「Walk with FAN supported by FAM」第1回|muqueはファンと支え合う

通学や通勤中にお気に入りの楽曲を再生したり、歌詞の世界に自分の生活を重ねたり、ライブハウスで大音量の演奏を浴びたり……日常の中でアーティストたちが発信する音楽に勇気をもらい、背中を押された経験があるという人は少なくないはず。では逆にアーティストにとって“ファンの存在”とは果たしてどんなものなのだろう?

音楽ナタリーでは、株式会社Nagisaが運営するファンクラブおよびアーティスト支援サービス・FAMの協力もと連載企画「Walk with FAN supported by FAM」を展開。さまざまなアーティストに話を聞き、ファンとの関係性や、ファンの存在が創作活動にどのように生かされているのかを掘り下げていく。

第1回は、昨年10月に1stフルアルバム「Dungeon」をリリースした福岡在住の4ピースバンド・muqueが登場。2022年の結成から着実に活動の規模を広げているmuqueに、音楽生活の中でファンの存在を意識する瞬間や、その存在が創作やステージングにどのような影響を与えているのか話を聞いた。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 梁瀬玉実

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muqueインタビュー

バンド、スタッフ、ファンの“みんな”でステージに上がっている

──今日は皆さんに、バンドにとって“ファン”とはどのような存在か、そしてファンという存在がmuqueの表現に与えている影響ついてお話を伺えたらと思います。先日開催されたWWW Xでのワンマンライブでは、「qrog(クロッグ)」というファンネームを発表されていましたね(※インタビューは昨年12月中旬に実施)。

Asakura(Vo, G) takachiがよくSNSでカエルの絵文字を使っていたんです。そしたら、いつの間にかカエルがmuqueのトレードマークのようになっていって。それで「frog(カエル)」とmuqueの「q」をかけ合わせて、「qrog」というファンネームができました。

takachi(Dr, Track make) 最初は単純に「ポップでかわいいな」くらいの気持ちでカエルの絵文字を使っていたんですけどね。それがファンの人たちもSNSでカエルを使ってくれるようになって、徐々に浸透していきました。

muque

muque

──思わぬところから意味が生まれるものですね。

Kenichi(G) そうなんですよね。最初はまったく意図していなかったものですから(笑)。

──あの日のワンマンや、あの公演を含むアルバム「Dungeon」リリースを記念したワンマンツアーにはどんな手応えを感じていますか?

Lenon(B) muqueとして初のワンマンツアーだったんですけど、お客さん全員が自分たちだけを観に来てくれているというのが、いい意味ですごく特殊な空間でした。普段あまりライブで緊張することはないんだけど、僕らのワンマンに時間やお金を使ってくれた人たちが目の前にいるんだと思うと、プレッシャーもあって。でも、やれてよかったです。お客さんとの距離がより近くなったというか、「自分たちの世界観をお客さんと一緒に作っていこう」と思えたツアーでした。

Kenichi 各会場すごい熱量でしたけど、前からmuqueの活動を追ってくださっている人ばかりじゃなくて、今回初めて僕らのライブを観るという人もたくさんいて。僕は、ライブはお客さんと空間を共有して楽しむものだとずっと思っているんですけど、それを具体的に形にできたツアーでした。ライブを重ねながら、自分たちも、スタッフさんも、お客さんも含めた“みんな”でステージに上がっている感覚がすごくありましたね。

ワンマンツアー「muque 1st Oneman Tour "Dungeon"」東京・WWW X公演の様子。(Photo by Ray Otabe)

ワンマンツアー「muque 1st Oneman Tour "Dungeon"」東京・WWW X公演の様子。(Photo by Ray Otabe)

muque(Photo by Ray Otabe)

muque(Photo by Ray Otabe)

プロ意識の向上につながった

takachi 今回のツアーはチケットを発売してからソールドアウトするまでの時間がすごく短くて。自分たちが想像していないところでmuqueの名前が広がっていること、期待されていることをすごく感じました。それによってプロ意識も上がったと思います。本番に向けてのリハーサルも力を入れていたし、曲と曲のつなぎにもこれまで以上にこだわりました。そうやって「お客さんを飽きさせないように」と意識した部分は、ちゃんと伝わった気がしますね。狙った場所で期待通りのレスポンスが起こると、それに僕ら自身が救われることもあって。お客さんと一緒にテンションを上げていけるライブを、初のワンマンツアーでできたことがうれしかったです。

──プロ意識が上がると、やはりステージングやプレイも変わりますか?

takachi プレイ自体を変えることはないですけど、普段の練習方法を見つめ直す機会は増えましたね。あと、「ステージ上で目線をどこにやるか?」という点での考え方は変わったと思います。

takachi(Dr, Track Make)

takachi(Dr, Track Make)

Kenichi そこは各々あるだろうね。Asakuraはお客さん1人ひとりと目を合わせるように意識しているよね? 普段から「お客さんの顔が見えていないと緊張する」と言っているし。

Asakura うん。ライブも会話と一緒だと思うんですよね。お客さんの表情が見えないと「今どういうパフォーマンスが必要なのか?」ということが考えられなくなっちゃうので。

──そんなAsakuraさんは、初のワンマンツアーはいかがでしたか?

