鈴木慶一が語る「テクノ歌謡は僕らの砂場だった」
2008年11月26日 19:00 1
書籍に掲載される鈴木慶一インタビューの続きでは、1980年以降のことが話題に。おしゃれ番長・野宮真貴が1981年にリリースしたシングルに関する話から、「初音ミク」の印象まで、幅広い話を読むことができる。
「『テクノ歌謡』ディスクガイド」の内容を紹介する短期集中連載。1回目となる今回は、鈴木慶一インタビューの一部をお届けする。
インタビューはムーンライダーズがアグネス・チャンのバックバンドを努めた1975年当時の話から始まり、芸能とロックのかかわり、無国籍音楽の流行などについて、現場にいた当事者ならではの秘話を公開。テクノ歌謡の黎明期を肌で感じられる興味深い内容となっている。
40年近いキャリアと多岐にわたる活動ゆえに、当人にとっては不本意な部分もあるかと思うが、本書ではあえてこう呼びたい。鈴木慶一こそ、“テクノ歌謡界のゴッドファーザー”であると。テクノ歌謡はいかにして生まれたのか?その経緯を紐解く、貴重なインタビューとなった。(インタビュー・文/冨田明宏)
アグネスのバックは実はロックだったよ
――鈴木さんと歌謡曲の関わりについては、ムーンライダーズがアグネス・チャンのバックバンドをやっていた、70年代の結成時のころのお話が重要になってくると思います。当時はまだ、ロックと歌謡曲の対立構図みたいなものがあったかと思うのですが、いかがでしたか?
鈴木:確実にありましたよ。あれは75年なんだけど、アグネスのバックバンドとして、ムーンライダーズの歴史は始まったわけね。はちみつぱいのとき、夏に“アグネス・チャン・ショー”のバックで30分やったんですよ。その繋がり……だったと思うんだ。当時はロックと歌謡曲は、お互いに相手にしないぞという気持ちがあったような気がするね。じゃあなんでやったんだ?って話だよね。つまりは、カネがなかった(笑)。
――バンドを継続するために、相反する芸能の世界に歩みよらなきゃいけないと。
鈴木:あとアグネスは香港出身でしょう?これならやれるなと思った。どういうことかというと、ロックとの接点がまだあったんだよね。当時香港はイギリスの統治下で、大陸の文化と英国の文化が渾然一体としていてね。香港ツアーにも2回行ったんだけど、すごくうまいバンドと出会ったりもしたよ。ベースが元デ・スーナーズだったり。アグネスも自分のヒット曲もやるけれども、洋楽のカヴァーもやりたいというんですよ、彼女が。オリビア・ニュートン・ジョンとか、エルトン・ジョンの「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」とか。でもあのとき、友人を結構失ったな。
――「日本語ロックの開拓者だったはずのはちみつぱいが、何やってんだよ」みたいなことを言われたりとか?
鈴木:それもある。だから、毎晩飲んでいたような店にあまり行かなくなってね。もう行けないんだよ。1カ月前にやっていた音楽と全然違うわけだからさ(笑)。ま、でもね、レコーディングにおいては、ティン・パン・アレーがアグネスの「ポケットいっぱいの秘密」をやったり、松本隆さんが歌謡曲を書き始めたり、そういう動きはあったんだよ。だから、どこか“ミュージシャンズ・ミュージシャン”という括り方で、納得しておこうと。アメリカだと、どこのスタジオに行けばスタジオ・ミュージシャンで誰々がいるとか、昔はそういう固有のサウンドプロダクションがあってね。要するにミュージシャンは、シンガー・ソングライターのバッキングに興味がいくわけだ。そうやって、うまく自分たちが納得できるように、楽しくやろうと。「仮想ザ・バンド、ホークス時代」とか、そういうようなイメージでやっていましたね。
無国籍路線はテクノに至る布石だった
――実は、江利チエミさんが歌ったトルコ民謡「ウスクダラ」の新緑で、ムーンライダーズが当時バッキングをやってたんですよね?音源はお蔵入りになったそうですが。
鈴木:チエミさんがキングレコードで、はちみつぱいも傘下のベルウッド所属で。「江利チエミのアルバムを作りたいんだけど」という話が来たんですよ。ティン・パン・アレーも雪村いづみのアルバムを作ったりとか、そんなことが流行り出していたんだよね。
――もうシンセを使ってた?
