indigo la Endロングインタビュー|バンドの“王道と変化”示すメジャー8thアルバムを全曲解説

今年で結成15周年を迎えるindigo la Endが、1月29日にメジャー8thアルバム「MOLTING AND DANCING」をリリースした。

「MOLTING AND DANCING」には昨年配信のシングル「心変わり」「ラムネ」「盲目だった」をはじめ、ドラマ「僕のあざとい元カノ from あざとくて何が悪いの?」の主題歌で昨年12月開催の初の横浜アリーナ公演で披露された「ナハト」、にしなをフィーチャリングゲストに迎えた「夜凪 feat. にしな」など計11曲を収録。バンドの王道を感じさせつつも、さまざまな経験を経て変化を続ける今の4人だからこその音楽が詰め込まれている。

音楽ナタリーでは本作の魅力を掘り下げるべく、川谷絵音(Vo, G)、長田カーティス(G)、後鳥亮介(B)、佐藤栄太郎(Dr)に全曲紹介をしてもらうインタビューを実施。各楽曲に込めたこだわりや、音楽的な挑戦について語ってもらった。

取材・本文 / 金子厚武撮影 / 笹原清明

ポジティブに“脱皮”する

──“脱皮”を意味する「MOLTING」という単語を用いたアルバムタイトルが非常に印象的です。どのタイミングで「MOLTING AND DANCING」というタイトルに決まったのでしょうか?

川谷絵音(Vo, G) いつだっけ? わりと(アルバム制作の)初期だよね?

後鳥亮介(B) (スケジュールを確認して)2月だね。

──インディゴがバンドのスタンスを示すような言葉をアルバムタイトルにするのは珍しいですよね。

川谷 2月はまだ「哀愁演劇」(2023年10月発表のメジャー7thアルバム)のツアー中で、ツアー自体は12月から始まったんですけど、当時は「ちょっと違ったかも」と思っているタイミングだったと思います。ツアーのセットリストを変え始めたのもその頃だったと思う。

川谷絵音(Vo, G)

川谷絵音(Vo, G)

──「哀愁演劇」のツアーは、途中から古い曲を演奏する割合が増えましたよね。

川谷 アルバムのツアーだったのに、だんだんそうじゃなくなってきて、「これはなんとかしないといけないから、次の作品は間を空けずに出したい。できれば年内に出したい」という感じだったんですよ。だからもう脱皮するしかないんじゃないかと。こういうタイトルを付けることで、自分たちに課題を課す意識はありましたね。「DANCING」はダンスミュージックという意味じゃなくて、脱皮して新しい方向に行く、その喜びのような感覚を表していて、「とにかくポジティブにいこう」という気持ちでした。

──川谷さん以外の3人は、このタイトルをどう受け止めていますか?

長田カーティス(G) アルバムタイトルが早めに決まっていたことで、道をそれてしまいそうになったときの指標になりましたね。

後鳥 個人的にも変化が必要だと思っていたので、それを踏まえたうえで制作はより責任感を持ってやりたいと考えていました。

佐藤栄太郎(Dr) 「DANCING」をジャンルの話ではなく、喜びがあることのアナロジーだと捉えるとしたら、「変化して、さらにポジティブになっていく」というのは生きることとまったく同じだと思うんです。僕らにとっての“生きる”って、制作して、ライブして、演奏するっていうことだから、すごくプリミティブなタイトルだなと思えてくる。今までも僕たちに脱皮がなかったわけではないですし、挑戦と成長がなかったわけでも決してないけど、タイトルにすることによって改めてこういう目線を持とうっていう、そういうポジティブさをすごく感じています。

佐藤栄太郎(Dr)

佐藤栄太郎(Dr)

「ABCDC」をカバーして気付いたこと

──1曲目の「ナハト」は、12月に開催された横浜アリーナ公演のラストで披露された楽曲ですね。

川谷 「ナハト」はアルバムの中でも最後に作ったんですよ。

──アルバム全体を俯瞰して、あと1曲何があればいいのかを考えて作って、それが1曲目になるパターンは過去にもありましたよね。前作の「カンナ」もそうでした。

川谷 そうですね。でも「カンナ」は今振り返るとまだ行き切らない部分があったので、「ナハト」はもっと行き切ってみようと思って、BPM188というめちゃくちゃ速いテンポにしました。あとタイアップの話(ドラマ「僕のあざとい元カノ from あざとくて何が悪いの?」主題歌)をいただいていたので、開けた曲を作る理由もあった。歌詞も台本を読んで書いて、いつもよりポップな曲にしやすかったので、これはアルバムの1曲目にふさわしいんじゃないかと思ったんです。

indigo la End

indigo la End

──インディゴはこれまでもポップとオルタナティブのバランスを意識しながら、時期によって潜ったり開いたりを繰り返してきた印象ですけど、今作ではその両方がより高いレベルで融合している印象です。

川谷 前のアルバムに入ってた「名前は片想い」はすごくキャッチーな曲ではあるけど、サウンドやコードはけっこう変だったから、「ナハト」はもう少しシンプルにしようと意識しました。シンプルにすることで普通の曲になりかねないところも、いろんなことを経由してきた今の僕らならそうはならないだろう、という感覚もあったんです。

──メジャーデビュー時期のインディゴ感がありつつ、それを今のインディゴが更新している印象もあります。長田さんはこの曲についてどう感じていますか?

