東京・歌舞伎座「十月大歌舞伎」に出演する
仁左衛門が歌舞伎の劇場公演に出演するのは、今年2月に行われた「二月大歌舞伎」ぶりのこと。取材会の冒頭で「ネクタイを締めるのも半年ぶりで……(笑)」と冗談交じりに話し、周囲を和ませた仁左衛門は、「とにかく、今の心境は『やっと舞台に立てる』ということ。本当にウキウキとしております。こんな状況下の中、わざわざ来てくださるお客様に、『ああ、来てよかったな』と思っていただけるようにがんばりたい」と目を輝かせた。
今回、仁左衛門が出演するのは、第3部「梶原平三誉石切 鶴ヶ岡八幡社頭の場」。2004年の京都・南座公演ぶりに、梶原平三景時役を勤める仁左衛門は、同役について「これは亡くなられた山崎屋の、権十郎のおじさんに教えていただいた橘屋さんの型で、京都でやったのが初めてですね」と明かし、「播磨屋さんの型とはずいぶん違いまして。例えば、刀で石の手水鉢を斬るシーン。播磨屋さんの型では後ろを向くのですが、橘屋さんは前を向いて斬る。橘屋さんの型は、そういうところがやっぱり派手なんですね」と微笑む。
さらに「ただ派手さが先行して、人間味というか、優しさがなくなってしまうといけない。また梶原は、華やかさがある中にも、ちょっと寂しさを持っているんですね。源氏に心を寄せているにも関わらず、平家方に付いているわけですから。自分が悪名を受けることを覚悟している」と役どころに触れた。
また仁左衛門は、今回セリフの言い方を見直したと話す。「セリフの強調する部分を変えてみました。例えば、青貝師六郎太夫の自害を止める場面では、これまでは流れるように(セリフを)運べと言われていたんですけど、それだけじゃダメだと気づいて。そういった点を新たに工夫しましたね」と、記者たちの前で、実際にセリフをどのように変化させたかを披露。「何度も見返したはずの先輩方の映像や資料から、初めて気づくことも多くて。研究の積み重ねですね」と笑顔を見せる。
コロナ禍での公演について「残念なことは、本来の形でのお芝居ができないこと」と続けた仁左衛門は、「花道でセリフを言ってはいけないとか、義太夫さんがマスクをしないといけないとか、時間的制約があってカットしないといけないとか。今回も10分以上カットしているんですが……こういう芝居って、無駄なように見えるところが大事でね。それを切っちゃうと、ストーリーはわかるけれども、別にどうってことないお話になってしまう。そこの塩梅が難しいです」と難点に言及した。
仁左衛門は、生の舞台の良さを「空気ですね」と語り、「“今”の私を生で観ていただきたい。過去より落ちている部分もありますけど、過去より伸びている部分もある。芝居はそのときそのときで変わっていきますからね。体力的に今ならできるというところもあるので、できるだけ早い時期に観ていただきたいです」と、言葉に思いをにじませた。
「梶原平三誉石切 鶴ヶ岡八幡社頭の場」には、仁左衛門に加え、六郎太夫娘梢役の片岡孝太郎、俣野五郎景久役の市川男女蔵、奴菊平役の中村隼人、大名山口十郎役の市川男寅、大名川島八平役の中村玉太郎、大名岡崎将監役の中村歌之助、囚人剣菱呑助役の片岡松之助、大庭三郎景親役の坂東彌十郎、そして青貝師六郎太夫役の中村歌六が登場する。「十月大歌舞伎」は、10月2日から27日まで。
「十月大歌舞伎」
2020年10月2日(金)~27日(火)
東京都 歌舞伎座
第1部「銘作左小刀 京人形」
出演
左甚五郎:中村芝翫
女房おとく:市川門之助
娘おみつ実は義照妹井筒姫:坂東新悟
奴照平:中村福之助
栗山大蔵:中村松江
京人形の精:中村七之助
第2部「双蝶々曲輪日記 角力場」
出演
濡髪長五郎:松本白鸚
藤屋吾妻:市川高麗蔵
茶亭金平:松本錦吾
山崎屋与五郎 / 放駒長吉:中村勘九郎
第3部「梶原平三誉石切 鶴ヶ岡八幡社頭の場」
出演
梶原平三景時:
六郎太夫娘梢:片岡孝太郎
俣野五郎景久:市川男女蔵
奴菊平:中村隼人
大名山口十郎:市川男寅
同 川島八平:中村玉太郎
同 岡崎将監:中村歌之助
囚人剣菱呑助:片岡松之助
大庭三郎景親:坂東彌十郎
青貝師六郎太夫:中村歌六
※囚人剣菱呑助の「呑」は異体字が正式表記。
第4部 映像×舞踊 特別公演「口上」「楊貴妃」
「口上」
口上:坂東玉三郎
「楊貴妃」
楊貴妃:坂東玉三郎
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【会見レポート】片岡仁左衛門「“今”の私を生で観て」16年ぶりに梶原平三景時役勤める「十月大歌舞伎」 https://t.co/d5xjpFsT6L