Asakura ワンマン、最初はすごく怖くて。今までは「muque目当てじゃないお客さんをどうやって虜にするか?」ということを考えてライブに集中していたけど、ワンマンはmuque好きしかいないじゃないですか。そういう場所だからこそ「ちょっと失敗しただけでみんなが離れてしまうんじゃないか?」とか、そういう心配が最初は大きかったです。でも、いざ蓋を開けてみたら、レスポンスも返してくれるし、些細な部分まで見てくれているお客さんばかりで前向きな気持ちになれました。「今はメンバーだけじゃなく、ついてきてくれるお客さんもいるんだ」と思えた。その人たちのことも背負っていこうと思えたツアーでした。

Asakura(Vo, G)

Asakura(Vo, G)

ファンの存在を感じる瞬間

──皆さんが普段の活動の中で、特にファンの存在を強く感じる瞬間があれば教えてください。

takachi 僕はライブですね。フォロワー数や再生回数のような数字によって見えるものも大きいし、そこに驚くこともあったけど、それがファンがいることの実感につながっていたかと言うと、そうでもなかったんです。でも自主企画ライブをやったとき、ステージに上がった瞬間にお客さんの歓声が聞こえてきたんですよ。そのとき「本当にこれだけたくさんの人が聴いてくれていたんだ!」と再確認させられました。だから僕がファンの存在を100%実感できるのは、ステージに上がった瞬間。今でもライブの規模が大きくなるたびに、常にそれを再確認させられている気がします。

Kenichi 僕もtakachiと一緒で、ライブは大きいです。ただ、muqueを始めて最初の1年間、ライブをせずに音源をひたすら作っていた時期は、リスナーがYouTubeに残してくれるコメントも大きかったです。例えば、コロナ禍に出した「pas seul」という曲に「この曲に救われました」とコメントしてくれる人がいて。AsakuraのDMにもそういうメッセージが届いたんだよね。

Asakura うん。

Kenichi 自分たちの見えないところで、自分たちの曲に救われる人がいるんだということをあのとき知りました。あと、海外からのコメントも刺激になりましたね。

Lenon 僕がファンの存在を強く感じるのはSNSのコメントです。SNSのコメントって、すごくリアルなんですよね。しかもコメントの数で「今、muqueを聴いてくれる人が増えているんだ」ということが、ライブだけじゃなく日常的に実感できるようになって。すごく印象的だったのは、僕らはいろんな場所でライブをやりますけど、SNSを見ていると、全会場に来てくれるファンの方もいるんです。そこまでの熱量で自分たちのライブに足を運んでくれている人がいるんだと、ファンの存在の大きさを感じました。

Asakura 私は過去のインタビューで「お客さんに向けて歌詞を書くようになった」と話していて。きっと「muqueの音楽を聴いてくれている人がいる」というのは気付いていたけど、あまり実感はなかったんですよ。でも、レコ発キャンペーンのサイン会で、1対1でお客さんと対話して「本当にいた!」と実感しました。「仕事帰りに急いで来ました!」という人もたくさんいて。仕事終わりで、家でゆっくりしたいだろうに、走ってきてくれたんだと思うと……うれしかったですね。

muque

muque

「みんなは光だよ」

──ファンに向けて歌詞を書いた曲で、Asakuraさんが今思い浮かぶのはどの曲ですか?

Asakura 「desert.」を書いたあたりから、自分の中でお客さんについて考える時間が増えたような気がします。muqueにファンがついてきてくれているということを実感したのもその頃なので。「desert.」を作っていた時期は、メロディがなかなかできなくて「どうしよう、どうしよう……」と苦しんでいて。そんなときも、ライブをするのはすごく楽しかったんですよ。だからこそ「ライブのために曲を書くしかない」と思ったし、それで「私にとって、みんなは光だよ」というメッセージの歌詞になったんだと思う。それまでの歌詞は、本当に「自分!」という感じで。ストレス発散じゃないけど、人に直接言ったら傷付けてしまうようなことは「歌詞に書いちゃえ!」という意識はあったと思います。「伝わる人には伝わっちゃえ!」って。

──今はファンに向けた曲が増えた?

Asakura そうですね。最近はお客さんに向けた曲ばかりです。私、お客さん大好きなので(笑)。今はもう、ファンのみんながmuqueを好きなこと以上に、私のほうがファンの方が大好きだと思います。

一同 (笑)

──ファンの存在は光とおっしゃいましたが、Asakuraさんは基本的にずっとそういう姿勢でファンと向き合っていますよね。自分が光を与えるというよりは、ファンに光を与えてもらっている感じというか。

Asakura それが私にとっての普通です(笑)。

Kenichi でも、最近は特にその感じは強いよね?

Asakura だって1人じゃ何もできないから。1人でできないから、バンドをやっているわけだし。バンドってそういう人の集まりだと思う。

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