まんがタイムオリジナルが約2年前にリニューアルされていたことを、いったいどれだけのマンガ好きが知っているだろうか。クラシックな4コママンガだけでなく、今では横長のワイド4コマを積極的に取り入れる作品、さらには4コマの枠を飛び出したストーリーマンガが混在する誌面になっている。
リニューアルを主導したのは同誌の編集長以下、複数の編集者たちだ。コミックナタリーでは彼らの代表者として編集長にインタビューを実施。改革に至った経緯や読者からの反響を聞くとともに、すべての連載作品をレビューしてもらった。
取材・文 / Yuuki Honda
まんがタイム系雑誌の中で攻めの姿勢が強い、まんがタイムオリジナル
──まんがタイムオリジナルが創刊されて今年で44年になります。まずは創刊時から現在までの歴史的背景を聞かせてもらえるでしょうか。
まんがタイムオリジナルは、まんがタイムの姉妹誌として生まれました。まんがタイムから「笑いと遊びの精神」を引き継ぎつつ、「新しい企画を大胆に取り入れる」「読者対象を意識的に小中高校の生徒にまで広げる」「新人の起用を積極的に推進する」といった狙いがあったそうです。中でもまんがタイムオリジナルは、最近で言えば「小森さんは断れない!」「となりのフィギュア原型師」など攻めた作品を掲載する度量があり、「新しい企画を大胆に取り入れる」性格が強くなっていきました。
──「となりのフィギュア原型師」は色ごとを臆さず描いていて、絵的にも攻めることが多いですよね。最新の3月号(編注:取材は2026年2月に実施)に掲載された話のオチがすごくて、すでに4月号の展開が気になりすぎるのですが(笑)。
ぜひ買っていただいて(笑)。そうした攻めの作品を載せる性格が強くなる一方で、創刊時から強く意識されていた家族に向けた雑誌という個性は薄くなっていきました。仕事帰りに父親が買ってきたマンガ雑誌を家族で回し読む、かつての習慣が社会環境の変化で廃れたのが理由です。
──家族で同じマンガ雑誌を回し読む光景は、今はもうあまり想像できないですね。
家族向けのマンガ雑誌という発想は、まんがタイムが成功した要因でしたし、当時は新しかったんですけどね。誰もがマンガ雑誌を買えるコンビニが普及して、父親がマンガ雑誌を買っていた駅の売店の存在感が薄くなっていったのも大きいと思います。今やコンビニにマンガ雑誌が置かれることも減ってしまっていると思いますが。
──マンガが好きでも、4コママンガは読まないという人も少なくない印象があります。それは元来、家族に向けた雑誌に4コママンガが載っていて、マンガが好きな人を読者として想定していなかったことも、もしかしたら影響しているでしょうか。
影響の程度はわかりませんが、コアなマンガファンよりも、日常の延長で気軽に楽しむ読者さんが多かったのは事実だと思います。また、幅広い層が読んでいるため特定のジャンルに特化した雑誌とは異なるイメージを持たれていたとも感じます。
「休刊か?」と騒がれた2年前のリニューアル初期段階
──マンガ雑誌を家族で回し読んでいた時代から、それぞれが単行本で好きな作品を読むのが当たり前の時代に移り変わる中で、まんがタイムオリジナルはどう戦い方を変えていったんでしょうか。
弊社の全社員に配られる社史「芳文社50年の歩み」(2000年7月発行)があるのですが、まんがタイムオリジナル創刊前後の文脈で「単行本を作ったのがすごい」といったことが書いてあるんです。マンガは雑誌で読むのがそれだけ当たり前だったんですよね。その状況が変わって単行本が文化として根付き、雑誌単体ではなく、単行本の販売部数で利益をあげる構造に変化していきました。まんがタイム系列誌ももちろんその変化に合わせてはいましたが、まだまだ市場にアジャストしきれていなかった面もありました。
──今はすべての連載作品が単行本化されていますよね。いつからそうなったんですか?
リニューアルを開始した2024年4月号からです。単行本化のほかでわかりやすい変化は、「ラディカル・ホスピタル」のひらのあゆ先生以外にもいろんな作家が表紙のイラストを担当するようになったことですね。表紙イラストは長年ひらの先生が描いてくださっていたので、読者さんには衝撃だったと思います。そして5月号までに複数の作品が一気に完結したこともあり、「休刊か?」とネット上がざわついたのをよく覚えています。同時に新連載が続々と始まり、「どうしたんだ? 何が起こっているんだ?」と再びざわついて。
──変化が続いて読者も気が気じゃなかったんでしょうね。そうした反応も予想される中で、リニューアルを決めた理由を教えてもらえますか?
そもそも紙の市場が縮小しており、紙・印刷・製本・輸送とすべてのコストが上がるなか、どの出版社も雑誌は苦心していると思います。弊社も例外ではなく、編集部としても大きな危機感があるのが理由です。
──なるほど。リニューアル後に連載が始まった作品は、それ以前の作品と何か異なる点はあるのでしょうか。
1ページ1本のいわゆるワイド4コマを取り入れる作品が増えていきました。これは電子書籍の市場において、もっと存在感を出したかったという狙いもあります。1ページに4コマを2本掲載するスタイルは、スマホだと少々読みづらいんですよね。
──通常の4コマと横長のワイド4コマは表現手法もかなり変わりますよね。作者としてはいろんなチャレンジがしやすかったりするんでしょうか?
