ビニールタッキーの「月刊おもしろ映画宣伝」 2024年12月号 [バックナンバー]
年の瀬に改めて考えた、おもしろ映画宣伝の基本的な要素
“おもしろ”には2種類ある
2025年1月10日 11:30 3
映画会社は、日々工夫をこらし、作品の魅力をPRしようと努力している。時には評論家や俳優が真面目に作品の魅力を語り、時には他ジャンルとコラボし客層の拡大を図り、時にはダジャレやこじつけでSNSでのバズりを狙い……。そんな施策を日々ウォッチしている“映画宣伝ウォッチャー”ビニールタッキーが、前月気になった映画の記事についてコメントする連載が、「月刊おもしろ映画宣伝」だ。
今月取り上げたのは「
文
「月刊おもしろ映画宣伝」12月号をお届けします。「おもしろ映画宣伝」とは、海外の映画を日本で宣伝する際に発生する面白いPRイベントや不思議なコラボなどの案件をまとめて総称するために私が勝手に名付けた名前です。このコラムはその月にあったおもしろ映画宣伝をピックアップする連載コラムです。今月もご紹介していきましょう!
「マインクラフト/ザ・ムービー」
映像には「まさか!あの世界一売れているゲーム“マイクラ”が映画化!?」「ようこそ、四角形の世界へ!」とハイテンションで紹介する狩野の声が。収録を終えた彼は「正直どこがCGで、どこが本物なのか? 分からないくらい全てが溶け込んでいて、まさにマインクラフトの世界を再現されていました!」と伝える。そしてスティーブと自身を重ね「大人になったらゲームしなくなるだろうなって思っていたけれど、子供のときよりやってるんですよ(笑)。なんかね、すごい夢がありましたね!」と興奮気味に述べた。
この連載が始まってからずっと注目してきたタレントナレーション予告編ですが、年末に有終の美を飾ったのは
「マインクラフト/ザ・ムービー」日本版予告 (ナレーション:狩野英孝)
「野生の島のロズ」
ハリセンボンの 近藤春菜と 箕輪はるかが長編アニメーション「野生の島のロズ」の宣伝アンバサダーに決定。日本語吹替出演をしていることもわかった。
ハリセンボンが宣伝アンバサダーに就任、ということですが私がこのニュースで注目したのはこの部分です。
近藤は長年「シュレックじゃねーよ!」のネタでドリームワークスに世話になっていると明かし「シュレックさんで光熱費払わせてもらってるみたいなところありますから」と感謝を伝える。さらに綾瀬と“ダブルはるか”での出演となった箕輪は「一生懸命やらせていただきました」とアフレコを回想。彼女の演技を見守った近藤は「鬼気迫る声を出してました」と太鼓判を押した。
シュレックネタでお世話になっている、そしてダブルはるかである、という絡め方、いいですね。お笑い芸人さんが関わる映画宣伝はいっぱいありますが、こういうふうに芸人さんと映画を絡ませる面白いネタが1つでもあると説得力が倍増しますね。
「ライオン・キング:ムファサ」
サンドアートでは劇中のムファサとタカの関係性が表現されており、右近と松田がナレーションを務めた。製作を担当したサンドアーティスト・画家のKoheiは「サバンナの雰囲気に合いそうな細やかな黄色砂を使用しました。短い映像ですが、どのシーンもキャラクターの生命感や、その個性からくる表情を尊重し、シーン毎の変化では物語の繋がりを大切にして描きました」とコメント。さらに「映像を通して少しでも映画の魅力を感じてもらえればとても嬉しいです!」と伝えている。
日本でもすっかり認知度が高くなったサンドアート。今回は「ライオン・キング:ムファサ」とのコラボということで、サバンナの雰囲気に合いそうな細やかな黄色砂を使用したというこだわりに唸ります。実際のアートも素敵なのでぜひご覧ください。
映画「ライオン・キング:ムファサ」特別映像
2019年公開の前作から引き続きティモンを演じた亜生。彼は「5年前は何もわからない状態だったので勢いでできたところもありましたが、今回は前作を超えたい!という思いがありました。監督からは『ティモンはみんなのことを思っているようで、自分のことしか考えてない。だからある意味、感情を入れないで』とアドバイスを受けました。楽しく演じられましたし、自信があります!」と胸を張る。
「ライオン・キング:ムファサ」といえばこんなイベントも。前作に引き続き
