4月に放送がスタートした、TVアニメ「ゴーストコンサート : missing Songs」。AIが歌を支配し、人間には歌が禁じられた近未来を舞台に、霊が見える少女・相葉芹亜と、この世の外から顕れた偉人“グレートゴースト”との出会いから物語が動き出す。もともと「ゴーストコンサート」は、「戦姫絶唱シンフォギア」「うたの☆プリンスさまっ♪」などで知られるElements Garden・上松範康が2017年に始動させたプロジェクト。TVアニメでは神保昌登監督率いる制作チームのもと、完全オリジナルストーリーが展開されている。もちろん作品のキーとなる“憑依鎮魂歌”をはじめ、楽曲はすべて上松率いるElements Gardenが手がけた。
コミックナタリーでは上松と、今作に携わったElements Gardenの藤田淳平、近藤世真、堀川大翼の4人にインタビュー。偉人が歌うというコンセプトの発端から、異なる2曲が合体して新たな1曲になるという“憑依鎮魂歌”でのチャレンジについて、そしてそれらを歌いこなした注目の若手声優・藤寺美徳の印象までたっぷりと話を聞いた。また近藤と堀川という若手作家の参加から見る、音楽制作集団・Elements Gardenのあり方についても迫った。
※藤田淳平はリモートによる参加。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 武田真和
生身の人間だけでは飽き足らなくなった
上松範康 そもそもは、僕がこれまでさまざまなボーカリストさんに楽曲を提供してきた中で、相手が生身の人間だけでは飽き足らなくなってきたのが事の発端なんです。「歴史上の人物を自分なりに音楽プロデュースしてみたいな」と思ったのが「ゴーストコンサート」プロジェクトの生まれたきっかけですね。過去に存在した偉人たち……まあエジソンとか牛若丸とか誰でもいいんですけど、そういう人たちの持つエネルギーはとてつもなく強いものがあるんじゃないかと思ったときに、ちょっとアーティストっぽく見えてきたんですよ。
藤⽥淳平 毎回のことですけど、上松さんのアイデアを初っ端に聞いたときは理解するのにちょっと時間がかかるというのがあって。
上松 毎回のことなんだ?(笑)
藤田 ただ同時に、面白みも感じましたね。「自分だったらあの偉人にこういう歌を歌わせるな」というのが即座に思い浮かびましたし、いい“お題”だなと思って。僕は最初にパッと伊藤博文や徳川家康などが浮かんだんですけど、歌うイメージはないじゃないですか。彼らのことは書物などで伝えられているのみなので、本人が自らの思いを歌にするってどんなんだろうな?と想像をかき立てられるテーマではありましたよね。
上松 歴史があるからこそ歌になるな、と思ったんだよね。
近藤世真 とはいえ、そこで「歌わせる」という発想になるところがすごいなと思います。
堀川⼤翼 戦国武将とかだと、本人の詠んだ俳句や短歌が残っていることもあるじゃないですか。そこにけっこうその人の人生観が出てると思うので、そういうところから想像を膨らませて楽曲にしていく感じなのかな?と最初にコンセプトを聞いたときには思いました。
上松 で、僕が代表を務めるアリア・エンターテインメントにはUNISONというアニメやゲームなどの原作を手がける集団がありまして。自分が原作を担当した「戦姫絶唱シンフォギア」や「うたの☆プリンスさまっ♪」といった作品の流れに沿って、より音楽に寄った原作を作るチームを発足させたんですね。「歴史上の偉人に歌を歌わせたい」という発想からスタートして、実際に絵を起こして、声をあててもらって、物語を作っていく。そういう土台となるサイクルが確立したところで、僕は“原案”という立ち位置でひたすら楽曲を提供すればよくなった。それ以外の部分はバトンを渡しているような感じですね。
藤田 今回のオリジナルTVアニメの企画が立ち上がったのが3年ぐらい前なんですが、その段階で入っていただいた神保昌登監督がとてもアイデアのある方で。
上松 神保監督は「これを描きたいんだ」という世界を明確に持っていたので、こちらから中途半端に口出しするよりもすべて乗っかってみたほうが面白いんじゃないかと。そういう強い思いがある人がいたらいいな、ってのはすごく思っていたんです。ただ単に「シンフォギア」や「うたプリ」から借りてきたような何かになるより、そうじゃない新しいものが生まれると思ったんで……逆にそういうものがなかったら、たぶんアニメにはしなかったんじゃないですかね。
藤田 そうですね。
