淡々と生死に向き合う「春になったら」は号泣必至、「Eye Love You」の大発明とは？冬ドラマ後半戦

取材・文 / 脇菜々香・尾崎南 題字イラスト / トモマツユキ

最終回が結婚式の当日になったら、大号泣必至です（綿貫）

──後編では、1月15日以降にスタートしたドラマを扱います。前編の座談会後、お二人とも「春になったら」を激推ししていましたが。

綿貫大介　情報が解禁されたときに、「地味なんだけど絶対いい！」というのがストーリーだけでわかったし、どうしてもドラマチックにならざるをえない人の生と死を真面目に描くぞという意思が伝わってきます。

明日菜子　（奈緒演じる）娘が3カ月後に結婚して、（木梨憲武扮する）お父さんは3カ月後に亡くなってしまうっていう設定がわかりやすい。2024年冬ドラマだと「仮想儀礼」とともに頭一つ抜けてる感じがします。ストーリーもキャストもいいし、昔だったら無駄にドラマチックに感動を煽るような形になってたかもしれないですけど、すごく淡々とした死生観がいいですよね。第1話で（「杉村助産院」の院長・杉村節子役の）小林聡美さんの「生まれてくる瞬間は特別だけど、日常の一部なんですから」というセリフがあって、たぶんこの作品では人の死に対しても同じ向き合い方をしているのかなと思いました。

綿貫　死だけじゃなく、対局として助産師の仕事を通して生まで描くのが完璧。挙式予定日の3月25日ってリアルに最終回の放送日っぽいじゃないですか。最終回で結婚式が描かれたら、大号泣必至です。

──絶対に泣いてしまうとわかってるのに観れる、ってすごいことですよね。

明日菜子　やっぱり、ノリさんをキャスティングできたことが大きいと思います。彼のパブリックイメージもあって、普段明るい人がどんどん病気で弱っていくシーンにたまらなくなる。

綿貫　あとメタ的ですけど、（濱田岳演じる）お笑い芸人のカズマルくんに対して意見することとかも、ノリさんがお笑い芸人って知っているからリアルに観れるし、うまい。

明日菜子　カズマルくんのネタは全然つまらないと思うんですけど（笑）、「ドンマイドンマイ、僕はすきだよッ！」に救われてる人がいるっていうのは、令和のお笑い描写としてはすごいリアルだなと思う。

綿貫　あのネタ、どこかで誰かへのメッセージとしてちゃんと披露しそうだなと思っています。

明日菜子　ですよね。父・雅彦は“死ぬまでにやりたいことリスト”を実行していくんですけど、その1つとして中井貴一さん演じる同級生（神健一郎）に謝りに行く回があって。あれはドラマ史に残る超いいシーンだった！

──あんまり見ない斬新な設定じゃないですか？ お父さんの謝りたかったことに娘が付いて行くって。

明日菜子　雅彦はもともと神に謝りたいことがあったんですけど、実は神も雅彦に謝りたいことがあって、そっちのほうがウェイトが重いんですよね。でも雅彦は全然気にしてなかったっていう。彼の大らかな人間性が見えました。

綿貫　（自分の）心が荒れてるのかな？ 毎週癒しの効果を期待しつつ観ちゃうところもある（笑）。でも、全面的に“泣かしにくるぞ”っていう戦略じゃないのはありがたいです。

明日菜子　画面が明るくて温かいから、映像だけでは死を扱うストーリーって連想できないのもポイントだと思っています。実際に人が亡くなるときって、このドラマみたいな空気の中でふと訪れることもあると思うので、それを表現したいのかなと。福田靖さんの脚本もすごく明快。

綿貫　今後については、病院パートを極力減らしてほしい……。光石研さん（演じる緩和ケア医・阿波野弘）と話すぐらいならいいんですけど、ベッドでの面会シーンとかが増えてくるとつらくなっちゃうから。

──確かに、雅彦が明るく楽しいパパだから観れてるっていうのがありますよね。

綿貫　本当につらいシーンを入れるのか、ぽっくり逝くのかによっても変わってくると思うけど、「娘の結婚式だけは見届けてあげて」と思っています。

明日菜子　最終回まで目が離せないですね。

高橋惠子さんの「早く逝ってください」はすごかった（明日菜子）

──生死を扱うドラマとしては、NHKで「お別れホスピタル」も始まりました。

明日菜子　これもいい作品です。

綿貫　本当に丁寧に作られてる。脚本家の安達奈緒子さんが、以前「透明なゆりかご」（2018年）で人が生まれてくる現場を描いたのに対して、今回は老人たちが死んでいく現場を描いている。まず観ていて思うのは、俳優は歳を取ると役が狭まっていくし、おじいちゃん役、おばあちゃん役の数少ない枠を争うから出づらくなるじゃないですか。その世代の名優たちがいっぱい出てくれるのがぜいたくなんですよ。

