映秀。3rdアルバム特集|本人インタビュー+ゆかりのアーティストコメントで紐解く“E-POP”の魅力

映秀。の3rdアルバム「音の雨、言葉は傘、今から君と会う。」がリリースされた。

「音の雨、言葉は傘、今から君と会う。」は大学卒業を控える映秀。にとって約3年ぶりのオリジナルアルバム。カツセマサヒコと歌詞を共作した「瞳に吸い込まれて」「youme」、yuba寝とともに作詞した「ほどほどにぎゅっとして」など全13曲が収められている。

2ndアルバム「第弐楽章 -青藍-」から3年、映秀。は改めて音楽活動をする理由を自身に問い、作品作りにおける心境に変化があったという。大切な作品になったという3rdアルバムの制作過程について、本人にじっくり話を聞いた。

最終ページには映秀。とゆかりの深い秋山黄色、かやゆー(ヤングスキニー)、斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN、XIIX)、崎山蒼志、角野隼斗(かてぃん)、Tani Yuukiのコメントを掲載する。6人のアーティストが選ぶ「音の雨、言葉は傘、今から君と会う。」のお気に入りの1曲、そしてアーティスト映秀。の魅力とは。映秀。との仲睦まじい関係性が垣間見えるメッセージにも注目してほしい。

取材・文 / 森朋之撮影 / 入江達也

クリエイティブ人生において大事な時期に

──ニューアルバム「音の雨、言葉は傘、今から君と会う。」が完成しました。前作「第弐楽章 -青藍-」以降、約3年2ヵ月における映秀。さんの軌跡や変化が感じられる作品だなと。

そうですね。作品作りに対するマインドの変化があったし、そこから導かれて楽曲の作り方も大きく変わりました。このアルバムがどれくらい世に認められるかは正直わからないですけど、自分にとってはすごく手応えがあるし、これから進んでいく道が見えたなと思ってます。

──制作に対するマインドが変わったのはいつ頃ですか?

時期でいうと、「一味同心 2023」ツアーの北海道公演(TENDREを迎えた2023年1月のZepp Sapporo公演。参照:映秀。初の対バンツアーに向けたソロインタビュー&ゲストTENDRE、NakamuraEmi、崎山蒼志との対談3本)を終えたあとですね。TENDREさんのバンドマスターの小西遼さんとごはんに行って、「映秀。はなんで音楽をやってるの?」と聞かれたんですよ。「自分が楽しむためですね」みたいなことを言ったら、「それを目的にしなくても楽しめるはずだし、せっかくお客さんが来てくれてるんだから、もっと何かないの?」と返されて。「確かにそうだな」と思ったし、そこから「なんで自分は歌ってるんだろう?」という自問自答が始まったんです。

映秀。

──モチベーションの根本を見つめ直した、と。

ずっと考えた末に、「自分の思いを中心にした曲作りにしよう」って。それまではどちらかというと、音が優先だったんです。メロディ、サウンドを先に作って、あとから歌詞を乗せることがほとんどだったんですけど、コンセプトや思い、つまり歌を大切にしたいなと。もちろんすべてに尽力していますが、作り方の順序が変わったんですよ。DAWで打ち込んでデモを作っていたこれまでとは対照的に、このアルバムに入っている曲は弾き語りをベースにしている曲が多くて。いろんなテイストの曲がある中で、自分の意志だったり、歌が中心になっているという意味では一貫性があると思います。

──そうなると当然「何を歌うか?」をまず決めなくちゃいけないわけですが、その作り方はどうでした?

時間はかかるようになりましたね。考える時間が増えた分、曲を作るスピードは速くないけど、できあがった楽曲に対する思いは格段に変わったんじゃないかな。無意識にバーッと作るのではなく、1つひとつ意識して、「この言葉を伝えるには、どういう形が一番いいだろう?」と考えて。自分のクリエイティブ人生において確実に大事な時期だったし、そんな時間を経て完成したアルバムは大切な作品になりました。

大学生のうちに余計なプライドを捨てよう

──確かにこれまでの作品とはまったく雰囲気が違いますよね。映秀。さんの人となりがしっかり伝わってくるというか。以前インタビュ—させてもらったときに感じた、オープンでリラックスしていて、やみくもにポジティブというわけではなく、ちゃんと前を向いている意識が、このアルバムにもすごく出ていると思います。

うれしいです。1stアルバム(2021年発売の「第壱楽章」)のときは、自分がやりたいこと、僕の中から出てきたものをただ形にしていて。2ndアルバムの「第弐楽章 -青藍-」はちょっとだけ「こう見られたい」「こう見られたくない」というしがらみがあったんです。その後、自分自身を見つめ直していく中で、曲の作り方も変わってきた。結果論ではありますけど、自分とすごくシンクロしたアルバムになった気がします。あと、以前はちょっと背伸びしてたと思うんですよ(笑)。それはそれでよさもあるとは思うんですけど、今回のアルバムの曲はもっとしっくりくるというか、自分自身にピタッと合ってる感覚がありますね。

