2024年1月クールに放送されたTBS系ドラマ「Eye Love You」の主題歌「幾億光年」が大ヒットし、同年末の「NHK紅白歌合戦」に初出場したことも記憶に新しいOmoinotake。彼らのメジャー2ndアルバム「Pieces」が1月29日にリリースされた。
音楽ナタリーでは、ニューアルバムのリリースを記念し、「NHK紅白歌合戦」出場という大きな夢を1つ実現させたメンバーに、激動の2024年を振り返っての感想や、アルバムの制作秘話、今後の展望などについてじっくり話を聞いた。
取材・文 / 矢島由佳子
走り続けていると病んでいる暇がない
──2024年はOmoinotakeにとってどんな1年だったか、そして個人としてはどんな1年だったと感じているかを、お一人ずつ聞かせていただけますか。
藤井怜央(Vo, Key) Omoinotakeにとっては、今まで見たいと思っていた景色をたくさん見ることができた1年でした。テレビ番組に出演したり、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」「SUMMER SONIC」など出たいと思っていた全国のフェスのステージに立てたりしたことが本当にうれしかったです。個人的に1年を振り返って感じたのは、走り続けていると病まないということ。2023年まではやらなきゃいけないことが2024年ほどはなかった分、止まらざるを得ない時間があって、そうするとどうしても頭が変な方向にいっちゃうんです。去年はやらなきゃいけないことがたくさんあって病んでいる暇がなかったので、調子がよかったです。止まるとよくないんだなと気付きました。
福島智朗(B) ずっとコツコツやってきたバンドで、特にここ数年は同じ景色が続いていたけど、ようやく思い描いていた場所に近付くことができた1年だったと思います。人がこの年齢で当たり前に経験することも一気に押し寄せたおかげで、いい意味で心が老けたというか、自分の精神年齢がやっと実年齢に追いついた気がします。その影響でこれからどんな歌詞が書けなくなって、逆にどんな歌詞が書けるようになるのか楽しみです。
冨田洋之進(Dr) バンドにとっては激動の1年でした。個人的にも激動でしたけど、充実していたなと思います。長いようで、あっという間でした。テレビやフェスを含め、今までよりもライブをする機会が増えて、海外にも行くことができて、個人的にも徐々に気持ちが明るくなりました。やっぱり演奏できる機会がたくさんあると幸せですね。
──結成から12年、Omoinotakeはずっと“ヒット”と呼べる曲を追い求めてきた中で、「幾億光年」は正真正銘の大ヒットソングとなりました。今この曲に対して、どんな思いがありますか?
冨田 自分の人生を変えてくれた、とっても大切な曲ですね。
藤井 ASIAN KUNG-FU GENERATIONのライブを観させてもらったときの「リライト」や、何回か対バンさせてもらったMONGOL800の「小さな恋のうた」のように、リリースから何十年経ってもライブでたくさんの人が喜んでくれる曲になったらいいなと思います。最近は、何十年か後に自分たちは「幾億光年」をどういうふうに演奏しているだろうということを想像します。
──Omoinotakeは「NHK紅白歌合戦」に“出続けること”が目標だと公言してきました。実際に本番の舞台に立つと、またいろんな気持ちが湧いてくると思いますが、現時点では「紅白」に出られることに対してどんな気持ちがありますか?(取材は2024年12月下旬の「紅白」放送前に実施)
冨田 正直、まだ実感が湧かないですね。「ミュージックステーション」に初めて出させていただいたときも、すごく憧れの番組だったので「あの階段、降りれるんだ……!」みたいな感じで(笑)。そのときの気持ちに似ているかもしれないです。ワクワクしています。
藤井 個人的に、「『紅白』に出続けたい」という目標には2つの理由があって。1つはストリートライブをやっていたときの気持ちの延長線上で、シンプルに僕たちの音楽を老若男女に聴いてほしいということ。もう1つは家族や音楽以外の業種で働いている友達に、「Omoinotakeもがんばってるから、俺も自分の仕事や人生をがんばろう」と思ってもらいたいということ。古くからの友達はOmoinotakeが何年もくすぶっているのを見ながら「いつ芽が出るんだろう」と思っていただろうから、「続けることで目標の大きな一歩を踏み出せた」という姿勢を見せて、「やっぱすげえな」と思ってもらえたら一番うれしいです。Omoinotakeが「紅白」に出演するという情報が出たとき、たくさん連絡がきたんです。そういうコミュニケーションを毎年交わせたら最高なので、出続けたいですね。
福島 1年を駆け抜けながら、とんでもなく憧れていた場所に立たせていただいて感じたのは、それで自分や人生がめちゃくちゃ変わるわけではないということ。もちろん「紅白」に出られること自体はうれしいんですけど、その舞台だけで自分が激変することはないだろうなという予感がしています。だからこそ出続けることを目標にしておいてよかったと思います。実際に出てみないとわかんないですけどね。めちゃくちゃ変わっちゃうかもしれない(笑)。
1つでもピースが欠けたら成り立たないバンド
──エモアキ(福島)さんがおっしゃったように、ニューアルバムの表題曲「Pieces」でも「叶えた夢の その先が在るだなんて 知らなかったんだ」と、人生とは夢を叶えた瞬間がゴールではないことを歌っています。サビの「違う身体で 同じ夢を見れるだなんて 知らなかったんだ 重なり合えば 僕ら どんな色の 夢さえも 描ける」という歌詞も、バンドとしていくつもの夢を叶えた1年を過ごしたあとに歌う言葉として素晴らしくて。そもそも、なぜこのタイミングで発表するアルバムに「Pieces」というタイトルを付けたのでしょう?
