神聖かまってちゃんがニューアルバム「団地テーゼ」を1月15日に配信で、1月22日にCDでリリースする。
以前まではほぼ毎年アルバムを発表してきた神聖かまってちゃんだったが、「団地テーゼ」は彼らにとって5年ぶりのオリジナルアルバム。とはいえこの期間もバンドは停滞していたわけではなく、アニメ「進撃の巨人 The Final Season」のオープニングテーマ「僕の戦争」が世界的に話題になったり、新たなメンバーとしてベーシストのユウノスケを迎えたりと、転機になるさまざまな出来事を経験しながら次なる一歩に備えていた。
そうして完成した「団地テーゼ」は、これまでにない濃度で徹底的に「病み」と「闇」を描いた作品だ。爽快なギターロックが比較的少なめな代わりに、バンドが言うところの“ホーリー”なサウンドの成分が全体的に多めで、1曲目「墓」の冒頭から一気にリスナーをその強烈な世界観に引きずり込んでいく。それはまるで劇薬のよう。もしかしたら聴く人によっては鬱々とした気分に侵食されてしまう危険さもあるかもしれないが、今の時代においては間違いなくこのアルバムに救われる人も多いはずだ。
この5年間の集大成であり、同時に問題作とも言えるだろう「団地テーゼ」について、メンバー4人に話を聞いた。
取材・文 / 橋本尚平撮影 / 沼田学
「刺さる人に刺さればいい」ではなく「刺しに行っている」
──前作「児童カルテ」から5年ぶりのオリジナルアルバムになりましたが、それまでほぼ毎年アルバムを発表してきたことを考えると、ずいぶんスパンが空いたなと思いました。どうしてここまで時間がかかったんでしょうか?
の子(Vo, G) やる気がなくなったからです。
──えっ?
の子 それは嘘です(笑)。やる気はバリバリあります。前のアルバムを出してから、ちばぎん(前ベーシスト)が脱退して、その直後にコロナ禍が来て、本当に暗いこととかも含めていろいろあって、自分を見つめ直す機会になって……いや、どうだろう? そんなことは関係ねえか(笑)。単純に「もうちょっとのんびりやってもいいか」って思った、というシンプルな話。アルバムは毎年毎年パンパン出さなくたっていいだろって。
──とは言っても、ライブやツアーは精力的にやっていましたし、の子さんはいろいろなアーティストに楽曲提供していましたし、のんびりと活動していたという印象は特にありませんでした。
の子 だからこそ今、5年分の名作ができたわけですよ。僕は歴史に残るとんでもないアルバムになったと思ってます。やっぱ毎年毎年アルバムを作ってるやつなんてバカです。溜めて溜めてから出せば名盤が出せるんですよ。
──5年というのはそこそこ長い期間だと思うんですが、皆さんにとってどんな時間でしたか?
mono(Key) 最初サポートメンバーとして入ったユウノスケが、メンバーとして一緒にやっていけるかどうかという観察期間ではあったと思います。ユウノスケがベースを弾くことになってすぐコロナ禍になって、無観客だったりお客さんが一切声を出せなかったりというライブになったので、それまで「客も含めてメンバーだ!」みたいな感じでやってきた僕らとしては、その頃はライブではない別のことをやってるような感覚がありました。
みさこ(Dr) ユウくんの初めてのライブは有観客だったんですよ。対バンのイベントで、会場がデカいから初めての人にはプレッシャーが強いだろうってことで、1曲だけ出てもらって。まずは肩慣らしというか。
ユウノスケ(B) そして次のツアーから本格的に参加、というところでライブが規制されてしまって。最初は何もしてない期間もあったけど、そこから無観客ライブ、声出しNGライブと段階を踏んで去年から声出しができるようになったので、ある意味、徐々にバンドに慣らしていくことができたかな?と思ってます。
──今の4人でのライブをしばらくやってみて、それ以前とどう変わったと感じますか?