明日菜子　わかる！ 岸井ゆきのさんとかメインキャストももちろんいいんですけど、やっぱりゲストのベテラン勢が本当にすごい。泉ピン子さんとか！

綿貫　2話の高橋惠子さんとピン子さんの友情のやりとりが素晴らしくて。（旦那の介護という）同じ境遇や苦しみを抱えながらそれぞれ違うやり方でケアをしている2人が、かわいいハンカチを通してつながる、みたいなのがうますぎる。

明日菜子　高橋惠子さんの「早く逝ってください」……あのセリフすごかった。1話の古田新太さんも印象的でしたよね。

綿貫　こんな感じでどんどんキャストが入れ替わっていくの？ってびっくりしちゃった。でも、それはつまり亡くなるってことだから、毎回こちらも受け止めなきゃいけない。（病院の）空室に慣れていくことも含めて、死と向き合うすごくいい作品だなと思いますね。

明日菜子　病人とか老人と聞くと穏やかでおとなしいイメージを抱いてしまいがちなんですけど、原作自体がリアルな声を丁寧に取材しているから、その印象が覆されます。原作者は「透明なゆりかご」と同じ沖田×華さんで、今回も安達さんとの組み合わせ。原作の絵がシンプルなのでドラマになると奥行きが増すし、これも死を扱う作品なのに、画面がすごく澄んでいて明るいんですよね。

綿貫　「お別れホスピタル」がスタートする前に「透明なゆりかご」の再放送もあったんですよ。2つセットで観るべき作品として残っていってほしい。

佐山さんを“寄り添う”ってほどのキャラにしていないのがうまい（綿貫）

──同じくNHKでは、夜ドラ「作りたい女と食べたい女」のシーズン2も始まりました。

綿貫　まず、日本でレズビアンを描くドラマを放送する意義がありますよね。そしてシーズン2ではついに（比嘉愛未演じる）野本さんだけじゃなく、（西野恵未扮する）春日さんも自分の恋心に気付いて、物語が一気にギア上げてきた！ 野本さんと春日さんが自分の感情を隠すのではなく、それぞれ他者に自分の気持ちを話すじゃないですか。「好き」って言葉にすることってやっぱりすごいことだなと。

──野本さんは、ともさかりえさん演じる矢子可菜芽に、春日さんは、隣に引っ越してきた藤吉夏鈴（櫻坂46）さん扮する南雲世奈に相談しますよね。

綿貫　その構図がうまい！と思って感動しましたね。矢子さんと南雲さんがそれぞれのメンターとカウンセラーみたいな役割になってるなって。この新キャストは絶対に必要。

明日菜子　私は原作も読んでるんですけど、シーズン1から登場している（森田望智扮する）佐山さんはドラマのオリジナルなんです。マイノリティである野本さんを理解しているマジョリティ側の佐山さんは、制作陣の願いが込められているキャラクターだと思いました。

綿貫　佐山さんを“寄り添う”ってほどのキャラにしていないのがうまい。野本さんからカミングアウトされたとき「あ、そうなんだ」っていう反応で、それに対して深く突っ込むとか、興味を持つとかじゃなくて、当たり前のように受け入れるということをやりたかったんだなって。ケアする・気を使うといった描き方を一切せず、ただの同僚としてセクシュアリティのことを平気で話せる存在として描いている。確かな意思があってそうしてるんだと思います。

──「つくたべ」の“うまさ”をお聞きしたところで、“よさ”はどんなところに感じますか？

綿貫　リアル感ですね。野本さん・春日さんの部屋を見ると、女性1人で派遣社員とかでがんばってる設定に合わせて生活感がぶっ飛んでないところがいい。

明日菜子　（野本さんの家はテレビがなく）タブレットですもんね。ドラマスタッフが原作をよく理解されていて、作品が訴えているメッセージそのものを届けたいという思いをすごく感じますね。

完全に「ショムニ」の庶務二課と秘書課なんですよ（綿貫）

──続いて、フジテレビで放送中の「婚活1000本ノック」はいかがですか？

明日菜子　楽しんで観てます！ 最初は福田（麻貴・3時のヒロイン）さんがプライム帯の主演をするの？って二度見したんですけど、本編を観たら納得。福田さんのツッコミが作品のテンポ感を作ってるんですよね。本業が女優の方だったらちょっと違った雰囲気になったんじゃないかなと。めっちゃ合ってるキャスティングだなと思いました。

綿貫　劇中の婚活事情に関してよりも、バチェラーっぽいことをやるとか、1つひとつの演出が面白くてそちらに興味が向きますね。何より個人的に好きなのは、男性とのやり取りやジャッジよりも、福田さん演じる南綾子と関水渚扮するライバル・九本のやり取り！ 懐かしいフジテレビの水曜ドラマって感じがします。

明日菜子　確かに、1990～2000年代のフジテレビの感じ。

綿貫　完全に「ショムニ」（1998年）の庶務二課と秘書課なんですよ。

明日菜子　めちゃめちゃそれだ!!（笑）

綿貫　フジテレビにおけるその設定の何がいいって、一見ライバルっぽい2人が結束する間柄になるって流れ。「お水の花道」（1999年）とかいろんなドラマで受け継がれていますけど、ライバルの間に友情が生まれる、みたいなのがめちゃめちゃ好き。「婚活1000本ノック」でも、3話で2人に友情が芽生えて……それが観たかったんです！ってなった。

