のっちさん

のっちはゲームがしたい! 第14回(後編) [バックナンバー]

小島秀夫さんとのトークが実現!世界を驚かせるクリエイティビティの源泉に触れました

デスストの続編や映画化についても言及、独創性あふれるゲーム観はどこから生まれたのか

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遊び心たっぷりなコジマプロダクションの新スタジオを見学させてもらった前編に続いて、後編ではいよいよ小島秀夫さんとのっちさんの対談が実現。小島さんにいろいろなことを語り尽くしてもらいました。

記事の最後にはおなじみの、のっちさんによる取材後記もありますので、そちらもお見逃しなく!

取材 / 倉嶌孝彦・橋本尚平 / 橋本尚平(取材後記は除く) 撮影 / 上山陽介 ヘアメイク(小島秀夫) / 青木理恵 ヘアメイク(のっち) / 大須賀昌子 題字 / のっち

少人数で海外規模の作品を手がけるには、かゆいところに手が届くようにしなければならない

のっち 新スタジオ、圧倒されました。というかショックでした(笑)。「こんなにスーパーリッチなの、見たことない……」って。

小島秀夫 いやリッチじゃないんですよ(笑)。

のっち 見学させていただいてるときに、「小島監督って、なんて楽しませやさんなの……」って言葉が口をついて出ちゃいました。一緒に物作りをする仲間たちに対して「楽しんでもらって仕事のモチベーションを上げたい」「みんなの持っている創造性を高めたい」ということを、ものすごく考えてらっしゃるのかなと感じて。

小島 それスタッフにも言ってくださいよ(笑)。

左から小島秀夫さん、のっちさん。

左から小島秀夫さん、のっちさん。

のっち 皆さんめちゃくちゃ感じていると思います! ルーデンスのお部屋に入ったときなんて、涙が出そうになって。鏡の扉が開いて真っ白な空間に入った瞬間、本当に心が浄化されたような感覚になったんですよ。真っさらになって自分を見つめ直す、自分とは何か問いかけられてるようなすごい体験でした。あのお部屋をスタジオの中に作るというアイデアは、どこから来たんですか?

小島 ここに移る前は12階に旧スタジオがあったんですけど、そのときも同じようにルーデンスがいる白い廊下があって、コンセプト自体はそれと変わらないんですよ。真っ暗な場所からポッと光るライトをたどって歩いていくと、あの真っ白な部屋にたどり着くという。

のっち 確かにエレベーターを降りた時点でちょっと暗かった。

小島 「白いスクリーンの中に入って行って、自分がそこに色を付ける」というのがコンセプト。ここに勤めているスタッフも、日常を背負って日々スタジオに来ているんだけど、あそこでその背負ってるものをパーンと外して童心に帰ってもらおうという狙いです。でも、普段スタッフはあのエントランスを通らないです。もっと近い道があるから(笑)。

のっち わはは。

小島 あとは1960年代に放映していたテレビシリーズ「スター・トレック(邦題:宇宙大作戦)」に出てくるエンタープライズ号という宇宙船もイメージしてるんです。この作品は種族の垣根を超えた多彩なキャラクターたちが同じデッキに乗り込んで、一緒に宇宙の彼方を目指すという、戦いそのものがテーマになく、差別のない世界観のSFドラマだったんですよ。それを子供のときに観て、すごく衝撃を受けたんです。だから僕は「ここにいろんな個性をもった方に来ていただいて、一緒にいろいろなところにエンタテインメントを届けに行きましょう」という思いで、このスタジオを宇宙船って呼んでるんです。

のっち それで思い出しましたけど、誰でも使えるお手洗いがありましたね。

小島 そうです。オールジェンダートイレ。最近までなかなかそういうのはなかったですね。

廊下に貼られたオールジェンダートイレのサイン。

廊下に貼られたオールジェンダートイレのサイン。

のっち ヨガスペースもそうだし、ほかではあんまり見かけないような部屋がいっぱいあるなと思いました。

小島 今日も朝にヨガやりましたよ。

のっち はえー!