上松 もちろん神保監督だけじゃなくて、“憑依鎮魂歌”の“2つのソロ曲が合わさって1つのツインボーカル曲になる”というアイデアも、チームみんなの中から生まれ出たもので。「ソングバトルシリーズ」と銘打っていますが、“歌で戦う”という概念の新提案って何かないのかな?ってのは、僕らだけでは限界だったんですよ(笑)。もう“歌って戦う”というものが染みついてるんで……もちろんこちらからも「音楽には複数のメロディを掛け合わせて構築する、数学的な面もあるんですよ」といったアイデアはいろいろ出しましたが、明確に誰の発案とも言えないような感じになっていますね。
大変ですよ、ハッキリ言って
上松 “2つのソロ曲が合わさって1つのツインボーカル曲になる”っていうコンセプトの曲作りってさ、エレガでなきゃ対応できないじゃん。
近藤 それは本当にそう思いますね。すっごく難しかったですけど(笑)。
上松 あ、そう? 簡単じゃん。メロ書いてさ、その下に対旋律を書けばいいだけなんで。
近藤 でも今回はデュエット曲ではないので、単純な対旋律ではダメで。単体でも成立するソロ曲にしなくちゃいけなくて、なおかつ2つ組み合わせても破綻しないものにするのはものすごく頭を使いました。
上松 あ、そうだね。それが難しかったね。
堀川 僕は逆に、思ってたよりも簡単に生まれた感じはありました。
一同 おおおおー。
近藤 ホントかよ(笑)。
堀川 僕の場合はまず片方のラインを作って、同じコード進行でもう1曲まったく違うメロディを作る。で、それをガッチャンコしたときに整合性の取れないところを直していく、というやり方をしたんです。そうすることで、おのずと2つの独立したいい曲ができて、なおかつ無理なく合体するっていう。
近藤 なるほどねえ。ただ、そこで合体させたときにぐちゃぐちゃに聞こえちゃいけないんで。2つの旋律が重なってもメロディや歌詞がスッと入ってくるようにするために、気を使うところがたくさんありましたね。
上松 全体を統括する立場として、淳平はどう見てた?
藤田 大変ですよ、ハッキリ言って。
一同 (笑)。
藤田 今回、自分がまず芹亜とクレオパトラの歌う「RES∞NALIST」を進めさせてもらったんですけど、「2つのソロ曲が合わさって1曲になるというのはこういうことですよ」という指針を示さなければいけなかったんです。これは芹亜の「みちしるべ」とクレオパトラの「砂塵の女王」という2曲が合体することで「RES∞NALIST」という1曲になる形なんですが、上松さんが言うように数学っぽいところがあって。「これをやっちゃうと合体させたときに破綻するよな」という要素を避ける必要があったり、片方のメロディが大きければもう片方のメロディは細かくしたり、音像をデジタルとアナログで差別化したり……単にメロディ作りだけではなく、アレンジも含めたテクニックを総動員して試行錯誤の中でやっていきました。
第1話の憑依鎮魂歌、相葉芹亜(CV:藤寺美徳)&クレオパトラ(CV:日高里菜)「RES∞NALIST」(作詞:上松範康、Spirit Garden / 作曲:上松範康・藤田淳平 / 編曲:藤田淳平)。
上松 やっぱりこれが指針になるんで、まず俺と淳平が合体するところを見せないとダメだよねって(笑)。「RES∞NALIST」は最初、僕が全部作りあげるつもりだったんですけど、方向性について監督とちょっと意見が割れまして。僕のよくないところなんですけど、「監督のやりたいこともわかるけど、俺のやりたいこともあるんだよ!」みたいな(笑)。でもやっぱりこれは監督の作る物語だから、「俺のよかったところだけ残して」って淳平に預けたんだよね。で、サビだけ残ったんだっけ?
藤田 そう、サビが残ってます。1曲目ということもあるので、AメロBメロはよりソロとしてしっかり聴かせるものにしたいということでメロディを変えた感じですね。
Elements Gardenは“アーティスト集団”ではない
上松 作詞も俺とSpirit Gardenの合体だよね。Spirit Gardenっていう作詞家チームがいるんですけど、まず僕がゼロイチの歌詞を書いて、自分が苦手とする物語に深みを出す部分を彼らに担ってもらいました。
近藤 作詞、大変じゃないですか? こういう形だと。
上松 いや、制約が多いとその分ルールがハッキリするから、逆に作りやすくなるのよ。プロの作詞家はみんなそういうところがあると思うんだけど……例えば別々のメロディだとしても、合体曲として成立させるにはユニゾンするパートも必要じゃん? そこのワードが決まってくると、あとは方程式になるっていう。
近藤 なるほど。逆に技術の見せどころなんですね。
藤田 やっぱり“2つの曲が合体する”というところがこの作品の面白さの核になっているところなので、そこのわかりやすさは大事なんですけども、歌う内容もすごく大事で。とくにクレオパトラの“業”をどう昇華させるかという部分で、監督の歌詞に対するこだわりは相当強かった。
上松 たしか、最初に書いたの全リテ(リテイク)食らったっけ?
