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aiko「シネマ」ジャケ写

aiko シネマ

川口春奈&松村北斗「アンサンブル」主題歌に見る、aikoが歌い続ける理由

文 / 森朋之

「第75回NHK紅白歌合戦」での「相思相愛」(劇場版「名探偵コナン 100万ドルの五稜星」の主題歌)の歌唱で大きな話題を集め、現在は全国ツアー「Love Like Rock vol.10」の真っ最中のaiko。デビュー27年目も精力的な活動を続けている彼女から2025年最初のシングル「シネマ」が届けられた。川口春奈と松村北斗が共演する日本テレビ系「土ドラ10『アンサンブル』」の主題歌であるこの曲は、3拍子のクラシカルなポップチューン。ソングライティング、歌唱、アレンジを含め、彼女の音楽の世界がさらに深みを増していることを告げる楽曲だ。

まずはアレンジについて。最初に聞こえてくるのは、バンド全体で激しく鳴らされる音。そして、静謐なピアノと「孤独とは儚いもの」という印象的なラインから「シネマ」は始まる。ベースとオルガンが華やかなメロディラインを際立たせ、表情豊かなドラムが楽曲全体を心地よくグルーヴさせていく。ボーカルに寄り添うように奏でられるギターのフレーズも素敵だが、特に印象的なのはストリングスの取り入れ方。サビの頭から登場する弦の響きは驚くほどに壮大なのだが、決して歌の邪魔をすることなく、aikoが「人生は自分にとっての映画だな」という思いを込めたという楽曲のコンセプトを増幅させているのだ。編曲は、川嶋可能。曲全体が映画の劇伴のようにも感じられるこの曲のサウンドには、川嶋の技術と感情がしっかりと反映されていると思う。

歌詞の根底にあるのは、孤独や寂しさ。大切な人と一緒にいて、この人しかいないと思っているはずなのに、ふとしたことで“1人”なんだなと感じる。この感覚はおそらく、多くのリスナーにとって馴染みがあるものだろう。もしかしたら最後までわかり合えないかもしれない。そんな思いを抱えながらも「シネマ」の主人公は、揺れ続ける感情とともに日々を送る。心に残るラインはいくつもあるが、筆者は「短い言葉で伝えられないの / 言葉にしたくて仕方ないの」というフレーズに強く惹かれた。人と人は結局、言葉でしかコミュニケーションが取れない。端的に自分の思いを伝えられたことなどなく、いつももどかしい思いをしているが、それでも「言葉にしたい」(≒わかり合いたい)という気持ちがなくなることはない。このフレーズはaikoが歌を作り、歌い続けている根源的な理由につながっているのではないか? 「シネマ」を何度も聴きながら、そんなことも考えてしまった。

aiko「シネマ」
2025年1月17日(金)配信開始 / ポニーキャニオン
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作詞・作曲:AIKO
編曲:川嶋可能

aiko

aiko

1975年生まれ、大阪府出身のシンガーソングライター。高校時代から作曲を始める。短大卒業後ラジオパーソナリティなどの活動を経て、1997年にインディーズアルバム「astral box」を発表。翌1998年にシングル「あした」でメジャーデビューを果たす。その後「花火」「カブトムシ」「桜の時」「ボーイフレンド」などのリリースしたシングルが次々とヒットを記録。2000年に「NHK紅白歌合戦」に初出場するなどトップアーティストとしての人気を不動のものとする。2011年には初のベストアルバム「まとめI」「まとめII」を2枚同時に発売。以降もコンスタントに作品を発表し続け、2018年にメジャーデビュー20周年を記念した13thアルバム「湿った夏の始まり」をリリースした。2024年1月から3月にかけてアリーナツアー「Love Like Pop vol.24」を開催し、最終公演で10年ぶりに東京・日本武道館のステージ立つ。8月には16thアルバム「残心残暑」をリリースし、6年ぶりに神奈川・サザンビーチちがさきでフリーライブ「Love Like Aloha vol.7」を開催。2025年1月には川口春奈と松村北斗が共演する日本テレビ系「土ドラ10『アンサンブル』」の主題歌「シネマ」を配信リリースした。