LAライブ前日!海外レーベルが語るPOLYSICSの魅力
2008年10月19日 7:20
我らが
第1回となる今回は、POLYSICSが海外活動の拠点として契約するMySpace RecordsのJ・スキャヴォ氏によるPOLYSICS評を中心に、LAでのライブ前日の様子をお届けしよう。
■POLYSICS米国ツアーレポート第1回
何回目のアメリカ・ツアーになるのかすぐには出てこないぐらい海外での活動が当たり前となったポリ。おそらくアンダーグラウンドなインディ・アーティストを除けば、日本でもっとも頻繁に海外ライブをおこなっているバンドではないか。今回のツアーは最新作「We ate the machine」のアメリカ発売に伴うもので、約1カ月弱で全米21カ所を回る。アルバムのプロモーションのためのツアーだから、各メディアからのインタビュー、スタッフとの打ち合わせなどライブ以外の雑事も多く、いくら慣れっことはいえ、体力的にも精神的にも過酷そのものである。今回もEUツアー終了から2週間もたたないうちにアメリカに出発、到着してすぐ、LAのレコード会社のオフィスで取材を敢行するという強行スケジュール。時差ぼけの中1日数本の英語インタビューを受けるのだから大変だ。以前ナタリーのインタビューで「さすがに休みたい」とこぼしていたハヤシヒロユキだが、当分そんな余裕はありそうにない(苦笑)。
もっとも本人たちによれば、取材の内容はだいぶ変わってきているらしい。以前はメディアの側にポリに関する知識が薄く、日本のロックや文化全般に関する大ざっぱな質問が多かったが、今回はちゃんとポリの音楽を把握したうえでのつっこんだ質問が多く、いわばポリの存在がアメリカのメディアにもきちんと認識されてきつつあることが励みになっているようである。つまり彼らの音楽は単なる物珍しさではなく、アメリカやイギリスのバンドと同じ土俵で評価されるようになっている。いわばこれからが彼らの海外での本当の勝負と言えるかもしれない。
さて、そんなポリの海外での活動をバックアップする拠点となるのがMySpace Recordsだ。音楽系SNSとして全世界で2億人を超えるアカウントを誇るMySpaceが設立したレコード部門である。MySpaceでの活動をベースに世界的な人気・知名度を獲得したアーティストはマイ・ケミカル・ロマンスをはじめ枚挙に暇がなく、いまや世界中でもっとも影響力のある音楽プロモーション・メディアと目されているだけに、そのレコード部門とPOLYSICSが契約したのは大事件と言っていい。しかもMySpace Recordsは原則的にすべての契約アーティストの原盤権を保有しているのに、唯一POLYSICSだけが日本のキューン・レコードからの原盤供給を受けるライセンス契約アーティストなのだ。ライセンス契約より自社原盤所有の方が大きな利益が見込めるのは当然で、つまりMySpace Recordsにとってポリは他の原盤保有アーティストに比べ「利幅の薄い」アーティストなのである。逆に言えばそうまでしてMySpace RecordsはPOLYSICSを欲しがったのだ。彼らの音楽がアメリカを始めとする世界中にアピールすると確信しているのだろう。
LAのビバリーヒルズに拠点を置くMySpace Recordsのオフィスはインディペンデント・レーベルらしくこじんまりとしているが、和気藹々とした活気がある。至るところにポリのポスターが張られたオフィスの一角で彼らは取材を受けていた。ポリとの契約を決めたのはMySpaceの創業者のひとりであるトム・アンダースン氏。トムはMySpace RecordsのヘッドであるJ・スキャヴォ氏のすすめでポリの映像と音を見た瞬間にぶっとび、「こんなおもしろくてクレイジーなバンドはいない、なんとしても彼らと契約したい!」と盛り上がって、さっそくLAでのライブを見て、即座に契約。ベスト盤「POLYSICS OR DIE!!!! -VISTA-」に続き「We ate the machine」をリリースしたわけである。そのJにポリの魅力を訊いてみた。
「ボアダムスみたいなクレイジー・ジャパニーズ・スタッフに、ディーヴォのストラクチャーを掛け合わせれば、ポリの音楽になるという印象かな。ディーヴォの影響を受けてるバンドはほかにもあるけど、ポリはディーヴォのスタイルだけを真似した表層的なものじゃなく、きちんと本質をとらえ、独自の解釈でミクスチュアしている。そのうえ彼らはとんでもなく演奏技術が高くて、コンサートも含めすべての世界が完璧に構築されていて完成度も高い。音楽だけじゃなく、マーチャンダイズも映像も衣装もショウも、すべてにPOLYSICSというタグがついていて、独自の世界を形作っている。そこまで徹底してるアメリカのバンドはほとんどいない。フレイミング・リップスとかビースティ・ボーイズとか。何より彼らは素晴らしいロック・ショウをやっている。彼らのライブを見れば、ほぼ全員が確実にファンになる。見た人の間で評判が広がって、どんどん盛り上がってきてるんだ。彼らはふだんは普通に働いていたり学生だったりするが、どんな音楽を聴いてる人でも入っていけるのがポリなんだ。彼らはPOLYSICSの奇妙でクレイジーな世界観にとりつかれ、その世界へのパスポートが欲しくて、コンサートに通いマーチャンダイズを購入する。彼らにとってはポリのコンサートに行くことが、年に1回だけクレイジーになれる日なんだよ」
日本のバンドが海外で大きな成功を収めた例はほとんどない。ポリにはどの程度の成功を期待しているのか。
「彼らのライブ・アーティストとしてのステイタスをあげていきたい。2~3年後に1000から1500ぐらいのキャパで全米をヘッドラインでツアーできるようになれば、成功と言えるんじゃないかな。今はCDが極端に売れなくなってるから、ミリオンセールスを連発するようになることは難しいかもしれないけど、それでも着実に売り上げは上がってる。CMとか映画とか、なにかきっかけがあれば、大爆発する可能性だってあるよ。でもそのために、よりアメリカ向けの音を作ることには懐疑的だね。彼ら独自の世界観を壊してしまうかもしれない」
一般にアメリカで成功するためには英語で歌うことが必須だとされている。POLYSICSも英語で歌うべきだろうか。
「歌詞が英語であればアメリカで受け入れられやすいことは確かだが、でも英語の歌詞をうたうPOLYSICSなんて僕には想像できないよ(笑)。大半のアメリカ人は彼らの歌ってることは理解できないだろうけど、彼らの歌はそういう言葉の意味性を超えて、楽器の一部のように聞こえて、POLYSICSらしさを形作っているんだ。完璧な発音の英語で、一般のアメリカ人でも意味がわかるような曲を作れば、セールスは大幅に上がるかもしれないけど、それによって得られるファンが、彼らの本質を理解することはないだろう。彼らの世界観全体をキャッチした者だけが、彼らの本質に近づけるからだ」
どうだろうか。遠い海を隔てたアメリカに、これだけ彼らの本質を完璧に理解している人がいて、そういう人がPOLYSICSの海外進出の手助けをしてくれるのだ。これはすごく幸運なことだし、それだけの説得力とパワーが、ポリの音楽にはあるということだ。そして彼と同じように感じ、彼らの世界観の虜になっている若者が、アメリカのみならず世界中に増えているのである。その生々しい現場を、明日のライブで確認したい。
(取材・文 / 小野島大)
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