そうですね。ワイド4コマ自体はもともと同人誌で多かったスタイルなので、自由な表現が多かったのかもしれません。いずれにせよ、4コマの定型による安心・安定から生まれる面白さがあり、それをコマ割りが非定型のワイド4コマでどう外すか、あるいは感情の動きをいかに演出するか、ですよね。新聞の1コママンガを原点として4コママンガが広がり、1本の4コマにアイデアを1つずつ落とし込んで読者さんを楽しませてきた。そして、4コマを連続させて1つのストーリーとして構成していく作品が増えていき、通常の4コマとワイド4コマ、あるいはワイド4コマと自由なコマ割りを織り交ぜる、ハイブリッドな形が定番になりつつあります。
──まんがタイムオリジナルの連載作品では、ワイド4コマと自由なコマ割りを取り入れた作品が大半ですよね。
1ページ2本の4コママンガが得意な方はそちらを選択すればいいですし、ワイド4コマが得意な方はそちらを選択すればいい。あるいはエピソードの中で両方に取り組まれてもいいですよね。あまり語られていないんですが、植田まさし先生の「コボちゃん」は、単行本だとワイド4コマになっているんですよ。しかも単純に左右に余白を付け足すのではなく、右に寄せたり左に寄せたり、かなりコマごとに構成を変えられています。新聞に掲載されているものと見比べていただくとより面白いかと思います。
リニューアルのキーワードは“生活の中の色気”
──リニューアルを大々的に打ち出さなかったのはなぜですか? 改革が始まった2024年4月号でも特に宣伝されていません。
今までの読者さんを蔑ろにするわけではなく、過去から受け継いでいる文脈・文化を生かしながら進化している様子を伝えたかったからです。それに「リニューアルしました!」と言えるのはその瞬間だけじゃないですか。看板をかけ換えた結果、これまで支えてくださった読者さんに「自分の居場所がなくなってしまった」と寂しい思いをさせてしまうのが一番怖かったからです。既存の大切な読者さんの気持ちを尊重しながら、少しずつ変化していく形にしたかった。
──読者からの反応はいかがでしたか?
批判的なご意見も好意的なご意見もいただいたのですが、全体としては思っていたより早く馴染めた感触があります。非常にありがたいことにアンケートが平均値で10ポイント近く上がって、アンケートを寄せていただく数自体も増加しました。雑誌不況が叫ばれる中なんとか戦えていますし、まだまだやるべきことが多いですが、単行本の電子市場での売上も伸びています。うれしいことに新規の読者さんも増えていまして。「今オリジナルってこんな雑誌なの?」と、昔読んでくれていた読者さんが再び手に取ってくれてもいますね。さまざまな書店が販促キャンペーンを打ち出してくれたのも非常に助かりました。
──リニューアルするにあたって、何か方針やキーワードはあったのでしょうか?
作家さんには“生活の中の色気”と伝えています。人間、ただ普通に生きていくだけでも大変じゃないですか。特に30代以上になるといろんな面倒ごとが増えて、どことなく疲れている。だからだんだんと複雑なマンガは読むのを敬遠してしまう。ならば、なるべくいつもの生活と地続きであり、しんどいことも楽しいものに、そして生活の中から滲み出る色気も感じられるマンガを届けられたらいいのではないか、と。まんがタイム創刊の趣意にある「人々に笑いと安らぎのひとときを提供し、心にゆとりと人間らしさを取り戻してもらおう」という一文が、まさに芯です。時代を経てもそれを忘れずに、読者さんの満足度を高めていきたいと思います。
雑誌に続いてWebサイトをリニューアル、いつでも作品が読めるように
──今後さらに取り組もうとしていることはありますか?
電子市場で存在感を強めるためにもWeb上でのPRを強化しなければいけません。そのための施策として、まんがタイムのWebサイトを早ければ5月にリニューアルします。サイト名はまんがタイムSquareで、この記事が出る頃にはWebサイトの準備ページが公開されています。まんがホーム、まんがタイム、まんがタイムオリジナルの作品を段階的に載せていく予定で、最初の3話程度はいつでも読めるようにするつもりです。全話無料公開企画などもやりたいですね。
──各誌で昔連載されていた作品は掲載されるのでしょうか?
オープン時はリソース的に難しいと思いますが、いずれかのタイミングで掲載できたらいいですね。例えば期間限定で公開していくとか。過去の作品であっても、読者さんが初めて読んだタイミングが出会いになるので、連載が終わった作品に触れてもらう機会も増やしていきたいです。
──COMIC FUZ以外にも、芳文社の作品をWebで読める機会が増えるのは単純にうれしいです。
電子市場での存在感を強めるために、社内のいろんな人ががんばっています。電子書店は売れるジャンルや読者さんの消費傾向がはっきり分かれるので、まんがタイムオリジナルの作品がどの電子書店の読者さんに適しているのか、どうアプローチをしたら売れやすいのか、どういう読者さんに届けられる余地があるのかといったことを私もずっと考えています。ランキングの順位やレビュー数もかなり影響が大きく、紙の単行本とはまた違った売れ方があります。
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