モウソウキリン 今日は絶対KISSしたい

2022年に専門学校の同級生で結成したという女性ボーカルの4人組バンド・モウソウキリン。1st配信シングル「今日は絶対KISSしたい」は、パッと聴いた印象では非常にオーソドックスで平凡なポップロックチューンのように響きやすい1曲だが、実のところはかなりのクセ者ナンバーである。しかしながら、そのクセ者感が前面に出ないよう巧妙に計算された音作りが隅々にまで徹底されており、あくまでもわかりやすく取っつきやすいフレンドリーな音楽に聞こえることを至上命題に掲げているかのような、極めて高度なプロデュースワークが光っている。

楽曲の作り自体は非常にストレートで、KissやThe Kinksなどのクラシックロックを思わせるシンプルなコードリフで始まり、8ビートを刻むミニマルなバンドアンサンブルが繰り広げられる。使用されるコードやメロディラインにもさほど奇をてらったところはなく、ややもすると“単なるよくできた普通の曲”に聴こえてしまうことだろう。これが大いなる落とし穴の入口である。

特に油断ならないのがギターで、ハーモニクスやアーミング、ミュートアルペジオ、タッピングなどなど数えきれないほどのさまざまな奏法が隙あらばしれっと差し込まれる。本来、このようなストレートなポップロック曲にそんな大量のテクニックを投入する必要はなく、無理に入れるとアンサンブルが破綻してしまうのが普通なのだが、決してそうはなっていないところに彼ら特有の類いまれなセンスと執念深さを感じ取ることができる。ラストのサビ後半におけるリハモパートなどにも同種の異様さを見いだせることだろう。スルッと聴けるライトなポップスのようでいてなぜか簡単には聴き流せない、本年の干支でもあるヘビのように怪しげな魅力にあふれた一筋縄ではいかない1曲である。

モウソウキリン「今日は絶対KISSしたい」