くるりが感じる“ありのままの音”とは? Technics「EAH-AZ100」は一度使ったらもう戻れない

Technicsの新作ワイヤレスイヤホン「EAH-AZ100」が発売された。

「EAH-AZ100」は「ありのままの音が生きる、生音質へ。」をキャッチコピーに掲げる完全ワイヤレスイヤホン。業界で初めて(※)磁性流体ドライバーを搭載しており、そのコピーに違わぬ、クリアで臨場感のある音を堪能することができる。音楽ナタリーでは本製品の特集として、人気アーティストたちに「EAH-AZ100」を体験してもらった。その第1弾である本記事に登場するのはくるりの岸田繁(Vo, G)と佐藤征史(B)。前作「EAH-AZ80」の特集(参照:4組のアーティスト / クリエイターが語る、新作ワイヤレスイヤホン「EAH-AZ80」の魅力)にも登場し、「本当に感動しました」「『音楽を聴くのが楽しい』と思えた」と大きな賛辞を送っていた彼らだが、「EAH-AZ100」についてはどのように感じたのだろうか? 「AZ80」との違いも含め率直な感想を語ってもらった。

またインタビューの後半では、デビュー時より26年間在籍していたSPEEDSTAR RECORDSから離れた今の心境についても話を聞いた。

※完全ワイヤレスイヤホンにおいて、初めて磁性流体を用いたドライバーを搭載。パナソニック調べ。2025年1月23日発売商品。

取材・文 / 石井佑来撮影 / YURIE PEPE

Technics「EAH-AZ100」

Technics「EAH-AZ100」

Technics「EAH-AZ100」

「ありのままの音が生きる、生音質へ。」をキャッチコピーに掲げる、Technicsの完全ワイヤレスイヤホン。磁性流体ドライバーを搭載しており、振動板の正確なストロークで音楽を再生することで新次元のクリアさと臨場感を実現している。「EAH-AZ80」よりコンチャフィット形状を小型化し、軽い着け心地で多くの人に快適なフィット感を提供。また市場の要望に応え、通話やノイズキャンセリング、バッテリー性能なども使いやすさが向上している。

公式サイト

一度使ったらもう戻れない

──お二人には前回の「EAH-AZ80」特集にもご出演いただきました。その際に「AZ80」の音質や性能を絶賛されていましたが、その後日常でも使用されていたのでしょうか?

佐藤征史(B) はい、愛用しています。もともとTechnicsさんのものではないワイヤレスイヤホンを使っていたんですけど、正直あまり信頼が置けなくて、有線のイヤホンも持ち歩くようにしていたんです。でも前回の特集に出演してからは「AZ80」しか使っていません。

岸田繁(Vo, G) 私も佐藤と同じです。もともと有線のイヤホンやヘッドホンを使用することが多かったけど、「AZ80」をいただいて以来、ヘッドホンを使うこともなくなりました。音質はもちろんですけど、操作性がシンプルで煩わしくないのもいいんですよね。わりとデイリーに使えるというか。

──そんなお二人に今回は「AZ100」を使用していただきました。まずは率直な感想をお聞かせください。

岸田 「AZ80」がよすぎたので、今回お話をいただいたときに「100かあ」と思ったんですよ。それぐらい「80」を気に入っていたというか。「80」でもう十分素晴らしいから、あまり期待しすぎてもなあなんて思いながら一聴したら、その瞬間「100でしょ!」と(笑)。プロモーションの場だから言っているとかではまったくなく、「AZ100」を一度使ったらもう戻れないですよ。音楽を聴くのがさらに楽しくなりました。

佐藤 僕も、さらに進化できるということにびっくりしましたね。ベースの音って聴いただけだと何を演奏しているかわからないことが多くて。例えば人の曲をコピーしなきゃいけないときとか、スタジオ用のヘッドホンで聴いてもよくわからないことがあるんですよ。それが「AZ100」を使って何気なく電車の中で聴くだけで100倍よくわかる。何十万円もするヘッドホンとかではなく、ワイヤレスイヤホンでここまで鮮明に音を聴き取れるという、本来ありえないはずのことが実現されていると思います。音楽を作っている人たちにもぜひ使ってほしいと思いました。

岸田繁(Vo, G)

岸田繁(Vo, G)