長田 間奏とアウトロはまさにその頃の感じですね。最近はどうしても小賢しくしたくなっちゃうんですよ。フレーズを1小節で考えるんじゃなくて、4小節とか8小節で考えたり。でも、「ナハト」はそういうもんでもないなと思って。これ、仮タイトルが「自分を強く」だったんです(笑)。だからアレンジをしてるときに、「ダメだ、自分を強く持たなきゃ」と思って、ちょっと昔っぽい感じを意図的に出しました。

後鳥 僕、この曲がすごく好きで。このメロがとか、このフレーズがとか関係なく、なぜか泣きそうになるときってあるじゃないですか? 「ナハト」は歌が入ったときにその感じがすごくあって、最後に録ったのもあるかもしれないけど、感動しながら演奏しました。そういう曲ができたことがうれしかったです。

後鳥亮介(B)

後鳥亮介(B)

佐藤 このBPMで、この曲調で、この進行だと、クリシェみたいなのは浮かびやすいですけど、そことどう向き合うかを考えたときに、クリープハイプさんの「ABCDC」のカバーをやらせてもらったことで向き合い方がすごく最適化された感じがありました。フレーズは絶対少ないほうがいい、少し荒くやったほうがいいとか、クリシェに対していろんな最適解が出てきたんですよ。今まではクリシェに対して「否定する」と「受け入れる」の2つしかなかったけど、そこをバランスよくできたなと。

川谷 「ABCDC」は途中からカバーというより、自分たちの曲という感じになっていて(笑)。この前、横アリで演奏して思いましたけど、やっぱりあの感じは演奏していて気持ちいいし、さっき栄太郎が言ったみたいに、最適化された感じはありましたね。「ABCDC」はアレンジもめちゃくちゃカッコいいんですけど、今はクリープハイプの影響を受けている人がすごく多いから、あの頃の感じをそのままやるのは僕らとしてどうなんだろうっていう気持ちもあったんです。その経験があったからこそ昔のインディゴ感のある「ナハト」の制作に取りかかる際に、仮タイトルを「自分を強く」にした部分もあって。自分を強く持って、これがカッコいいんだと思って演奏することを意識しました。

──前作の1曲目が「カンナ」で、今回が「ナハト」なのは名前縛り?

川谷 いや、そこは全然関係なくて、「ナハト」はドイツ語で“夜”という意味なんです。今回、これまで何度も使ってきた“夜”や“雨”のモチーフを意図的に多く入れているんですよね。今ならもっとそういうモチーフをうまく言葉にできると思ったし、新しいことをするだけじゃなくて、今までやってきたことをもう一度更新することも“脱皮”の一要素だなと思ったんです。そういう意味でも、「ナハト」は「あの街レコード」や「幸せが溢れたら」の更新版という感覚があります。

「アーモンド」は筋トレに近い

──2曲目は「アーモンド」。「ナハト」に続いてアッパーな曲で、ライブ映えしそうな曲が並んでいますね。

川谷 ライブ映えはそんなに考えてないんですよ。「アーモンド」はコードを押さえるのも大変だし、カッティングもめちゃくちゃ難しいし、キメも多いし、「こういうこともできる」というのを見せつつ、ちゃんとキャッチーにはなったかなって。「ナハト」のあとをこれにすることで、リスナーをどんどん乗らせて、そこから次の「夜凪」につなげるイメージはありました。今回BPMがめちゃくちゃ遅い曲はあんまり作ってないんですよね。

──特別ライブ映えを意識したわけではないとのことですが、2024年にたくさんライブをしてきたこともあり、アルバムは全体的にフィジカル強めになっている印象です。それが「DANCING」という言葉のイメージともリンクします。

川谷 そうですね。実際「アーモンド」は筋トレに近い曲でもあるので(笑)。

佐藤 制作中に「とにかくいろんなことが起こって欲しい」というディレクションを受けて、アントニオ・サンチェスが劇伴を手がけた映画「バードマン」を思い出しました。あの劇伴はドラムだけで構成されているけど、映画の情景が変わっていく部分をかなりリードしていた印象があって、映画音楽としての機能性がすごいなと思った。「アーモンド」は、それを2時間ではなく3分半の中でガッとやるイメージでした。

──長田さんのギターもだいぶいろんなフレーズが詰め込まれていますね。

長田 サビだけポップにしておけばあとは何をしてもいいというか(笑)、コードに当たっちゃってる音も入れてるんですけど、サビでやらなければいいかなって。頭から2人でコードを弾いて、途中でガチャガチャやり続けるパートはレコーディングがすごく大変でした。2人で同じことをやるから、バッチリ合わせなきゃいけないし、でもめちゃくちゃ速いし。

長田カーティス(G)

長田カーティス(G)

後鳥 この曲は僕もめちゃめちゃ難しかったですね。自分がこれまで弾いたことないようなフレーズがたくさん入ってます。ラストのサビのメロは歌が来てから初めて知ったんですけど、すげえ耳に残るなと思いました。めっちゃいいですね。

──歌詞は2020年にリリースされた「チューリップ」に似た雰囲気を感じました。

川谷 アーモンドは実と花で花言葉が違っていて、真逆の意味なのが面白いと思って歌詞を書きました。自分の中では「曲名を歌詞の中に入れない」というテーマもあって。それは「チューリップ」のときも意識したけど、あの曲では結局入れちゃったんですよね。でも今回はタイトルの意味を調べると楽曲全体のテーマがわかるという構成にしたくて。曲自体が複雑だから、歌詞にもそういう要素を入れました。