケットっぽくなりますし。

あれはなんでダウンなんでしょうね(笑)。中は多分ウレタンとかなんですけど、あのフォームは撮影が初夏だったんですよ。

──うわあ(笑)。

あとはスーツの話じゃないんですが、照明さんのレフ板で光を当てられると、熱をもろに感じてしまうんです。それがさらに「龍騎」のときは、戦いの舞台が「ミラーワールド」っていう鏡の中の世界だったんで、レフ板じゃなくて鏡で直接太陽を反射させた光を演者に当てていたんですね。照明さんのアイデアで。それが火傷するような熱さだったのは覚えてます。

──独自の世界観の裏にそんな苦労が……。ちなみに高岩さんはヒーローショーの経験もあるそうですが、テレビのロケ現場とヒーローショーではつらさの違いはありますか?

ロケだと朝から丸一日なんですけど、ショーだとひとまず30分がんばれば一応終わる、ってのはあります。ただしショーはナマモノなのでお客さんの前で倒れるわけにもいかない。そこをなんとかしのぐつらさはありましたね。ショーを請け負ったメンバーが人数ギリギリだったら、1人が倒れたら代わりが利かなくて中止になってしまいますし。

──ほかに暑さ的な面で、つらかった現場は。

特撮なので火を扱うことは多々ありますよね。爆破であったりとか、カメラと演者の間に火を起こして火越しの画を撮ったりとか。そういうのは冬場だったらありがたいんですけど、夏場に火をたかれるときついです。

──聞いててしんどくなってきました(笑)。とにかく汗をかくと思うんですが、1日で一気に痩せてしまうこともありますか。

仕事を終えて、家に帰って体重を測ったら2~3kg落ちてたことはありますね。

──それはもちろん、ちゃんと水分を取りながらですよね?

はい。というか食事も喉を通らないんで、水分しか取れないです。

──そうなると体重や筋力のキープも大変なのでは。

キープしようとかじゃなくて、その日その日をなんとかごまかさないと撮影が終わらないですよね。

──つらいですね……。くだらない質問で恐縮なんですけど、普段死ぬほど暑い思いをしてるじゃないですか。プライベートでサウナに行くことってあるんですか?

今は行きますけど、現役のときは絶対行かなかったですね。これ以上汗を出しちゃったらスジと皮だけになっちゃうんで。

──8月16日に上梓された著書「スーツアクター高岩成二」の中でも、何度か撮影中にダウンされたというお話がありましたね。

毎年つらいんですけど(笑)、印象に残ってるのは「555」のときですね。7~8月の真夏だったと思うんですけど、暑さにやられてしまって、午前中でヘロヘロになりました。あとは「劇場版 さらば仮面ライダー電王 ファイナル・カウントダウン」の撮影で、アクションしながら、セリフも言いながらのワンカット長回しがあって。「カット」が掛かる前に倒れて、あれは死ぬかと思いました。

「スーツアクター高岩成二」書影

「スーツアクター高岩成二」書影

──そのときは入院などはされたんでしょうか。

そこまでではなかったんですけど。全部脱がされて、横にされて、しばらく休んで撮影再開しました。それでも基本、現場を止めたことはなかったんですけど、1度だけ「仮面ライダードライブ」で初めて現場を止めたことがあります。暑さがどうにもならなくて、スーツを脱いで休ませてもらいましたね。それもあと少しで撮影が終わるとこだったんで、時間をもらってなんとか踏ん張って撮り終えました。

──過去の経験から「こうなってきたら熱中症のサイン」というのはあります?

僕の場合はですが、周りの音が聞こえなくなりました。こもった感じになるのと、声が出なくなる。あとテンションが変に高くなっておしゃべりが多くなりましたね。どれが先に来るかそのときによるんですけど。だから周りにそういう人がいて「ヤバいな」と思ったらすぐ撮影を止めて、スーツを脱がして横にするようにはしてます。

──制作現場としては、そういうことがあると対応が変わっていくものですか。休憩が増えたりとか。

現場は以前から制作さんにちゃんと対応していただいてます。こういう暑い時期に入ってきたら、いろんな準備はしてもらってますね。でもそれが必要ないときもありますし、思いっきり必要なときもある。やってることが毎回違うので、どういうときにどういう状況になるかっていうのが、制作さん側もわからないのは大変だと思います。

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後輩には「根性で仕事をするな」と伝えている

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