佐藤征史(B)

佐藤征史(B)

岸田 私は今回クラシックを中心に聴いたんですけど、それぞれの弦の個性とか管楽器奏者の息吹みたいなものをすごく感じて。普通のイヤホンやスピーカーは、クセがなくてスッキリ聴ける一方で、物足りなさを感じることもあるんです。それと比べて「AZ100」は、クセがないのに倍音の響きもすごくいい。とにかく下から上までバランスがいいなと思います。私は普段、配信で音楽を聴くときはジャンルによって使うメディアを分けていて。クラシックはいい音で聴きたいから、いわゆるサブスクではなくハイレゾ音源を聴くことが多いんです。そういう、いい音質の音を聴けば聴くほど「AZ100」のすごさがわかると思います。これからストリーミングサービスもいろいろ進化して、音質も向上していくと思うけど、「AZ100」はそういう進化に適応した製品なのかなと。

──「AZ80」と比べて、違いを感じるところなどはありましたか?

佐藤 僕は「AZ80」に比べて“音の隙間”を感じました。例えば電圧の高い国でクラブに行ったりすると、日本とは違って音の中に隙間を感じられるんですよ。その隙間があれば、大音量で音楽が鳴っていても普通に会話できるし、それぞれの楽器の音もよくわかる。「AZ100」はその感覚に近いなと思います。普通のイヤホンだと1つの塊にしか聴こえない音がちゃんと分離して聴こえるし、だからこその広がりを感じられる。1つひとつの音が優しく感じられるから、大きな音で聴いても全然疲れなかったです。

すっと肌になじむような感覚

──「AZ100」について特筆すべき点として、「業界で初めて磁性流体ドライバーを搭載している」ということが挙げられます。磁力に反応する液体が入っていることで、振動板のストローク運動を正確に制御することが可能となり、歪みを軽減することができるとのことです。高級スピーカーや10万円以上する有線イヤホンではなく、この価格帯の完全ワイヤレスイヤホンに磁性流体ドライバーを搭載したのは「AZ100」が初めてだとか。

岸田 なるほど、そうなんですね。

佐藤 僕は細かい技術について詳しくはわかりませんが、その技術のおかげで「音がいい」と感じているのは確かだと思うので、それが「80」から「100」への進化と言われたらすごく納得できますね。

岸田 「歪みを軽減することができる」とおっしゃっていましたけど、言われてみると確かに音がクリーンですよね。それが佐藤の言っていた“聴き疲れのなさ”につながっていると思うし、聴いていて疲れないかどうかはめちゃくちゃ重要だと思います。「AZ80」で古いロックとかソウルを聴くと、もっとドシッとくる感じがあったんですよ。高域もきらびやかで肉厚で。それが「AZ100」でよりなめらかになった気がします。より客観的に聴けるというか、すっと肌になじむような感じがする。あと、クラシックのようにダイナミクスやマイクとの距離がある音楽だと、部屋の広さまで感じられるんですよね。それも変に強調されているわけではなく、すごくフラットなイコライジングが施されていて、本当に音がきれい。「音がいい」とか、そういう言い方もあると思うけど、個人的には「きれい」というのが一番しっくりきます。パッと見てきれいだと感じるものってあると思うけど、それと同じ。きれいで自然。

佐藤 自分たちがライブで使うようなイヤーモニターって、倍音がすごく聴きやすくて。それでクラシックを聴くと、音の分離がかなりよく聴こえるんですよ。でも、そのイヤーモニターでガレージロックみたいな、音がガチャガチャしたものを聴いてもあまり楽しくなくて。「AZ100」はその両方を楽しめるのがすごいですよね。これまでBluetoothのイヤホンを使うときはアプリで自分好みの音にイコライジングしていたけど、「AZ80」も「AZ100」もそういうことをするまでもなく音がきれい。もちろん個人の好みとして合う合わないはあると思うけど、これは合わない人のほうが少ないと思います。

くるり

くるり

くるり

くるり

鳴っている音への最大限の敬意

──「AZ100」でくるりの楽曲は聴かれましたか?