MCから、本作の内容にちなんで「兄弟の絆を感じられるエピソードは?」と質問されると亜生は「今、まさにです。弟のために朝からこんな格好をしてくれて……」と昴生に感謝する。昴生は「そうなんです。僕にはいっこうに声優の話はありません」とこぼしつつ「弟ががんばっているので応援します!」と意気込んだ。
ちゃんとその点に言及してくれているのが泣けます。考えてみれば「ライオン・キング:ムファサ」は兄弟の話なのでミキのお二人は的確なゲストでしたね。
「ビーキーパー」
ステイサムからのお年玉”は、ステイサムがデザインされた硬貨風ステッカー。裏面は“ステイサムみくじ”になっている。公開初日の1月3日より、特製ポチ袋に入れられ数量限定で配布される。
お正月の1月3日から公開ということにちなんでお年玉配布(中身はステイサムみくじ)という景気のよさがいいですね。ほかの俳優さんだったらこういう“おもしろ”な入場特典はあまりないかもしれませんが、
「バグダッド・カフェ(4Kレストア版)」
パーシー・アドロン監督作「バグダッド・カフェ(4Kレストア版)」が、12月13日より全国で順次公開される。それに先駆けて、東京・渋谷のミニシアター、シネマライズで運営や作品編成を手がけた代表取締役・頼光裕と専務取締役・頼香苗のコメントが到着した。
1989年に渋谷で公開されてミニシアターブームを牽引した映画「バグダッド・カフェ」。そのリバイバル公開に合わせて運営を手掛けた関係者の方々にお話を聞くという記事がとても面白かったです。こちらは“興味深い”という意味での“おもしろ”映画宣伝ですね。
1989年当時、シネマライズは開館3年目で松竹の直営館だった。この頃の作品編成は松竹や松竹富士が主体で行われていたが、「バグダッド・カフェ」はその例外にあたる1本で、初公開時の配給会社KUZUIエンタープライズの案内で試写を鑑賞したのが出会いだった。2人はシネマライズでの上映を直感で即決したといい、「この映画の魅力はやっぱり音楽。『コーリング・ユー』を聴いて、これはやるしかないでしょ、絶対いける!と思った」と当時を振り返った。
上で紹介したエピソード以外にも面白い話がたくさんありますのでぜひご覧ください。私のように後追いでこの作品を見た人間にとって、当時のミニシアターブームの盛り上がりを感じられるとてもありがたい記事でした。リバイバル作品ではこういう当時の関係者のお話を聞くのも宣伝として十分に機能すると感じました。
「モアナと伝説の海2」
公開された2本の映像は、劇中歌「ビヨンド ~越えてゆこう~」と、映画のオープニングを飾る「帰ってきた、本当のわたしに」という、いずれも屋比久知奈が歌唱する楽曲を使用。ディズニー・アニメーション・スタジオも公認しており、キャクターデザインのすり合わせからストーリー演出に至るまで、何度も安田とラリーを繰り返し完成した。安田は今回の企画参加にあたり「ディズニー作品に勇気をもらってきましたので、世界中から愛されるディズニー作品の中で『モアナと伝説の海2』の3Dショートアニメをご依頼頂いたことは、とても嬉しい出来事でした」と語った。
12月は「モアナと伝説の海2」の宣伝が強かったですね。しかもこれまでのディズニー映画とは少し違う路線の宣伝が多かった印象でした。そのうちの1つがこちらのアニメーション作家・
3Dショートアニメ「ビヨンド ~越えてゆこう~」
12月6日に公開される映画「モアナと伝説の海2」の劇中歌「ビヨンド ~越えてゆこう~」を話題のアーティストたちが独自のアレンジを加えて歌唱するトリビュートコレクションの実施が決定。こっちのけんと、 星街すいせい、 川崎鷹也、よみぃ、 井上苑子の参加が決定した。
こちらも独自の宣伝で強く印象に残りました。「劇中歌を話題のアーティストたちが独自のアレンジを加えて歌唱するトリビュートコレクション」ということで若い世代やインターネットなどを中心に人気のアーティストが集結している印象です。こういった試みでアーティストのファンの方々が映画を知る機会の1つになるのはいいことだと思います。
ビヨンド ~越えてゆこう~ / 星街すいせい【『モアナと伝説の海2』 Special Tribute】
そして最後は私が勝手に決める今月のMVP(モスト・ヴァリュアブル・プロモーション)。今月はこちらです!