の子 めちゃくちゃカオスな状態だった20代の頃と比べたら、当然しっかりしてますよ。もちろんよくも悪くもなんですけど、今は今のよさ、あのときはあのときのよさ、どちらにも時代時代のよさがある。人生と同じでバンド活動も絵巻物ですから、これからも変化していくと思います。
──バンド自身の変化とは違う話なんですが、最近のかまってちゃんのライブを観ていて、若い観客が多いなと感じました。長く活動を続けていく中で、ファンと一緒に歳を重ねるバンドも多いと思うんですが。
みさこ 若いお客さんは増えてます。もちろん今まで応援してくれてた人たちも、家庭の事情とかがない限りは観に来てくれてるんですけど。
──アニメ「進撃の巨人」でテーマ曲を2回担当した影響もあるんでしょうけど、かまってちゃんの音楽が時代を問わずに若い人に刺さっている、ということなのかなと。
みさこ でも進撃の直後に増えたのかというと、そういうわけでもないんですよね。
の子 うちらは「刺さる人に刺さればいい」って感じで曲を作って投げてるわけじゃないから。そういうスタンスでやってる人もいるだろうけど、神聖かまってちゃんは「刺しに行っている」。だからタイムレスであり、エイジレスな存在でい続けているわけです。
みさこ 昔ほどは、「死にたい」って言いづらい環境じゃなくなってるのかな、という気はします。だからそういう雰囲気にも抵抗なくハマってくれるのかも。
──今の時代の空気が神聖かまってちゃんとマッチしてきてるというのはあると思います。YouTubeの再生数ランキングを見ていると、特にボカロ曲が顕著なんですが、最近流行してるのはちょっと病んでいる曲が多いんですよね。例えば、こっちのけんと「はいよろこんで」も鬱の曲じゃないですか。
の子 ああ、確かに。
みさこ 最近のボカロ、めっちゃ聴いてるんですよね。雰囲気が昔とちょっと違ってて好きな感じ。
の子 でも、僕らが波に乗ってるって実感はありませんけどね(笑)。まったくない。
神聖かまってちゃんは、トイレの花子さんみたいなもんなんです
──今回のアルバム、ボリュームがすごくてびっくりしました。今までのオリジナルアルバムの中で一番曲数が多いですよね?
みさこ CDに入れられる容量ギリですね。
の子 今までのアルバムが2、3枚作れるくらいの量です。
──それはやっぱり、5年分の溜めていたものを出し切ってやった、みたいなことなんですか?
みさこ 全部出し切っているわけではなさそう。むしろ「こういう作品を作ろう」という考えに沿って曲を選んでる。例えば「カエルのうた」はめっちゃ昔に書いた曲だったけど、このアルバムに合うから入れたって感じ。
の子 そうだね。コンセプト的なものはあった。
──すごくコンセプチュアルなアルバムだというのは感じました。今までにないくらい、全体を通して鬱々として、死の匂いが漂っていて。
の子 でもそれは結局、曲を作ってるのが僕だからってだけです。学校の教室の隅っこで根暗な陰キャがオナニーしながら作ったアルバム。僕は、創作はリビドーだと思ってるんで。みさこさんの前で言うのもアレですけど、今回も気持ちいい射精ができたなって感じ。5年分のを出したから、このボリュームになったという。
──とはいえ、ここ数年のアルバムとは明らかに空気が違うように感じました。
の子 はいはい、前作「児童カルテ」からさらに深い進化がこのアルバムにはある気がします。それより前のアルバム、例えば「ツン×デレ」とかはもうちょっと社会性のある内容でしたよね。世の中のみんなで手をつなげるようなアルバムというか。でも今回はもう、手を差し伸べてきたやつをこう、ナイフでぶっ刺すようなアルバム。
──そうなんですよ。もう少し光が見えたというか、ポジティブな面があったのが、今回は少なくとも前半の収録曲に関しては徹底して救いがない。だからの子さんの今のモードは、先ほどの子さんが「社交性がある」と言っていたようなアルバムではなく、もうちょっと尖った作品なのかなと思ったんですよね。
の子 まあ、「尖った」って言葉が合ってるのかわかりませんが、単純に僕自身が進化したってことなんじゃないですかね。の子さんが芸術の頂きに向かってゆっくり登っているっていう。確かにその時々のメンタルが出てるというのもあるかもしれませんが。
──進化というのは納得です。鬱々とした曲は初期の頃にもたくさん作ってきたけど、かといって今作が「原点回帰」かというとまったくそんなことはなくて、むしろ新境地に感じます。
の子 社交性があるとはいっても、相変わらずイライラはしていて。なんだろうな……僕は学校でいじめられてた頃からずっと、トイレの花子さんみたいにそこにい続けてるんですよ。ドアをノックしたやつを引きずりこむ、みたいな(笑)。そういう存在としてあり続ける神聖かまってちゃんは、トイレの花子さんみたいなもんなんです。歳を取って丸くなる、ってよく言いますけど、あきらめとか絶望とかは増している。僕みたいな人もほかにいるんじゃないですかね。歳を取って逆にもっとひねくれたりとか。
みさこ めっちゃいると思うよ(笑)。
──ちなみにほかの皆さんは、アルバムの選曲をしているときにどう感じました?
みさこ 「覚える曲が多いな」って思いました(笑)。私は頭が弱いから覚えるのに時間がかかるので。
mono アルバムを出してない間も、曲を作るスパンは相変わらずだったので、それを1枚にまとめるのが大変そうだなとは思ってましたね。ここに入ってない曲にも、いろんないい曲がいっぱいあるんで。
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「進化した」ってことで、芯はずっと変わってないんですよ