国際交流基金ニューデリー日本文化センターが主催する、日印友好交流年記念事業として制作された本作。範宙遊泳は、2016年12月から2017年2月までインド・デリーに滞在し、現地の俳優・スタッフとこの作品を作り上げた。共同で脚本と演出を務める
2度のインド滞在を行った範宙遊泳は、The Tadpole Repertoryメンバー・スタッフとのミーティングを重ね、デリーの人々の普通の生活や社会問題についてリサーチ。一方のThe Tadpole Repertoryからも所属俳優のビクラム・ゴーシュが東京を訪れ、渋谷や原宿のユースカルチャーを肌で体験した。また福島を訪れ、災害により“あったものが意図せずなくなってしまった景色”を共有し、ディスカッションを繰り返した。日本とインド、互いの国を行き来し練り上げられた本作は、バンガロール・ムンバイ・プネ・デリーとインド4都市で上演され、今回、満を持しての日本公演となる。
ゲネプロが始まると、本作のタイトルが映し出されていたスクリーンには霧の映像が投射され、霧は次第に濃さを増していく。そこに
福原演じる刑務所を出所した男は、毎晩午前2時に目が覚め、携帯電話にかかってきた知らない電話番号の女と話をすることが日課になっていた。「ランダムに番号を押した」と話す女のセリフは、文字としてスクリーンに映し出され、会話が繰り返される。
さらにシーバが演じる、家族・友人・恋人の代役をこなす代行業スタッフの女、椎橋が演じるかつて風俗で働いていた女、田中演じる“伝説のサラダ”を求めて放浪の旅をする美大生と、それぞれに事情を抱えた人物が登場。とある街を舞台に、見知らぬ6人は出会い、関係を深めていく。
範宙遊泳がこれまでの作品でも試みてきた劇空間への“テキスト(言葉)の投射”は本作にも取り入れられた。日本人俳優は日本語、インド人俳優は英語・ヒンディー語と、劇中の会話はそれぞれの母語で交わされ、セリフは常に舞台奥に設置されたスクリーンに映し出される字幕により翻訳される。
また、本作には多言語が混ざって会話が進行する場面だけでなく、母語のみが発話されるシーンも存在する。ゴーシュ演じるマーンという男が自殺に関するプレゼンテーションを始めたかと思えば、ピユシュ演じるスーツを着た男はヒンディー語を交えながら自殺未遂者について熱弁する。また、文字以外にもピクトグラム(視覚記号)や影絵、俳優の影、時にはSNSの投稿画面がスクリーンに投影され、各々のシークエンスに奥行きを与えた。3つの言語が飛び交う中、深い霧と都市の中で自分の居場所を探す6人に再び朝が訪れるのだった。ゲネプロ終了後、山本は「日本公演は、インドで上演した時よりも前半部分を少し引き延ばしています」とコメントした。
これまでマレーシアやタイでも共同制作を経験している範宙遊泳だが、脚本から新作を立ち上げる共同制作は今回が初挑戦。言語を超えた交流から、作品にどのようなフィードバックがなされたのか、劇場で目撃できる貴重な機会となっている。
上演時間は75分を予定。なお各回終演後に日印両チームが登壇するアフタートークが実施される。初日の6月30日には早稲田大学文化構想学部の
2017年日印友好交流年記念事業 範宙遊泳 × The Tadpole Repertory「午前2時コーヒーカップサラダボウルユートピア-THIS WILL ONLY TAKE SEVERAL MINUTES-」
東京都 森下スタジオ
2017年6月30日(金)~7月2日(日)
作・演出:
出演:
範宙遊泳「その夜と友達」
神奈川県 STスポット
2017年8月3日(木)~13日(日)
作・演出:山本卓卓
出演:
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③ 密なコミュニケーションの末に生まれたステージなのだから。大勢の人に観てほしいと思う。きっと、わたしとは違う感想が出てくるはずだから。7月2日まで森下スタジオで上演しています。
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