「モアナと伝説の海2」は、海を愛する主人公・モアナが新たな運命へと漕ぎ出す冒険物語をディズニーらしい数々の音楽が彩るミュージカルアドベンチャー。前作「モアナと伝説の海」から使用されている1曲を除く全楽曲の日本語訳詞をDiggy-MO'が担当したことでも話題を集めている。
やはり今月は「モアナと伝説の海2」の独自の宣伝が強かったですね。ミュージカル楽曲について前作から使用されている1曲を除いて全楽曲をDiggy-MO'さんが日本語訳したということでとても話題になりました。確かに今までもミュージカル映画の訳詞を著名なアーティストやプロデューサーが手がけるということはありましたが、ラッパーの方が手がけるという点でとても気になる話でした。そして私が一番注目したのはDiggy-MO'さんの日本語訳詞に対するこだわりです。
Diggy-MO'は「物語全体の中での機能美を考えた場合、作り込んでいく『詩的な』『音楽的な』マニアックなこだわり以外に、老若男女、幅広い層の方たちにも“ナチュラルに親しんでいただけるようなものづくり”というのも、自分の念頭にかなり大きな割り合いであったので、そういった塩梅を探っていくのも興味深く、すべての過程の中でとても勉強になりました」とコメント。
さらに「次の世代へと繋いでいく子どもたちが、ふと口ずさんでいたり、あるいは、難しいけどちょっと挑戦してみたくなるような気持ちが自然と芽生えていたり、そんな理想に叶うことができたならば、それが一番素敵でうれしいことだなと思っています」と楽曲に込めた思いを明かした。
素晴らしい! 実際に私も「モアナと伝説の海2」を吹替版で鑑賞したのですが、元の楽曲への日本語の当て方が巧みでありながら、リズムや韻にだけにこだわらず、日本語としてちゃんとわかりやすく意味の通る歌詞になっているのが素晴らしいと思いました。何よりも歌が重要な意味を持つ映画でこの「ノリのよさ」と「わかりやすさ」のバランスがしっかり取れているのはすごいと感じました。技巧的でありつつポップさも兼ね備えているという、まさにDiggy-MO'さんらしさが生かされたお仕事でした。
「モアナと伝説の海2」日本版本編映像「できるさ!チーフー!」(マウイ役:尾上松也)
2024年12月のおもしろ映画宣伝は思わずフフッと笑ってしまうような“おもしろ”と、興味深くて注目してしまうような“おもしろ”の2つがあったと思います。「マインクラフト/ザ・ムービー」の狩野英孝さん、「野生の島のロズ」のハリセンボン、「ライオン・キング:ムファサ」のミキなどのお笑い芸人さんの“おもしろい“映画宣伝もありつつ、「ライオン・キング:ムファサ」のサンドアート、「モアナと伝説の海2」のショートアニメ、「バグダッド・カフェ」の元担当の方のお話など、興味深いほうの“おもしろい”映画宣伝もありました。私はどちらも楽しくて大好きですし、どちらか片方の映画宣伝だけではなく、両方あることが一番だと思っています。2024年最後の月を振り返るコラムで、改めてこのようにおもしろ映画宣伝の基本的な要素について気付かされたのはよかったと思います。
以上、月刊おもしろ映画宣伝2024年12月号でした。次回もお楽しみに!
バックナンバー
ビニールタッキー @vinyl_tackey
映画ナタリーさんでの連載コラム「月刊おもしろ映画宣伝」2024年12月号を書きました!2024年最後のコラムは「おもしろ映画宣伝って笑える”おもしろい”と興味深いという意味での”おもしろい”の2つがある」という基本に立ち返ることができました。ぜひご一読ください!
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