「頭の中をのぞいてみたい」時折聞かれる観客から創作者らへの賛辞の言葉。令和の演劇界において、長期的な視点から綿密な物語を編むことのできるクリエイターの1人として頭角を現す脚本家・演出家、
第1回の対談者は、“関西小劇場”というバックグラウンドを共有しながらも東京で再会、今では互いに信頼を置くタッグとして末満の劇世界を押し広げている音響家・
桟敷席の小劇場からシアタークリエまで、その道のりは感慨深い
末満健一 連載第1回目のゲストは、数多くの作品で音響を手がけてくれている音響家のヨシモトシンヤさんに来ていただきました。古くからの付き合いなのでいつものようにシンヤと呼びますね。こういう企画で音響家が表に出ることは珍しいよね。
ヨシモトシンヤ なんでゲストの一発目が俺なんだろうと思ったよ(笑)。
末満 (笑)。「ダーウィン・ヤング」の初日が明けたからね(編集注:取材は6月中旬に行われた)、自分にとっては初めての翻訳ミュージカルだったので、シンヤが音響でいてくれてとても助けられた。演出について、音響について、話せることがたくさんあるだろうと思って、第1回目のゲストに選ばせていただきました。とはいえ今はほとほと疲れてるね。初日を迎えたら身体にガタが来てしまって次の日ダウンしてしまった。1日寝て元気になったけど。
ヨシモト やっぱり人間は適度に休むことも大事。
末満 ごもっとも。同い年なのでお互い健康には気をつけていきましょう。それはそうと俺とシンヤってもうどれぐらいの付き合いになるんだっけ?
ヨシモト 昨日ちょうどスエケン(末満)のことをWikiで調べてさ。スエケンが初めて作・演出した「スエサンヤマサンのおもちゃ会議」(2002年)の音響を俺がしているんだよね。
末満 俺が人生で初めて作・演出した作品だった。だとするともう20年以上の付き合いになるのか。あれは“おもちゃ”をテーマにしたオムニバス作品。あの作品がいろいろな人に褒められたのがすごくうれしくてさ。役者として褒められたことがそれまで一切なかったから、あれで褒められたという経験はやはり大きかった。あれがなかったら今、脚本も演出もやっていないと思う。俺の脚本家・演出家人生のスタートに関わってくれていたシンヤと、今もこうして一緒に作品をつくっているのはありがたいね。あの作品がなかったら脚本も書かず演出もせず、まだ役者をやっていたかもしれない。あの時の劇場は客席が50人ほどの小劇場だった。劇場に大きいも小さいもないとは思うけどさ、とはいえ今シンヤとシアタークリエで東宝ミュージカルを一緒につくっているのは感慨深いよ。20年前には予想だにしていなかったことだから。
ヨシモト 俺はステアラ(IHIステージアラウンド東京)の時も感動したけどね(参照:舞台「刀剣乱舞」が360°劇場へ、大坂の陣を描く2部作を連続上演)。小劇場で一緒にやってた仲間と360°回転する劇場で一緒にやるなんて。
末満 俺の作品をよく手がけてくれる照明の加藤直子ちゃんもそうだけど、昔からのスタッフとステアラや東宝のような大きな現場で一緒にやれているのは素直にうれしいよ。肩を並べながら人生を重ねている気持ちになれて。勝手にだけど同志だと思っている(笑)。シンヤは俺が主宰していたピースピットの旗揚げ公演「タイガー」の音響もやってくれてたよね。あの作品は、「ドグラ・マグラ」(編集注:夢野久作による探偵小説で“三大奇書の1つ”と言われる)のような、胎児の夢の中で巻き起こる支離滅裂な物語だったんだけど、3時間休憩なしなのに、客席は板のベンチに薄い座布団を敷いただけのもので。今にして思えばとんでもない観劇環境だったと反省するけど、あの時はまだお客さんに気を遣うという余裕があまりになかった。作品づくりで精いっぱいで。
ヨシモト 「タイガー」は何回読み返してもわからないところが多くて、難しかったな。そうこうするうちに、28歳の時に俺は東京に出ちゃったんですよ。
末満 それであまり接点もなくなったんだよね。「シンヤが東京でがんばってるらしい」といううわさはちょこちょこ耳にしていたんだけど。そっちのほうに俺のことは何か伝わってた?
