劇団青年座研究所は、1975年に創立された養成機関。1年目の本科修了者から選ばれた、25名の実習科研究生たちは、毎日、演劇基礎訓練からダンス、声楽まで幅広いカリキュラムをこなしている。その授業の一環で、研究生たちの先輩である青年座座員が講師を務め、より実践的な指導を数日間にわたって行うのがこの集中講座だ。
取材に訪れたのは、講座の3日目。マキノノゾミが青年座に書き下ろした「横濱短篇ホテル」のテキストを使って、演技指導が行われた。抜粋されたのは、三島由紀夫の自死を巡って、登場人物2人が異なる見解をぶつけ合うシーン。「ここはパワーゲーム。セリフは相手にぶつけるための道具だから、意味にとらわれず相手にぶつけてみよう」と横堀が呼びかけ、演者の顔合わせを変えながら、3分程度の短いシーンが繰り返された。パワーの違いを明確にするため、一方のセリフを3人の俳優が輪唱して、相手1人にぶつけたり、相手のセリフを聞いている間もそれに反応する意識を持たせたりと、演者間で生まれるパワーのキャッチボールを、横堀は研究生たちになんとか体感させようとする。
研究生たちは、演者に選ばれた者はもちろん、座って様子を見ている者も、横堀の言葉を聞き漏らすまいと、ときにメモをとったり、うなずいたりして稽古に参加している。横堀は一環して、“相手の出方を想定してセリフを発するのではなく、相手の出方を臨機応変に受け止めながら、影響を受けあってセリフを発してみよう”とアドバイスを繰り返すが、研究生たちは自分がセリフを発することに懸命になってしまって、なかなか“キャッチボール”に行き着かない。そんな様子を見かねてか、稽古の後半では横堀自身が研究生の相手役を買って出る一幕も。横堀は、まずは強い語気で攻め込み、続けて抑えたトーンでじりじりと相手に詰め寄り、まさにセリフの言い方1つで相手役を翻弄する。そんな横堀の演技に気圧された相手役のリアルな反応に、座って見ていた研究生たちからは笑いが起きた。先輩俳優の引き出しの多さ、実力の違いを見せ付けられた瞬間だった。
稽古の最後に横堀は、「今日の稽古では、短い会話でのエネルギーのキャッチボールをまずやってみたけれど、例えば長ゼリフの中にもさまざまなエネルギー交換はあり得るし、間の取り方ひとつでも全然違う表現ができる。さらに立ち稽古になれば動きもついてくるので、俳優はやることが多くて大変です。でも、1つの紐が解ければその先は自然と見えてくるもの。だからあまり『大変だ、大変だ』と気負わず、目の前のことに取り組んでいきましょう」と研究生たちに呼びかけ、研究生たちは「ありがとうございました!」と元気に応えて稽古を終えた。なお、青年座研究所実習科42期生は、11月に実習公演(「歳月 / 動員挿話」作:
劇団青年座のほかの記事
リンク
- 劇団青年座研究所
※記事公開から5年以上経過しているため、セキュリティ考慮の上、リンクをオフにしています。
ステージナタリー @stage_natalie
青年座研究所の集中講座、横堀悦夫が実演交えてセリフ術を伝授 https://t.co/bA77uKaKOA https://t.co/7LpDsD4IPH