映画館の座席の数だけ、映画の思い出がある──。ということで映画ナタリーでは、映画館の座席をテーマにした連載を始動! いつもどのあたりに座る? 劇場スタッフが教えるとっておきの座席は? “一番見やすい”位置ってあるの? そんな座席にまつわるあれこれを、映画に関わる人々に聞いていく。映画館へ行く際のヒントにしていただければ。
第1回は俳優の
取材・
とにかく映画を浴びたい!
──映画、そして映画館をこよなく愛する田中さんは、やはり映画館の座席にもこだわりがあるのでは。人それぞれ好みが違うと思いますが、普段どんな基準で席を選びますか?
僕の場合、基本は前寄りなんです。できるだけ前のほうに座りたい。劇場によって1列目とスクリーンの距離が違うので、頭に入れておかないと失敗することもありますが(笑)。
──前方派なんですね。それはなぜですか?
スクリーンから放たれるエネルギーを全身で浴びたいので。そう考えると必然的に前を選ぶようになりました。でも作品によって多少後ろに下がることもあります。ざっくり言うと邦画は前、それも最前列あたり。洋画はスクリーンに近すぎると字幕を追うのが大変だから、もう少し中央寄りに下がります。本当は洋画ももっと前で観たいんですけど。とにかく映画を浴びたいんです!
──映画のジャンルによっても席の位置を変えることはありますか?
はい。例えば物語に深く集中したり、じっくり考えながら観たいときは少し下がって中央寄りに。そのほうが落ち着いてスクリーン全体を見渡せるので。アクション系や映像美が素晴らしいと言われている作品では、とにかく前方に座ってのめり込むように観ます。
──映画館で観るからには映画を全身で浴びたいという感覚、わかる気がします。一般的に「前方は首が疲れて見づらい」というイメージがあり、後方や中央から埋まっていきますよね。残り1席が最前列しかない、ということもよくありますが……。
僕としてはラッキー。むしろ前方のほうが心地いいです。配信サービスが普及している今、家でも簡単に映画を楽しめるじゃないですか。僕も活用していますけど、やっぱり映画館で観るのって特別なんです。だから映画館では前方の席で「でっけえスクリーンだな!」と存分に味わいながら観たい(笑)。それが僕の映画館の楽しみ方です。
前方に座ればミニシアターでもドルビーシネマ!?
──シネコンの巨大スクリーンで観るときも同じように前方の席を選びますか?
それこそ先日、細田守監督の「
──前方の席だと映像だけでなく、音も「浴びる」感覚になりますか?
そうなんですよ。全方向から降り注ぐというか。ミニシアターでもドルビーシネマ!みたいな(笑)。
──田中さんのお話を聞いていたら、だんだん「前方で観るのもいいな」と思えてきました。では例えば、田中さんが友人と映画を観る約束をしたとします。自分がチケットを予約する場合、同じように前方の席を選びますか?
それは……選ばないですね(笑)。僕、気ぃ使いなので真ん中あたりの席にします。絶対に前よりも見やすいので。あと横の並びも、必ず友人を中心寄りに座らせます。ちょっとでもいい環境で「映画楽しい!」と感じてほしいから。基本的に“1人映画派”なんですけど、たまに誰かと観に行くときは、謎の普及活動みたいなことをひそかにやっています(笑)。
──席選びにも優しさがこもってますね。先ほど「失敗することもある」とおっしゃっていましたが、座席選びでの失敗談を教えていただけますか?
人の頭が被ってスクリーンが見えなかった、みたいなことはあまりないです。前方に座るので。ただ劇場によっては最前列とスクリーンがめちゃくちゃ近いじゃないですか。そうすると首が大変なことになります! 僕、仕事の合間に2、3時間空きがあったら「さあ何を観よう」とすぐ上映スケジュールを調べるんです。急いで行けば間に合うギリギリの場合って、たいてい空いてる席は一番前だけ。前は好きなんですけど、席に着いてスクリーンと近すぎると失敗したなと思いますね。劇場ごとに中の作りはだいたい頭に入ってるんですけど。
──劇場ごとに座席や見やすさを把握しているのは“映画好きあるある”だと思います。隙間時間に映画を観に行くときは、席とスケジュールどちらを重視しますか? 「最前列が空いてるけどスクリーンと近すぎる」「一番後ろの端っこしか空いてない」といった場合、我慢してその席で観ますか?
うーん……。難しいですけど、その作品への期待度によります。ものすごく楽しみにしていた作品だったら「今日はパスしよう」となるかもしれません。いい席で観たいですから。でも映画って巡り合わせなので、「こんな映画があったのか。今ちょうど観れるじゃん」という作品は、逃したらもう観ない可能性が高い。だから席にこだわらずチケットを買います。たまたま観た映画って、とてつもなくよかったりするんですよ。「待て待て待て、なんだよこの映画は! ノーチェックだったぞ!」と。あの興奮を味わえるなら、どこの席でも構いません。
もし叶うなら高田世界館の2階席で鑑賞したい
──田中さんは、ご自身の出演作を集めた「田中俊介映画祭」を引っ提げて全国各地のミニシアターを巡ってきました。座席にまつわる思い出も含めて、印象的な劇場はありますか?