──1stアルバム、2ndアルバムは映秀。さんが10代のときの作品だし、アーティストとしての資質や個性を示す必要があったのかも。

だいぶありましたね、それは。たぶん「ナメられたくない」みたいな気持ちが強かったんでしょうね。バンドをやっていた時期もあるんですけど、僕がいた界隈は「ナメられたら終わり」みたいな雰囲気があって(笑)。一緒にやってたメンバーもパンク精神があったし、その精神を引き継いでいたのかも。でも、そんなことを気にする必要はないんですよね。自分がやりたいことを突き詰めて、きちんと形にした作品が誰かにナメられたとしても別にいい。ただ、そう思えるようになるために、自分のプライドをへし折る必要性があって。それは意図的にがんばりましたね。プライドは自信とつながっているというか、それに支えられていた自分もいて。余計なプライドを全部捨てて、裸の状態でやっていると、メンタル的にダメージを受けることもあるんですよ。もちろん、その期間があったからこそ、こういうアルバムができたんですけどね。

映秀。

──20代前半、学生のうちに「余計なプライドを捨てよう」と思えるのはすごいと思います。

逆に大学生のうちにやらないとダメだなと思ってたんです。今年の春に大学を卒業する予定なんですけど、今までは「テストを受けて、入学して、卒業する」ということを続けてきて。就職するとなったらもう一度テストを受けて、会社に入るわけですけど、アーティストになるということはそのルートから完全に外れるわけですよね。ここからは誰かが敷いてくれたレールではなく、自分のコンセプトに従って、自分で行き先を決めないといけない。そのために過去を振り返って、自分の持っているものを見つめ直して、しっかり指針を持って卒業したいなと。

──ちなみに卒業制作も“自分史”だとか。

そうなんです(笑)。アルバムはもちろん音楽という形で表現していますけど、過去を振り返るうえで、ちゃんと言語化すること、文章として記録することにもチャレンジしてみようかなと。それもきっと自分自身の指針を決める布石になる。その作業は今も続いていて、ボヤッとしたものを言語化している最中です。そういう思いはアルバムに入っている「涙のキセキ」にも込めていて。過去を振り返るのって、体力も気力も勇気もいる。同じようなことを経験した人を応援できる曲を作りたいなと思ってたんですけど、今となっては「『涙のキセキ』は自分に必要な曲だったんだな」と。「黄色の信号」もそうで。大学の同期がみんな就職していく中で、自分だけまったく違う道を行くことについての葛藤が詰まっています。

──映秀。さんのマインドの変化の過程そのものが曲につながっているんですね。

そうですね。「涙のキセキ」の歌詞にも書いてますけど、「こんなにつらいことが一続きに起きてきた中で、全部乗り越えてきたから今があるんだな」と思って。どんな人にも過去はあるし、すべてを乗り越えて、今日まで来た。それはすごく誇らしいし、美しいし、愛しいことなんだなって心から思いますね。

映秀。

カツセさんの文章には◯◯がある

──シリアスな思いも含まれているアルバムですが、全体を通してすごくポップだし、温かいイメージがあります。そこは意識していたんですか?

意図して明るくしたわけではないですね。ただ、モードとしては「自分の中のポップを形にしたい」と思ってました。たぶん「縁」を作ったあたりかな。“E-POP”つまり“映秀。ポップ”を作っていきたいと思うようになって。音楽的にポップミュージックに統一するということではないんですけどね。いろんなジャンルの音楽が好きだし、音楽的な興味もいろんな方向に向いているので、自分の思いや哲学がちゃんと込められているというのが共通項なのかなと思ってます。

──アルバムの収録曲についても聞かせてください。まず「瞳に吸い込まれて」。この曲と12曲目の「youme」の作詞は小説家のカツセマサヒコさんとの共作ですが、カツセさんとの出会いのきっかけは?

僕、景色や人の顔が頭の中で想像できないんですよ。アファンタジア(頭の中でイメージを視覚化することができない症状)というんですけど、心的なイメージも浮かべることができなくて。「温度が伝わる、景色が見える歌詞が書きたい」と思ったときに、以前から作品を読んでいたカツセさんに頼んでみたらどうだろう、と。カツセさんの文章には景色や温度だけではなくて、読み手が自分を重ねられるような余白があるんですよ。扱ってるテーマも恋愛だけではなくて、社会問題なども作品と絡めながら描写していて。それは僕がやってきたことともリンクしているし、ぜひ一緒にやってみたいなと。

──カツセさんご自身も音楽に詳しいし、意義深いコラボだと思います。「瞳に吸い込まれて」の作詞はどうでした?

「『瞳に吸い込まれて』というタイトルの曲を書きたい」と僕が思ったところから始まりました。僕は話している相手に集中して、グッと吸い込まれるような感覚になることがあって。その刹那の瞬間を曲にしたいなと思ったんです。「ずっとこの人と話していたいな」と思うことがあると同時に「でも、いずれ終わっちゃうんだよな」という気持ちもあるし、もっと大きいスケールで「でも死んじゃうんだよな」みたいな考えがチラつくこともある。そんなことすらも忘れさせてくれる出会いについて歌いたくて、この曲を書きました。

──カツセさんと歌詞を書いてから、曲にしていった?

この曲はそうだったかな。全部そうというわけではなくて、フレーズごとだったり、サビの歌詞が先にできたり、順番はいろいろなんですけどね。今回のアルバムに関して言えば、サビだけはメロディを先行させて、あとは歌詞を優先することが多かったです。さっき話したようにコンセプトや思いが中心にあるのは同じなんですけど、あとは積み木のように、少しずつ積み上げていく感じですね。

──構築していくという意味では、これまでのアルバムで培ったやり方が生かされているのかも。

確かに! 作り方を一新したというか、ゼロから始めた気持ちだったんですけど、1st、2ndアルバムでやっていたことも生かされているかも……今、ハッとしました(笑)。