小島 海外のスタジオはもっとすごいんですよ。子供を預かる部屋があったり、映画館があったり、広いバスケットコートがあったり、レストランも3つくらいあってお抱えのシェフがいたり。でも日本の敷地の広さでそれをやるのは難しいですね。

のっち そういえばピクサーにお邪魔したときに、もう「どんだけ!」ってくらい、屋内も外も遊べるスペースがいっぱいありました。

小島 そうですよね。でもそこまでのことはできないので、今できることをやりましょうってことでいろいろ作ったんです。

のっち もちろんそれだけでなくて、録音とか3Dスキャンのスタジオもすごかったです。

小島 本来は収録からPキャプ(パフォーマンスキャプチャー)、デザイン、プログラムまでこのフロアで全部作りたいんですよ。Pキャプも、簡単なものはここで撮れるんですけど、海外のスタジオを借りないとできないものもあって。ゲームの中に出てくる簡単なプロップ(小道具)なども、外部の会社に作ってもらってウチで調整をやってます。けど、理想を言えば音楽制作なども含めて全部このフロアだけで完結させて、皆さんに提供するっていうのができたらなと思ってます。 ウチのように少人数で世界中から注目される作品を手がけるには、かゆいところに手が届くようにしなければならないですね。

自分の人生に影響を与えるものを自分で選んで長く付き合ったほうがいい

のっち ルーデンスって“スタジオのシンボルキャラクター”なんですよね。どうしてこういうキャラクターを作ることにしたんですか?

小島 2015年12月に独立して、最初は小さい貸会議室でスタートしたんですけど、大規模なゲームって完成までに数年かかるんですよ。でもその制作期間には、ユーザーに提供できる話題が何もないわけで。それは困るなと思って、最初にルーデンスというキャラクターを作って、ファンの方々に楽しんでもらったんです。

のっち へえー! ここにも小島さんの“楽しませやさん”な一面が……。

小島 2019年にデスストを発売するときには、ルーデンスというキャラクターがSNSなどを通じて世界中で話題になっていたおかげで、すでにたくさんのお客さんたちがコジプロに興味を持ってくれていたんです。

小島秀夫さんからルーデンスのエピソードを聞いて、驚いた様子ののっちさん(右)。

小島秀夫さんからルーデンスのエピソードを聞いて、驚いた様子ののっちさん(右)。

のっち 小島さんが新しいことを始めたときに、ゲーム好きの人たちを「これからどうなるんだろう?」と不安にさせる間もなく、すぐにワクワクさせてくれたのは本当にすごいです。待っている時間も楽しいという。

小島 そう言ってくれるのはうれしいですね。今は映像配信などでも、新作映画がいきなり公開されるじゃないですか。あれ、ちょっと寂しいんですよね。昔は映画って、「この原作が映画化されます」って発表されて、キャストが決まりました、クランクインしましたっていうニュースが出て、公開日が決まって、ティザーが上映されて、早く公開されないかなってワクワクしながら前売券を買って……という流れがありましたけど、あれも含めて全部がエンタテインメントだと思うんです。突然ポンッと現れた作品を観て「面白かった」で終わるよりも、自分の人生に影響を与えるものを自分で選んで長く付き合ったほうがいい。ゲームも同じで、発売されるまでの間にユーザーとやりとりをして気持ちを高め合いながら、最初から最後まで楽しんでほしいわけですよ。

のっち 「制作の過程を先に見せて興味を持続させる」っていう手法は今のトレンドなのかなと思っていたんですけど、そう言われてみると映画って昔からそのやり方をしていたんですね。

小島 まあ意図的にミスリードを狙ってみることもあるんですけどね(笑)。皆さんの反応を見ながら情報を出す順番を変えてみたり。どうやったらもっと楽しんでもらえるか、常に試行錯誤しているんです。