鈴木:そうだね。そのちょっと前に、無国籍な音楽が流行したんですよ。“ミュージシャンズ・ミュージシャン”の中で。細野さんがそういうのをやっていたり、あがた森魚の「日本少年」があったり。そんなサウンドを意識しつつ、俺たちもアグネスのツアー中に「火の玉ボーイ」を作ったりね。その無国籍サウンドのルーツを振り返ると、チエミさんが昔歌われていた「ウスクダラ」が記憶に残っているんですよ。俺たちの「ウスクダラ」は結局ボツになっちゃったけど、勿体ないぞと。それで(ムーンライダーズのアルバムの)2枚目の「イスタンブール・マンボ」になるわけ。音楽を始めた当初は洋楽ばっかり聴いていたから、最初は英米音楽的なモノを作ったわけだ。すると、だんだんと日本の音楽が新鮮で、不思議なものに思えてくるんだな。なぜなら、日本の音楽を聴いてこなかったから。みんなオリジナルを作って発表し終わった後に、サウンドは違うけど、すごく日本的な景色を描こうとしたんだよね。我々の歌詞はもともと日本語だし、その着地点として無国籍音楽もあった。
――YMOがマーティン・デニーをテクノ化したように、オリエンタルなものが新しく思えた時期があったと?
鈴木:最初は非常に小さいコミュニティだけど、それはほぼ同時に起こったんだよ。特に細野さんが作る音楽が牽引してくれたね。
――要するに「歌謡曲って、日本独自のオリエンタルだよな」となったわけですか。
鈴木:考えてみりゃそうだなぁと。それが70年代になって、歌謡曲の世界にアイドルが登場してきた。ただし重要な点は、メロディーとかサウンドが、歌謡曲特有の湿り気を帯びるでしょう?フォークもそうだけどね。我々が関わるなら、その要素は避けたがった。無国籍なんだから。それがテクノ歌謡になると、非常に乾いた、無機質なものになる。だから俺たちも、やりやすかったんだよね。海外から見た日本や中国や東アジアというのは、非常に乾いた感じなんだよ。そっちの視点のほうに俺たちはなじみがあった。だったら、誤解されたまんまのほうがいいかなと、みんな思ったんじゃないかな。だから、洋楽の影響下にあった連中も参加しやすかった。その延長線上に、テクノ歌謡は確実にあるね。(書籍に続く)
※関連記事:[集中連載] あの3人が語る「テクノ歌謡と私」
小西康陽が語る「ベンチャーズとYMOと日本人」
本書で紹介している主な鈴木慶一作品
・江利チエミ「ウスクダラ」(1976年10月録音、V.A.「渡辺祐の発掘王 Fujiyama-Pops編」収録)
・FEVER「デジタラブ」(1980年11月5日リリース)
・岡林信康「Storm」(1980年11月21日リリース)
・イモ欽トリオ「ポテトボーイズNo.1」(1981年1月25日リリース)
・杏里「哀しみの孔雀」(1981年9月21日リリース)
・野宮真貴「ピンクの心」(1981年10月21日リリース)
・井上佳子、ビッグマンモス「ロボラボ★ピンポンパン」(1981年11月リリース)
・藤真利子「狂躁曲」(1982年1月25日リリース)
・桂木文「ひとりぼっちのコンチェルト / LE REVE D'AYA」(1982年11月5日リリース)
・矢野有美「ガラスの国境」(1985年9月25日リリース)
・渡辺美奈代「My Boy -a summer place-」(1988年8月19日リリース)
・EBI「MUSEE」(1991年8月23日リリース)

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