ホラーを語るリレー連載「今宵も悪夢を」 第52夜 [バックナンバー]
選者 / 野水伊織「ハウス・バウンド」
スリラー・ホームドラマ・コメディ…ジャンルごちゃまぜな“ジェットコースターホラー”
2023年10月13日 21:00 4
ホラーやゾンビをこよなく愛する著名人らにお薦め作品を紹介してもらうリレー連載「今宵も悪夢を」。集まった案内人たちは身の毛もよだつ恐怖、忍び寄るスリル、しびれるほどの刺激がちりばめられたホラー世界へ読者を誘っていく。
第52夜は
文
大人に真剣に取り合ってもらえない不良も、未練を残した霊魂も寂しさは同じなのかも
今年、また新たなホラーアイコンが誕生した。持ち主への愛情が深すぎて暴走するAI人形・ミーガンだ。
彼女が活躍する「
しかし「M3GAN/ミーガン」より9年も前に、同じジェラルド・ジョンストン監督が撮った「Housebound」(2014)という作品が、ホラー映画好き界隈で評判が良いではないか。観たい。
と思っていたら丁度よく、新宿シネマカリテさんの映画祭・カリコレで「ハウス・バウンド」として上映してくれたので観ることが出来た。
まーーーこれがジャンルレスというかジャンルがころころ変わるというか、「こういうホラーですよ」と定義するのは難しいが、とにかくめちゃくちゃ面白かった! なので今回は、「ハウス・バウンド」を広めたい一心で書いてゆこうと思う。
ATM強盗で捕まった不良娘・カイリーは、保護観察処分となり、実家で8か月間の自宅謹慎をすることに。
足には逃亡防止の装置が付けられ、折り合いの悪い母親と無口な義父と3人の居心地の悪い生活が始まる。
しかし彼女の実家は、過去に殺人事件があった幽霊屋敷だった……!
この家では、誰もいない地下室から物音がしたり、捨てたおもちゃが戻ってきたり、謎の人影が出たりと心霊現象が頻発する。それはカイリーが幼いころから続いているのだが、すっかりグレちゃった今の彼女は「怖がってたのは子供の頃でしょ!(怒)」とキレてばかり。対する彼女の母・ミリアムは、幽霊が出るとわかっていながら再婚相手と住み続けている能天気なヒト。
ある夜、そんな凸凹親子が心霊現象におびえていると、何やら家に侵入者が入って来る。しかしそれは幽霊でも泥棒でもなく、カイリーを心配して家を訪れた保護観察官のエイモスだったというオチ。
こういうのは心霊系ホラーの序盤ではよくある外し方だし、「この辺まではよくある心霊系の枠内だな……いやでも界隈の人が褒めるんだからきっと何か仕掛けがあるんだろう」みたいな穿った見方で観ていた。
するとこのエイモス、幽霊退治の心得があると言い、テープレコーダーで交信を試みる。……が、反応はない。ないのかよ! 思わずツッコんでしまう。
いやいやきっとこれもジャンプスケアの前の外しの(以下略)なんて自分を納得させていると、エイモス兄さんね、諦めないんですよ。不満タラタラのカイリーを助手に据え、この家の心霊現象を捉えて秘密を解き明かそうとするんです。
悪魔祓い師でも霊能者でもない、ただのオカルト好きなお兄さんとのゴーストバスターズごっこの始まりである。
観てもらうとわかるのだが、本作に出てくる登場人物たちには独特の愛嬌がある。キャラクター設定もあると思うが、役者陣の芝居に間の取り方、そして台詞もどことなくコメディタッチでつい笑ってしまうシーンも少なくない。劇場で観たときは、シネマカリテのスクリーン2の客たち一体となって爆笑していた。
その中だとエイモスは至って真面目な部類のキャラだ。真面目すぎて、「幽霊も君と一緒だ。あの家に縛られている。だから君は耳を傾けるべきなんじゃないか」みたいなことを言ってしまう。
自宅謹慎中の不良少女と地縛霊が同じって!(笑)と笑ったものの、大人に真剣に取り合ってもらえない不良も未練を残した霊魂も、話を聞いてほしい寂しさは同じなのかもと考えれば妙に含蓄のあるシーンだった。
閑話休題。とはいえへっぽこゴーストバスターズのノリが最後まで続くわけではない。
驚くことにこのあと、「じゃあ殺人事件の犯人って誰なんだ?」という犯人捜しからスリラーになり、サイコサスペンスになり、ホームドラマになり、「シャイニング」(1980)になりコメディになりちょっとだけ痛いゴアがある。そうだな、あえて本作のジャンルを定義するならば“ジェットコースターホラー”とでもしようか。
観ていない人にはなんのこっちゃだと思うが、ここまで情報を入れないで観てほしい作品もそう多くない。スタジオジブリの「君たちはどう生きるか」(2023)でさえ、別にネタバレがどうこうって話ではなかったなぁと思う私だが、これは本当にまっさらな気持ちで楽しんで翻弄されてほしい。
後半は怒涛の展開がアレコレ起きるので目を離さずに。私の大好きな“指でちょんちょん”のシーンもお見逃しなく!
最後まで観れば特別に斬新なオチというわけでもないのだが、逆に言えば、これまでにもあったようなネタをうまく調理して成り立たせているジョンストン監督の手腕が素晴らしいと思う。そして9年前に撮られた作品だというのに、今観てもテンポ感や台詞回しもダサくない。
ジョンストン監督にはビッグバジェットの世界でも、作家性そのままに好き勝手撮り続けてもらいたいなぁとぼんやり思うのであった。
野水伊織(ノミズイオリ)
北海道出身、声優。2009年放送のアニメ「そらのおとしもの」で本格的に声優としてのキャリアをスタートさせ、以降テレビアニメ「デート・ア・ライブ」「ムヒョとロージーの魔法律相談事務所」、ゲーム「艦隊これくしょん-艦これ-」に参加している。現在は配信番組「まろに☆え~るのYouTube LIVE」に出演中。
「ハウス・バウンド」(2014年製作)
ATM強盗で捕まった不良娘カイリーは保護観察処分となり、母親と義父が暮らす実家で8カ月 過ごすよう命じられる。息苦しい反省生活を強いられていたが、うざい母親が「この家には幽霊がいる」と言い出し始めた。戯言だと無視していたものの、カイリー自身もおかしな出来事に悩まされるように。ひょんなことから警察官エイモスが駆け付け、幽霊を観測する自前の装置などを家に設置し始めるのだが……。
監督は「M3GAN/ミーガン」のジェラルド・ジョンストンが務め、
「ハウス・バウンド」DVD販売中
税込価格:4400円
発売元:アメイジングD.C.
販売元:アメイジングD.C.
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野水伊織 @nomizuiori
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今年『M3GAN/ミーガン』を世に送り出したジェラルド・ジョンストン監督の過去作。
怖いの苦手な方にも観てほしい面白さ!オススメよ! https://t.co/CejcwkHWBw