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kill me Elk 令和アバウト
聴いたことがありそうでない、さわやかな異形の音楽
文 / ナカニシキュウ
エレキベースを軸に組み立てられる独特のオルタナティブな音像と、朴訥としたメロディアスな歌メロが共存する、不思議な手触りのサウンド傾向を有するkill me Elkは、Day and Buffaloというバンドのフロントマンとしても活動する森達希(Vo, B)によるソロプロジェクトだ。ギターサウンドに近い感触ながらギターではなくベースが中心であるという類型化しづらいサウンドスタイルが最大の特徴で、あえて言うならベースミュージックならぬ“エレキベースミュージック”だろうか。
この「令和アバウト」という楽曲も、まさにそんな彼らの特異性を端的に堪能できる1曲だ。信じられないくらいに歪んだベースと軽快なドラムビートに朗々とした歌メロが乗ってくる構造で、ギターポップならぬ“ベースポップ”とでも表したくなるような味わいを備えている。岸田繁(くるり)や玉置周啓(MONO NO AWARE)などを彷彿とさせるような実直で飾り気のないクレバーな印象のボーカルとも相まって、構造的には普通のギターサウンドで演奏すれば美しくさわやかなギターポップとして響きそうな楽曲と言える。にもかかわらず、ファズベースを軸とすることで、聴いたことがありそうでない異形の音楽として響くのが本楽曲のスペシャルなポイントだ。
また、歌メロ以外のパートがプログレッシブな展開をするのも重要な聴きどころのひとつ。急に重たいシャッフルビートでゴシックメタルのようなベースリフが打ち鳴らされたかと思えば、なんの脈絡もなく怪しげなスキャットパートへとなだれ込む。キツネにつままれたような気持ちで呆然としていると、何事もなかったかのように歌パートへ戻るという寸法だ。わずか2分ちょっとという尺の中でQueen「Bohemian Rhapsody」並みの組曲感を楽しむこともできる、実に風変わりな1曲である。
kill me Elk「令和アバウト」
- kill me Elk「令和アバウト」
- 2024年7月29日(月)配信開始 / kill me Elk
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kill me Elk(キルミーエルク)
Day and Buffaloのフロントマンとしても活動する森達希(Vo, B)によるソロプロジェクト。ベースの音と町や自然の音を融合させ、ロードムービー的なサウンドや世界観を表現している。バンド編成で年間133本以上のライブを行うなど精力的に活動中。