KREVA展示イベント「ラッパーと紙とペン」特集|20年の“跡”を視覚でたどる、初の原書展に懸ける思い

1月24日から2月3日まで、東京・GALLERY X BY PARCO(渋谷PARCO B1F)にて、KREVAのソロ活動20周年を記念した原書展示販売会「ラッパーと紙とペン」が開催される。

KREVAが楽曲制作を通じて肉筆で紙に書き留めてきた歌詞やメモ、ノートといった“原書”が70点以上展示され、それらの一部がオークション形式で販売もされるこの企画。会場で展開されるインスタレーションのコンセプト協力には現代美術家の松田将英が参加し、物販にはKREVAが愛用しているファッションブランドALMOSTBLACKとのコラボアイテムも並ぶ。2月19日にリリースされる通算10枚目のオリジナルアルバム「Project K」と併せて、この展示会ではKREVAの20年を映し出す「軌跡と今」を体感できると言っていいだろう。展示会を前に、本企画が立ち上がった経緯やこだわりについてKREVA本人にたっぷり解説してもらった。

取材・文 / 三宅正一撮影 / 入江達也スタイリスト / 藤本大輔(tas)ヘアメイク / 結城藍

展示会情報

KREVA20周年記念 原書展示販売会「ラッパーと紙とペン」

KREVA20周年記念 原書展示販売会「ラッパーと紙とペン」

KREVA20周年記念 原書展示販売会「ラッパーと紙とペン」

2025年1月24日(金)~2月3日(月)
東京都 GALLERY X BY PARCO(渋谷PARCO B1F)

営業時間:11:00~21:00
※入場は閉場の30分前まで。
※最終日18:00閉場。
※混雑状況により事前予約や整理券配布となる場合がございます。

入場料:908円+税(税込999円)
※入場特典付き、未就学児無料

公式サイト

大白小蟹の原画展で感じた尊さ

──KREVAさんにインタビューしている中で、原書展のアイデアはコロナ禍前から話していた記憶があります。実際、いつ頃から構想があったか覚えてますか?

はっきりとは覚えてないですけど、今回展示する原書は、例えば書道家や画家のように作品を完成させることを目的にしたものではなくて、音楽という最終目標を達成するために書いたものなんですよね。レコーディングで歌録りをする際に清書したものとか、歌詞を考えるときに書いていた紙を集めた。スタジオに散乱していた紙をもともと洋服が入っていた箱の中に収納したときに、これはこれで作品のようなパワーがあるなと思ったんです。あと、自分でもびっくりするくらい走り書きしているものもあるなと思って。それを見た瞬間に「頭の中にこの言葉が思い浮かんで消えてしまう前に書こうと思ったんだ」とわかるような文字があった。これを誰かに見てもらうことで、何かのインスピレーションになるんじゃないかなという直感を覚えて。紙の数もすごいことになってきたから、展覧会的に見せられるかもしれないと思い始めたのが、おそらく4、5年前だったと思います。

KREVA

──近年、KREVAさんは文房具愛好家としてもフィーチャーされる機会が多いですし、日々のルーティーンとして自分にフィットするペンを使って毎朝、紙に文章を書いてますよね。そういった点が線となり今回の原書展につながったという見方もできるのではないかと。

それはあるかもしれないです。ここ(原書展)に収束したというかね。去年の4月1日に独立してから、これまで以上に自分がやりたいと思ったことに全力で向き合って、それに向けて動けるようになった。それは「KREVA CLASS -新しいラップの教室-」(脚本・演出を小林賢太郎が手がけ、KREVAが音楽・主演した“授業型エンターテイメント”。2023年4月から6月にかけて横浜、大阪、東京で開催)もそうだし、今回の原書展もその影響。

──さらにソロ活動20周年のタイミングとも重なった。しかも、今回の原書展はリリックを書き留めた一部の“作品”をオークション形式で販売することも大きなポイントですね。

はい。販売したら面白そうだなと思うようになったのは、ここ最近ですね。きっかけは、大白小蟹さんの「うみべのストーブ 大白小蟹短編集」というマンガの原画展を偶然観たことで。そこで原画を販売していたことが、俺にとっては衝撃的だったんです。あまりの衝撃に受付に行って「すみません、本当に原画を買えるんですよね?」って聞いて。「はい、買えます。会期が終わったらお手元に届くようになってます」と。それで2枚の原画を買いました。「うみべのストーブ」はランキングでも1位になるくらいの作品(「このマンガがすごい!2024」オンナ編1位を獲得)で、俺も含めて多くの人の手元にコミックが渡っているけど、その原画がウチにあるという不思議な感覚。ここに世界に1つしかない作品のピースがあるという尊さ。その経験が、原書を販売するにあたってデカかったかもしれないです。

KREVA
KREVA

歌詞を書いた紙も音源芸術が完成する途中

──原書展の開催が決定し、改めて自分が歌詞を書き留めたいくつもの紙に触れて、リリックの筆致やペンを走らせる筆圧の変化についていろいろと感じることもありましたか?