福島 僕らは詞と曲を別々で作っているし(詞を福島、曲を藤井が担当)、1人ひとりの役割が大きいバンドだということをこの1年で改めて実感したんですよね。どれか1つのピースが欠けても成り立たないし、ステージにも立てない。それがバンドであることをすごく実感させられた1年でした。
藤井 自分のできることしかできないんですよね。俺は詞が書けないし。それぞれができることの結晶を集めて、やっとひとつの形になれる。そういうニュアンスを込めて「Pieces」にしました。
──「Pieces」という単語はバンドに限らず、人と人が共存するうえで大事なことを表現してくれているなと思います。楽曲はいつ頃書いたものですか?
福島 「Pieces」は、11月の終わりくらいに、アルバムのコンセプトを強調できるものにしようと思って書き始めました。今回のアルバムで、これだけ詞先で書いた曲ですね。僕たちは3人でやっているので、光の三原色という捉え方もできるなと思って「青」「赤」「緑」という言葉を入れたり。「プリズム」というのも、三角形のモチーフとしてすごくいいなと思ったし、前作「Ammolite」からの連なりを表現できる言葉だなと。そういったところから着想して、バンドに対するプライベートな思いを書きました。
“縛られない”のマックス
──1曲目「P.S.」も、バンドがこの1年感じたことが歌になっていると思います。しかも「Pieces」が夢を叶える美しさを描いているものだとしたら、「P.S.」はその裏側の泥臭さを表現しているようで。
福島 まさに「Pieces」というアルバムの始まりとして、表題曲と同じテーマで、1曲目にふさわしいものがいいなと思って書きました。でもめちゃめちゃ勢いがある曲なので、「Pieces」とは真逆のことを軽い切り口でできたらいいなと。その軽さから始まって、アルバム1枚を通して、ラストの「Pieces」で深いところにたどり着けたらいいなという気持ちもすごくありました。
藤井 そもそもシングルで先に出している曲やタイアップ曲を並べたときに、やっぱり1曲目はアルバムで初めて聴ける曲にしたいという思いがあって。そのうえで、「ガツンと始めたい」というところから制作がスタートしました。ほかの曲もそうなんですけど、今回のアルバムは「こういうビートでやりたい」というところから始まった曲が多くて。「P.S.」も「やったことがなくて、面白いものがないかな」と考えていたときに、ジャングルビートがいいなと思ったところから作り始めました。そこからはもう、面白がって楽しんで作った感じです。普通にジャングルをやるとなったら、ベースもダンスミュージック寄りにするのが定石だと思うんですけど、我々がバンドでやるならブリブリのルート弾きにしたほうが面白いかなって。もともと中高時代、エモアキはピックでガンガン弾いていて、その後ろで俺がドラムを叩いていたので、ピック弾きのエモアキをもう1回ここで引き出そうと。それこそ中学時代はメロコアを聴いていたし、叩いてもいたので、「Omoinotakeがジャングルをやるならメロコアもいけるわ」みたいな感じで、振り切ってハイブリッドな形で作りました。
──Omoinotakeはビートのハイブリッドの仕方が面白いし、それをJ-POPの中でいち早くやって、国内のメインストリームに持ち込んでくれているなと思います。しかも夢を叶えたタイミングでバンドの歩みについて歌いつつ、中学時代の原点的なスタイルも混ぜ込むというのが、とても素敵な発想だなと。
藤井 ありがとうございます。シティポップという言葉が流行り始めた2015、6年頃に我々はブラックミュージックを聴き始めて、そのとき吸収したものをいかにやるかということに縛られていたんですけど、ここ数年はそういうことを取っ払えるようになりました。その“縛られない”のマックスが、「P.S.」ですね。
冨田 この曲のドラムは大変ですね。僕のルーツに2ビートはなかったので。でも「いや、やらなきゃ!」と思ってがんばりました。
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