明日菜子　じゃあ名作になる条件がそろってるんですね！

綿貫　フジテレビの水曜ドラマのDNAを引き継いだ作品として、最終的にもっとそこが分厚くなってくるんじゃないかと思うんですよ。幽霊同士でもつながった（※）から、最終的にはバチバチの女2人のシスターフッド作品として、かなり面白い作品になるんじゃないかと。

※編集部注：「婚活1000本ノック」では、綾子をかつて遊び捨てた山田クソ男（お）の幽霊が綾子の婚活をサポートし、九本凜の父・龍二の幽霊が凜の婚活を見守っている。八木勇征（FANTASTICS）が山田役、宇梶剛士が龍二役で出演中。

明日菜子　同世代の女としては、現代の婚活事情に近い感覚のドラマだと思うんですよね。橋本マナミさんが演じてるおけけは、ITZYっていう実在の韓国女子アイドルを推してるんですけど、最近、世間では“推し活みたいなプラトニックな感情っていいよね”っていう声が大きくなりすぎて、恋愛したい人とか、結婚願望がある人が肩身の狭い思いをしてることもある。その層に寄り添っている作品だなと。去年放送された「こっち向いてよ向井くん」と対になるような重要な作品だと思うんですよね。

綿貫　あと、綾子と婚活する男性たちのクセがいちいち強いじゃないですか。竹財輝之助さんがあのキャラで出ていいの？って。

明日菜子　でも、いい人だけど受け入れられない、好きになれないっていうのは、婚活女子のけっこう切実な悩みだと思います……。そこを深堀りした作品ってあんまりなかった。

──性格のよさで好きになれない自分ってダメなのかな、といった悩みですよね。

明日菜子　そうそう。でも……別に付き合えてないから成功体験とは言えないんですけど、やっぱり綾子は山田を経験してしまったことで、ちょっとハードルが上がってる（笑）。“彼氏いない歴＝年齢”っていう主人公だったら3話ぐらいで成婚しそうですよね。

綿貫　一度山田といい感じになったら自己肯定感は相当上がるでしょうね。

明日菜子　「あんなイケメン、私でもいけるんだ」となっちゃうのは大変だけど、それもリアル（笑）。

綿貫　婚活がテーマのドラマだと「ナースが婚活」も放送中なんですけど、こっちのよさは女性が的確にアドバイスをして絶対に成婚させるところ。矢田亜希子さんがその指南役をやっているんですけど、恋愛格言をどんどん言っていくんです。しかもそれが、昔「やまとなでしこ」（2000年）で（松嶋菜々子演じる主人公・神野）桜子さんが言っていたことの現代版というか……桜子は男に媚びる方法に関する名言なんですけど、「やまとなでしこ」にも出てた矢田さんが、今の価値観で女性はどう恋愛すべきかといった名言をどんどん吐くから、時代の差をすごく感じて面白いです。

福士蒼汰に今一番やってほしかった役（明日菜子）

──現代の恋愛事情を描いたもので言うと、「アイのない恋人たち」はいかがですか？

綿貫　描くのが難しい恋愛群像劇に挑戦してくれただけでありがとうって感じです。歴代の良作がある流れで時代を見れるから。この人数の大人がバッと出会っちゃう無理やり感とかがめちゃめちゃ好き。ストーリーを進めるためにはそうするしかないっていう“力技”！ 現実味がないぶん、余計にドラマ観てるなーって気分になります（笑）。

明日菜子　わかる。それは「Eye Love You」にも通じますよね。

綿貫　学校が舞台ならできると思うけど、社会人で会社も立場も違うメンバーの群像劇って設定難しいですよね。「真夏のシンデレラ」（2023年）もそうだったけど（笑）。だからいろんな無理やり感とか粗があるんですけど、それ込みでツッコミを入れながら見守っている段階です。

明日菜子　私は、今一番脂乗ってる俳優を1人挙げてって言われたら、間違いなく福士蒼汰さんを推すんですよね。「アバランチ」（2021年）からずっとよくて、「弁護士ソドム」（2023年）も去年のNHKの「大奥」もすごいよかったから、30代に入った福士さんはめっちゃ脂乗ってるなって。

綿貫　ストイックさが表情にも出てきましたよね。英語、中国語、韓国語と語学を勉強して俳優として海外に出るという高い目標を持ってから、どんどん幅を広げてきた感じがします。

明日菜子　向井理さんみたいなタイプで、歳を重ねていくほど評価されていくんじゃないかな。そんな福士さんに今一番やってほしかった役がまさに「アイのない恋人たち」の久米真和なんです。ちょっと恋愛にだらしなくて、でも色気があって、うだつの上がらないクリエイターって最高じゃないですか？ このドラマの時代設定は謎ですけど（笑）。

綿貫　ラブストーリーの中でも王道の役じゃないのがいい。少し前だと「きょうは会社休みます。」（2014年）みたいなキラキラしたイメージがあったけど、擦れたクリエイター役を演じるギャップが、時代も感じつつ、魅力も増してますね。