ヨシモト 近況は伝わってたよ。スエケンが東京に来てから「舞台『K』」という作品をやってるとか。その頃俺は、舞台やミュージカルの音響を手がけるカムストックに入社してたんだけど、その前はフリーで東京の小劇場をメインに音響をしていたのね。でも、周りに音響を教えてくれたり評価してくれたりする人がいない環境で、「自分はこのままで良いのだろうか」という焦りが芽生えていて、もっと音響家としての可能性を広げたいという思いがあった。自分の音響能力を上げるにはどうすれば良いか、良い音とは何なのかと模索していたんだよね。それで、能力や仕事の幅を広げるために活動を続けて、その後、会社(サクラサウンド)を立ち上げることになるんだけど。俺にとっては「音響に関して心配がない」と思ってもらえる仕事をすることが第一で、それを目指して奮闘していた頃に、スエケンが拠点を東京に移したという話を聞き、「近くにおんねんな、会いたいな」と思っていた。
関西小劇場出身の2人、東京での再会は「舞台『刀剣乱舞』」がきっかけ
末満 俺は「舞台『K』」が初めての2.5次元作品で。最初は完全にアウェーな感じだったけど、原作の作家チーム・GoRAさんのメンバーさんらと仲良くさせていただいたおかげで、すごくやりやすかった。だから「舞台『K』」はとても思い入れがある作品。そうこうしているうちに2.5次元舞台の依頼をいくつかいただくようになった。でも、興味を引かれる作品があまりなかったんだよね。そんな時に、「舞台『刀剣乱舞』」の発表があって。俺、実は「刀剣乱舞ONLINE」のPCブラウザ版がリリースされた時からゲームをやっていて、「舞台化したら面白そうだな」と思っていたんだよ。さらにストレートプレイとミュージカルで舞台化すると聞いて「面白いことを考えてはるなあ」と他人事のように思っていた。後々、脚本・演出でオファーをいただいて、「あ、俺がやるんだ」ってびっくりした。当時俺は東京に知り合いが少なかったからスタッフの人選を先方にお任せしてたら、シンヤの名前がそこにあった。「あ、この人知ってます」って(笑)。それがシンヤとの10年ぶりくらいの“再会”だったね。
ヨシモト 俺は「刀剣乱舞ONLINE」をまったく知らなかったのだけど、担当者から企画書をもらって「名だたる刀剣が戦士の姿として顕現して、歴史が絡み、戦いがある。日本を揺るがすコンテンツになる」と言われてさ。「だったら俺、からまなあかん!」と思って、「音響は絶対に俺が良いと思う!!」と何回も伝えたのよ。それで採用されたんだと思う(笑)。
末満 そうなの? 俺の初期衝動はチャンバラがやりたい!だった(笑)。ともあれ、「舞台『刀剣乱舞』」は音楽の曲数や効果音なんかも非常に多い。環境音や殺陣の音も異常に細かくセッティングしている。生の演劇なのに映画のようなフィルムスコアリングも試みている。物量に対応できる音響家じゃないと実現が難しいのは目に見えていたから、シンヤが音響だと聞いた時はホッとしたのも事実。
ヨシモト 「舞台『刀剣乱舞』」はほかの2.5次元舞台の作品と比べると、とにかく細かく音を付けている印象がある。
末満 シンヤとは久しぶりに組む仕事だったけど、意思疎通は最初からスムーズだったな。同世代っていうのもあるのかな。こちらの要求水準やイメージするものの汲み取りがスムーズだから、音響に関しては演出家と音響家で齟齬が生まれることはないね。見ているクオリティが同じ目線というスタッフもなかなかいないので、毎回助けられています。
末満健一は稽古場で待たない
末満 音響家的には俺はどういう演出家なの?
ヨシモト ……いきなり深いとこ突くやん(笑)。スタッフワークにここまでこだわりが強い演出家はあんまり知らんな。だから失敗できないとも思う。スエケンとは世代が近いから、観聞きしてきたものの共通点が多い。スエケンに「いや違う、そこはガゼルパンチみたいな音や(編集注:ボクサーのフロイド・パターソンが考案したとされるパンチの種類)」と言われても、「ああ、はいはい」ってわかるし(笑)。今となっては、スエケンが何を考えているかも自然とわかる気がする。
末満 確かに、共通言語があるのは創作の手助けになるね。音楽のかけ所、それの終わり方が鳴り切りか、カットアウトか、フェードアウトなのかという物理的な指示は進行台本に記載できるけど、細かいニュアンスなんかは直接のやり取りじゃないとなかなか伝わらない。都度、稽古場で対応してくれるのでありがたいよ。
ヨシモト そう。でも、待ってくれないんだよね(笑)。
末満 そういえば待たないね。何かの音が欲しくなった時に、「準備、10秒くらいあればいけるよね?」って聞いたりしてる。その時に思いついたことの衝動が、なるべく鮮明なうちに試してみたいんだよ。まあ、それでいつも苦労かけてますね。
ヨシモト 俺は「10秒!? 待ってくれ!」と(笑)。後々ちゃんと音はつくるけど、今、芝居を前進させるために必要だというから。以前、「スエケンは『TRUMPシリーズ』とか、ほかの現場でもこんな感じ?」って聞いたら「シンヤだからやで」と返ってきて「なるほどな」と思ったわ(笑)。
末満 でもまあ、「TRUMPシリーズ」の音響をしてくださっている百合山(真人)さんは経験則で俺が何を欲しがるかわかってくださっていて、事前に音を準備してきてくれてる。“イニシアチブ音”と呼んでいる吸血種が人を咬んだあとの音、風や鐘のいろいろな種類の音なんかも。「TRUMPシリーズ」でも「舞台『刀剣乱舞』」でも、長年やっていると“定番の音”みたいなのは出てくるね。
ヨシモト そうだね。俺もスエケンの舞台では経験則で音を用意していますよ。パソコンの画面に、静か、明るめ、戦い、悲しい、切ない、のように“スエケンの舞台で確実に必要な効果音”を並べたエリアがある。
末満 「舞台『刀剣乱舞』」も第1作が上演されてからもう7年(参照:刀ステ7周年感謝祭、総勢45振りのビジュアル解禁 追加キャストに本田礼生ら)。音響と演出との相乗効果、いろいろなやり方を試行錯誤させながら続けてきたよね。だからそこで培った方法論を外でも試してみたくなって、最近は「舞台『刀剣乱舞』」以外でもシンヤをお誘いするようにしてる。
ミュージカル「ダーウィン・ヤング」の手応えは
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末満健一 @suemitsu
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