アニメスタジオクロニクル No.11 Production I.G 石川光久

アニメスタジオクロニクル No.11 [バックナンバー]

Production I.G 石川光久(代表取締役会長)

「I.Gの本質は“未来”」

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母からの忠言と社長交代

アニメ制作にまつわるビジネスの話を熱く語る石川氏。しかしその中で突然に自身の母親からの忠言を明かした。

「おふくろからずっと『会社を作るな』と言われて育ちました。だからアイジー・タツノコを作ったときもおふくろには黙っていたんです。でもある日おふくろがタツノコプロに電話してバレてしまいました。『息子はいますか?』『とうの昔にやめて会社を作っていますよ』って。すぐに会社をやめなさい、とすごく怒られましたね。会社経営は大変だから息子に苦労してほしくなかったんだと思います。2022年に和田(丈嗣)に会社を任せ、社長を辞めたことを報告したらおふくろがすごく褒めてくれて、あれは涙が出るほどうれしかったですし、本当に肩の荷が降りましたね。僕ができた唯一の親孝行なので、和田には本当に感謝しています。

『自慢話はするな』ということも言われていました。今回のこのインタビューも、自分の自慢話に見えるかもしれませんね(笑)」

石川光久氏

石川光久氏

2022年8月30日に、石川氏はProduction I.Gの代表取締役社長を退任する。その後I.Gの社長に就任したのは2012年にI.Gから独立し、WIT STUDIOを設立した和田氏だった。この交代劇は“I.G”の今後を見据えて行われたものだった。

「I.Gの今後10年を見据えたときに、頭を次に替える必要があると感じ後継者を考えていたんです。I.Gを支えてくれた人物の中で何名か候補を考えていたのですが。その内の1人が和田でした。彼に任せようと決めた理由は『お客さんを向いた企画力』を持っていると感じたからです。彼は常に『今のお客さんがどういう作品を望んでいるか』というのを大事にしているんですよね。だから『進撃の巨人』(Season1~3)や『SPY×FAMILY』もヒットさせることができたのだと思っています。I.G在籍時に担当していた『ギルティクラウン』のときからその特性はあって、絶対にヒットさせるぞという気概を感じられるスタッフを集めていたと思います。

これまでI.GとWITはグループ会社ではあるのですが、どちらかと言うとライバル関係にありました。お互いいいアニメを作る現場同士なので、当然といえば当然です。でも和田が両方の社長を務めることでその関係を変えられるのではと思いました。距離を縮められるだろうし、I.Gは若い感性を、WITはI.Gが培ってきた経験値やビジネススキーム取り入れる、これは双方にとってメリットがあるだろうなと。そうやってグループ会社として一枚岩に近い形でやれたらいいかと思ったんです」

石川がいなくてもI.Gに残るDNA

2022年から新たなフェーズに入ったProduction I.G。しかし石川氏は、クオリティが高いものを作り続ける同社のDNAはしっかりと残っていると断言する。

「先に挙げた後藤と黄瀬、そして西尾鉄也という3人のアニメーターはI.GのDNAと言っても過言ではないです。彼らには本当に感謝しかない。その後にも矢萩利幸や大久保徹、塩谷直義などが続きますけど、I.Gを語るのに彼ら3人の名前は外せません。石川という名前がなくても、彼らがいればI.Gということで間違いないです。

そしてそんな彼らを支える人もいるということは忘れてはいけない。雑誌で取り上げられるような有名人だけでなく、『この人がいるからこそ作品づくりができる』という縁の下の力持ちとなる人がいるんですよ。アニメーターだけでなく、動画検査のスタッフや制作進行、仕上げや撮影、編集のスタッフやバックオフィスとかにも。そういった、本当に目立たないところで支えてくれる人がいてくれることが本当はありがたいし、彼らがいたからこそI.Gは30年以上やってこられたんです」

なお、ターニングポイントとして「攻殻機動隊」シリーズの名前を挙げる前に石川氏は以下のようなことを語っていた。

「本音では『怪獣8号』(2024年4月放送開始)ですね。こんなこと言うと『まだ放送されてもいないのによく言えるな』と思われる方もいらっしゃるんでしょうけど(笑)。でもI.Gの本質は“未来”なんですよ。過去はもう過去。未来を見てないと優秀なスタッフも集まってこない。だから今挙げるならターニングポイントは『怪獣8号』です」

「怪獣8号」キービジュアル (c) 防衛隊第3部隊 (c) 松本直也/集英社

「怪獣8号」キービジュアル (c) 防衛隊第3部隊 (c) 松本直也/集英社

最後に、そんな「怪獣8号」などの今後予定されている主要作品について語ってもらった。その言葉には、各作品に注ぐ愛情とチャレンジ精神の強さが滲んでいた。

「『銀河英雄伝説 Die Neue These』は続編制作が決定しています。この作品はやっぱり原作の魅力がすごいですよね。あのセリフや人間関係はもう教科書みたいなもの。その魅力は日本だけでなく海外にも通じるものです。だからI.Gが続く限り、『銀河英雄伝説』のアニメ化はずっと続けていきたいです。『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』(2月16日公開)は、制作現場が年末年始もがんばって制作してくれました。完成した映像を観ると本当に半端ないです。すごいものになるのは疑いようがない。ファンにはこれまで以上に期待してもらっていいですし、スタッフにはしっかり長い休養を取ってほしいです。

「銀河英雄伝説 Die Neue These」キービジュアル (c) 田中芳樹/銀河英雄伝説 Die Neue These 製作委員会

「銀河英雄伝説 Die Neue These」キービジュアル (c) 田中芳樹/銀河英雄伝説 Die Neue These 製作委員会

『怪獣8号』に関しては、アニメ化コンペに参加した作品の中でI.Gが一番取りたかった原作です。うちは『おじさんが得意』とか『戦闘描写が得意』とか言われますけど、そんなI.Gに合っている作品で。マンガ原作で、間違いなくI.Gが持つよさを一番発揮できるタイトルです。

「劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦」キービジュアル (c) 2024「ハイキュー!!」製作委員会 (c) 古舘春一/集英社

「劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦」キービジュアル (c) 2024「ハイキュー!!」製作委員会 (c) 古舘春一/集英社

これら3つは全部挑戦作です。最近は『歴史は成功者が作り、未来は挑戦者が作る』という言葉が好きでよく使うんですけど、これをモットーとしてベテランも若い人も一緒になって今後も挑戦していきたいです」

石川光久(イシカワミツヒサ)

1958年生まれ、東京都出身。株式会社プロダクション・アイジー代表取締役会長。大学卒業後、タツノコプロダクションに入社したのち、1987年に独立し、株式会社プロダクション・アイジーの前身となる有限会社アイジー・タツノコを設立。「赤い光弾ジリオン」「機動警察パトレイバー the Movie」「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」「イノセンス」などのプロデュースを手がける。2022年8月に代表取締役社長を退任し、代表取締役会長に就任した。

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