藤田 ほぼほぼ全リテでした(笑)。
上松 でもそれがこの作品の最初に起こったことが、マジでよかったなと思って。今ってそういうクリエイティブな衝突が起こらないまま、円滑な進行優先で生まれちゃう作品も多いじゃないですか。それでは新しいものは生まれないんで、エレガでは絶対にそれだけはやりたくないという思いがありますね。
藤田 この芹亜という主人公は「歌うことが禁じられた世界で、歌うことでしか自分を表現できない」人物なんですね。その人物像をこの1曲目で余すことなく表現したい、という監督の強い思いが反映された1曲になってるんじゃないかなと思います。
堀川 1発目の合体曲ということで、作品性を提示するという使命も帯びているわけですよね。ただでさえ普通には作れない構造の曲であることに加えてそれなんで、「これを僕らもやらなきゃいけないんだ?」というプレッシャーをまず感じました。でも、そのプレッシャーがあったからこそ「これを超えていくぞ」という気持ちで作れたし、いい曲ができたなという手応えもあります。
近藤 最初にこのプロジェクトのお話をいただいたときはあまりにも取っかかりがなくて「どう作ったらいいんだろう?」と途方に暮れたんですけど、1曲目にこれが上がってきたことで指針になったというか。さっき上松さんが言っていたような、ルールを提示してもらうことでやり方がわかった感覚はありましたね。
上松 Elements Gardenって、よくも悪くも職人集団なんですよ。決してアーティスト集団ではない。とくに今回の楽曲コンセプトはものすごく職人的なものなので、一番うちがうちらしい方向を向けるプロジェクトだったんじゃないかなと思います。アーティストにこれをやれといっても、まずできないですよ。そういうアーティスト然としたあり方には憧れもありますけど、幸か不幸か我々はそういうふうにはなれないんで。
2曲が1曲に、だけど“デュエット”ではない
近藤 僕が担当させていただいたニコラ・テスラと芹亜の歌う第2話挿入歌「gifted」に関して言うと、発注シートをいただいた段階で「こういうふうに見せたい」ということが明確に書かれていました。「イントロなしでテスラの歌から始めたい」とか、「前半はちょっと静かめで」とか。
第2話の憑依鎮魂歌、相葉芹亜(CV:藤寺美徳)&ニコラ・テスラ(CV:佐々木崇)「gifted」(作詞:Spirit Garden / 作曲・編曲:近藤世真)。
上松 ルールがハッキリしてたから作れた?
近藤 かもしれないです(笑)。バトル曲とはいえ、この曲に関してはテスラの抱えるものに芹亜が寄り添うイメージに近いということだったので、テスラの歌に対して芹亜の歌が被さってくるようなメロディにしてみようかなと思って作っていきました。アレンジ的にもテスラのサウンドと芹亜のサウンドがスイッチングしていく感じを思いつけたので、そこはちょっと面白くできたかなと自分では思っています。
藤田 曲がしっかり切り替わるところにはハッとさせられたし、なかなか1曲では表現できないところなのでうまいなと思いました。あとこれ、男女ボーカルだからデュエットっぽくなりがちなんだけど、そこを避けようという意図も感じたかな。
近藤 そうですね。デュエットっぽくならないように意識はしました。たとえば「ドレミ」というメロディがあったとして、それを発展させたり類似した動きのメロディを対旋律として置くのが定石ではあるんですが、それをするとデュエット感が強くなってしまう。なので今回は、まったく違うメロディを持ってくるということをしていて。
上松 つまりバッハに歯向かったんだね。バッハを否定する曲を作ったっていう。
近藤 そうかもしれない(笑)。考え方としてはバッハの対位法がベースではあるんですけど、いわゆる教科書的な対位法をそのままやっちゃうとデュエットっぽくなっちゃうから。
上松 「ドレミ」と書いたらそこに「ミレド」を当てると気持ちいいよね、っていうのが対位法の根本なんです。近藤がやったのは、「ドレミ」に対してまったく違う音階やリズムのメロディを当てることで、2曲に分けたときにそれぞれ個性を持って存在できるようにした、っていうことで。教科書通りの対位法で2つめのメロディを作ると、普通はそれだけでは1曲として成立しないものになりやすいんですよ。
近藤 ですです。翻訳ありがとうございます(笑)。
上松 あと、俺はこの曲にミュージカルっぽさをすごく感じたんだけど、それは近藤が意図したものなのか、監督からの要望だったのかで言うと?
近藤 僕も歌が入ってからそれを感じたんですよね。歌ってくださった佐々木さん(ニコラ・テスラ役の佐々木崇)の力量によるところが大きかったと思います。
堀川 佐々木さんのボーカル録りでは自分がディレクションを担当させていただいたんですけど、もともとミュージカル俳優の方なので、レコーディングでも1曲通してツルッと歌われていました。それもあって、世界観の組み立て方に舞台っぽい雰囲気が色濃く出ているんじゃないかなと思います。