岸田 聴きました。自分が聴いた中だと「朝顔」(2023年リリースの楽曲)がよかったです。普通のスピーカーとかイヤホンでくるりの曲を聴くと、中域が過剰に聴こえるんですよ。それは私の声質とか音の作り方のクセが影響していると思うんですけど、中域が少しのっぺりしていて、ジャガイモが多いカレーみたいになってしまう。でも「AZ100」を使ったら“コクを残したままサラッとしている”みたいな感じに聴こえましたね。音の聴こえ方はどうしても再生機器に影響されるけど、「AZ100」はその影響がだいぶ少ない気がします。作ったときの感覚に近いんですよね。

──「AZ100」は「ありのままの音が生きる、生音質へ。」をキャッチコピーとして掲げていますが、今おっしゃっていたことは、そのコピーに近いお話かもしれないですね。

岸田 そうですね。そのコピーのままだと思います。そういうコピーを付けておきながら実際は全然そんなことない、みたいな商品も中にはあるかもしれないけど、「AZ100」は本当にありのまま。鳴っている音への最大限の敬意があるといいますかね。本当に素晴らしいと思います。

──佐藤さんも「AZ100」でくるりの曲は聴かれましたか?

佐藤 僕は最近のものを中心にいくつか聴きました。初期の作品だと「アンテナ」(2004年リリースのアルバム)を「AZ100」で聴いたらどうなるか気になっていて。「アンテナ」は録音からマスタリングまで全部アナログでやった作品なので、収録曲がテレビで流れたりするとどうしてもこもって聴こえてしまうんですよ。それを「AZ100」で聴いたら、どんなふうに聴こえるのかな?と思って。今、話してて思ったんですが、アナログレコードをこれで聴いたらどうなるんだろう? Bluetoothが付いているアンプがあれば、聴けるってことですよね? 今度やってみたいと思います。

──自分は「AZ100」を試用するときに、くるりの最新曲「La Palummella」を最初に聴いたんですが、別のイヤホンで聴いたときとはまったく違う印象を覚えました。「AZ100」で「La Palummella」を聴くとしたら、どういうところに注目してほしいですか?

岸田 管楽器のアンサンブルがすごくたくさん入っている曲なので、ちょっとした息遣いなどの細かい部分を楽しんでもらえるといいなと思います。あとは、季節の移り変わりや色の美しさを表現しているところもあるので、音楽の中にある“風景”のような魅力を感じ取ってもらえるとうれしいですね。例えば商店街のスピーカーで音楽が流れてきても、「あ、誰々の曲だ」って思うぐらいじゃないですか。でもその曲をイヤホンで聴くことで、いろんなディテールが見えてくる。特に「AZ100」で聴いたら本当にいろんなことがわかると思うので、楽曲の中にあるよさを見つけ出していただきたいですね。

──先ほど「曲を作ったときと近い感覚で聴くことができる」というお話がありましたが、そういう感覚で聴けるからこそ、作り手の思いがよりダイレクトに伝わる、といったこともありそうでしょうか?

岸田 それはあると思います。もちろん作り手が考えていることが正解ではないし、聴き手の環境によって作り出されるよさというのは存分にあると思うけど、「できるだけこの音で聴いてほしい」「この感動を伝えたい」と思っているものもやっぱりあるので。ありのままの音で聴いてもらうことで、その思いがより伝わりそうだなと思います。

──せっかくなので、この場で「La Palummella」を「AZ100」で聴いていただいて、感想をお聞きできればと思います。

佐藤 (しばらく試聴して)SpotifyとApple MusicとYouTubeで聴き比べてみたんですけど、それぞれ全然違いますね。

岸田 全然違うね。

くるり

くるり

佐藤 その違いがすごくよくわかりました。「La Palummella」は音が全部キラキラしているけど、チューバの低音とかギターのジャーンっていう音とか、すごくカッコよく聴こえるのがいいなと思います。

岸田 やっぱりレコーディングしていたときの感覚に近いんですよね。もちろん皆さんは完成した作品を聴いているので、レコーディングの環境は私たちにしかわからないことだけど、レコーディングした側としてはそういうことを感じました。だからそのときのことを思い出すんですよ。「これ録ってるとき、昼ごはんにこれ食べたな」とかね。レコーディングは音だけを記録しておく行為だと思っていたけど、「AZ100」で曲を聴いたら当時の思い出がよみがえってきた。それぐらい、レコーディング時の音に忠実だということなんでしょうね。