ありましたね。最初期はノートに歌詞を書いていて、今回、そのうちの6冊も展示します。その時期から振り返ると、スタジオに入ってレコーディングする際に、俺はそのノートを見ながら歌えばいいけど、レコーディングエンジニアにも歌詞を渡さなきゃいけなくて、そのために紙に歌詞を書き出したんだと思うんです。そのうち所属していた事務所内にスタジオができて、そこにあったコピー紙に歌詞を書くようになった。なので、初期の原書はスタジオに置いてあったコピー紙と鉛筆で書いていて。それが徐々にゼブラのハイマッキー(油性マーカー)の細いほうでそこらへんにある紙に歌詞を書いていくというのが1つのスタイルになり、どんどん裏紙を使うようになっていったんです。その裏紙というのは、例えばAというアルバムがあって、その次にB、Cという作品を作ってリリースするとしたら、Aのレコーディング用に印刷された紙を捨てるのはもったいないから、その裏にBのアルバムの歌詞を書いていくみたいな。自分でそれを見ると、「これの裏紙にこの歌詞を書いてるんだ」という発見があったりして。あとは、フィーチャリングやプロデュースで参加した曲の歌詞が印刷された紙があって、そこに「このテイクがいい」とかを手書きでチェックしている。で、その紙を捨てるのももったいないから、さらにその裏に自分のアイデアを書いていたり。それが定番化されていたので、裏紙の面白さも含めて展示したいと思ったんです。あとは筆圧という意味では、裏紙であるがゆえに思いっ切り文字を書いている感じがある。最初から人に見せようと思って書いたものじゃないから、自分だけが理解できる記号とかも書いてあって。そういう面白さも感じてもらえると思います。

──展示をしようと思って書いたものじゃないというのが大きいですよね。

そうじゃなかったら展示したいとは思わなかったです。そもそも自分の字はそんなに好きじゃないし、だからこそ自分の字が調子よく書けるペンをすごく愛してるところがあるんですよね。

──まさに文房具愛とつながっている。

そう。歌詞を書いた紙を見ると「思いついた!」という衝撃が強すぎて、俺でもギリギリ読めるような、のたうち回っているような文字になっていて、その瞬間の記憶がよみがえるんです。「あ、これはボーカルブースで書いたけど、なんか違うなと思って書き直してるな」とか。譜面台に紙を置いて書いてるから、文字が揺れてるとか。

──ドキュメンタリックなアートピースというか。

これが設計図だったらもっと丁寧に描くじゃないですか。でも、これはデッサンとも違う面白さがあって。「アートでござい」みたいな感じで、筆で書いたとしても俺にとっては面白いものじゃないんです。

KREVA

──最終的なアウトプットは音楽ですからね。音楽を完成させるために書かれた肉筆である。

しかもその最終的なアウトプットである音楽は、大量に複製されることを前提にしたものであるという面白さ。でも、そこに向かって1枚1枚紙に手で書いたものは唯一無二であるという矛盾。「オリジナルとはなんぞや?」という問いがそこにはあって。それは今回の裏テーマにもなっています。原書展に来てくれる人は、会場に設置されたQRコードからその曲に飛べるので、原書を見ながら曲を聴けるんだけど、見ているその原書が本物なのか、あなたが聴いている曲が本物なのかという答えのないループみたいな。今日の撮影でも今回販売するパーカーを着てるけど、このデザインもオリジナルとコピーに対する問いかけのように、あえてコピーっぽいものにしていたり。そういうところもすごく意識しています。

──このオリジナルとコピー論だけでも十分に語ることができそうですね(笑)。

本当にそうですね(笑)。自分の音源芸術は複製として世に渡るもので、そうすることでみんなが楽しめるものになり、ライブに来てもらえる。音楽の歴史としても、たった1回の演奏会に人が集まっていたのが、音源を録音できるようになって。今は枚数限定のレコードやCDが貴重なものになっているけど、原書展にはそのもっと前の段階に生まれたものに触れながら曲を聴くという面白さがあると思います。でも、俺が歌詞を書いた紙も音源芸術が完成する途中のものであって。「それって何?」みたいな(笑)。そして、それを買えるというスペシャルさもある。

──今は音源が完成して入稿するときにwavデータを納品するけど、それすらも最初からいくらでも複製できるものですからね。

そうなんですよ。じゃあ俺がその音源の歌詞を清書して、そこでハンコでも押して「これがオリジナルです」って言い出したら、どうなるんだとか(笑)。