愛知出身なので名古屋のシネマスコーレというミニシアターが大好きで、昔からよく通っています。シネマスコーレで「絶対ここに座る!」というこだわりは特にないんですけど、足を運ぶお客さんたちや、数多く登壇してきた映画監督、俳優さんの汗と涙が染み込んだ、いい意味でミニシアター臭いあの空間が大好きなんです。「ああやっぱり映画が好きだな」と思える、自分にとって特別な場所です。
──座席の位置にかかわらず、“みんなで一緒に観る”というあの感覚は何にも代えがたいものですよね。
そうなんです。高田世界館(新潟)も印象的でした。日本で現存する最古の映画館で、雰囲気が本当に素晴らしい。僕は登壇者としてしか訪れたことがないんですけど、もし叶うなら2階席で鑑賞したいです。あの洋館のような素敵な劇場全体を見渡しながら鑑賞するのを一度味わってみたい。映画と言えばシネコンという方って多いと思いますし、僕もシネコン大好きなので否定する気持ちはないんですけど、雰囲気込みで映画を楽しめる場所がミニシアターなんですよね。そういう意味で、高田世界館は独特なので驚くはずです。
──映画館の記憶は、映画の思い出と一緒に残りますよね。
映画体験って、映画館にまつわる思い出も含めての体験だと思うので。その映画館に行くために、降りたことない駅で降りて、地図を見ながら知らない街を歩くのもわくわくします。観た映画がつまらなかったとしましょう。それもいい思い出になるんです(笑)。「なんだよ、ここまで来たのに!」と思いながら帰るのも、それはそれでいい。つまらなかった映画も記憶に残ると言いますか、その体験も映画が自分に残してくれたものだから大事だなあと思います。コロナ禍以前は全国の劇場を訪れていたんですけど、今はできない状況なので、終息したら「ただいま!」と全国のミニシアター巡りをしたいです。
満席で“超密”な映画体験をまた味わいたい
──座席のお話に戻りたいと思います。あの座席は座りやすかったなど、椅子そのものが印象的だった映画館はありますか?
アップリンク吉祥寺(東京)はカラフルでおしゃれなシートがあって、楽しい気持ちになれます。いわゆるミニシアター作品だけじゃなく、シネコンで掛かる作品も上映しているところも含めて素敵な映画館だと思います。もう1つはWHITE CINE QUINTO(ホワイトシネクイント / 東京)。ミニシアターであの座り心地は、びっくりしません? ゆったりしていて、ふわーっと気持ちよくなる椅子なんです。ミニシアターの椅子はあまりよくなさそうというイメージがある方には、ぜひ行ってみてほしい。
──WHITE CINE QUINTOの椅子は確かにふかふかです。座り心地という面で、シネコンのプレミアムシートに座ったことは?
ありますよ。かなり昔なので何を観たか覚えてないですけど……。たぶんそこしか空いてなかったパターンだったのかな(笑)。プレミアムシートには久しく座ってないです。通常料金の席でいいから、その分観る本数を増やしたいので。
──では最後に、田中さんが思う「こんな座席があったらいいな」という理想を教えてください。
4DXみたいに臨場感を味わえる座席はもう存在していますもんね。うーん。スクリーンと自分の間の視界に人が入らないようになったらいいなとは、よく思いますね。
──それは貸切ともまた違いますか?
人はいてほしいんです。みんなで映画を観る感覚も味わいたいので。例えばプレミアムシートだと横が気にならないようになっていたりしますが、前方はどうしても人の頭が見えてしまいますよね。それでも別にいいんですけど、より映画に没入したいと思ったとき、ボタンをポチッと押したらほかの人が消えて、映画と僕だけの空間になったら面白いなって(笑)。
──最近新しくできた映画館では、もとからソーシャルディスタンス仕様になっていたりしますし、自分だけの空間を重視した座席が増えていくかもしれません。とは言え、視界から人が消えるのはなかなか難しそうですが……。
ですね(笑)。「人を消したい」なんて言いましたけど、やっぱり満員の映画館でギュウギュウになって観るのがめちゃくちゃ好きです。「カメ止め(カメラを止めるな!)」をシネマスコーレで観たときは、立ち見で隣のおっちゃんと肩をぶつけ合いながら、笑いや興奮が肌を通して伝わる最高の映画体験でした。また満席の劇場で“超密”な映画体験を味わいたいです!
田中俊介(タナカシュンスケ)
1990年1月28日生まれ、愛知県出身。2017年公開の映画「ダブルミンツ」で淵上泰史とダブル主演を務め話題に。現在、映画、舞台、ドラマなどで活躍中。最近の出演作は、ドラマ「アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~」「クロシンリ 彼女が教える禁断の心理術」「演じ屋」、映画「ミッドナイトスワン」「彼女」「タイトル、拒絶」「恋するけだもの」「FUNNY BUNNY」「男の優しさは全部下心なんですって」、舞台「銀河鉄道の父」など。映画「僕と彼女とラリーと」が2021年9月24日に愛知と岐阜の一部劇場で先行公開されたのち、10月1日に全国で封切られる。
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