デスストの「いいね」はあくまで「いいね」なんですよ

のっち 自分のデスストのプレイ記録を見てみたら、始めたのは2019年の年末でした。たぶん2BRO.(兄者、弟者、おついちからなるゲーム実況ユニット)の動画を観て興味を持ったんだと思います。私もその魅力を知りたいなと思って。最初のうちは、国道を作るのがとにかく楽しくて、配達がとにかく楽しくてストーリーをそっちのけで夢中になったんですけど、その面白さを人に伝えようとしても「荷物を背負って行って帰ってくるゲーム」という説明だけじゃ伝わらなくて。ふと「なんで私もこんなにハマってるんだろう?」って不思議な感覚になったんですよね(笑)。

小島 配達人という役割は主役って感じがしないですからね。やってみるとヒーローなんだってわかるんですけど。

デスストでの「いいね」への思いを語る小島秀夫さん(左)。

デスストでの「いいね」への思いを語る小島秀夫さん(左)。

のっち がんばって荷物を届けたらすごく感謝してもらえるからうれしいし、ほかの知らないプレイヤーが建てた橋とか国道、はしごだったりに「いいね」したり、逆に自分が「いいね」をしてもらったら気持ちがいいし。ゲームを通して改めて感じたんですけど、「人は周りから感謝されたいものだし、人を褒めることにも喜びを感じるもの」なんだなって。

小島 「いいね」って普通、ゲームだったらお金とかに変えられると思うじゃないですか。でもデスストの「いいね」はあくまで「いいね」なんですよ。もらったところでゲーム的に強くなったりもしない。だから最初は、スタッフたちにも面白さがなかなかわかってもらえなかった。

のっち でもわかってくると、「いいね」をあげたりもらったりすることが大事になってくるんですよね。私はコロナ前にプレイしていたんですけど、もし何カ月かタイミングが遅かったら、どんな気持ちで遊んで、どんな受け取り方をしてたんだろうなって考えたんですよ。ゲームの中で配達してもらった人って、プレイヤーにめちゃくちゃ感謝してくれるけど、コロナ禍になって、あれってあながち大げさじゃなかったよなと思って。この3年間で配達してくれる人への感謝の気持ちが本当に強くなりました。

今までのどのゲームにも、映画にもないようなことをやりたかったんです

のっち ノーマン(・リーダス。主人公サムを演じている俳優)と遊べるのも楽しかったです。ノーマンにいろんな動きをさせてると「ゲームのキャラクターを動かしている」というよりも「サムを演じている役者さんを動かしている」という気分になるんですよね。

小島 ゲームのプレイ中は当然、ノーマンはプレイヤーと同化してるんです。でもプライベートルームに入ってノーマンがベッドに座ると、ノーマンとプレイヤーが2人で向き合っているような感覚になるんです。カメラを見るようになったり、勝手に動き出したりして、プレイヤーは“ノーマンと遊べる”ようになる。

のっち ノーマンのウインクをどれだけいい角度で撮れるか、めちゃくちゃ何度もトライしました(笑)。鏡の前で髭を触ったりとか、無限にあるんじゃないかってくらい動きのパターンが豊富で、アドリブで撮ったのかなーって想像しながら遊んでましたね。

小島 ノーマンのモーションキャプチャーは相当いっぱい撮りましたからね。ネタがなくなるまで(笑)。

どんどん出てくる、ゲーム内にちりばめられた“遊び心”たち。

どんどん出てくる、ゲーム内にちりばめられた“遊び心”たち。

のっち それに音楽の使い方も印象的でした。自分が歩いているときの音楽の流れ方がすごく気持ちよかったです。映画を観てるみたいな感覚でしたね。

小島 音楽オタクでもあるので、自分で全部選曲してます。僕の音楽の趣味はちょっとニッチなんですけど(笑)。オファーも自分でやりました。

のっち 小島さんから「このゲームのために曲を作ってほしい」っていうオファーをしたんですか?

小島 劇伴はゲームのために作ってもらうんですけど、そうでないもの、もともとあった曲もいろいろ使わせてもらっていて。どちらも自分でミュージシャンに直接連絡してお願いしました。

のっち ホントにいろんな曲が流れてました。流れ方にもいろんなパターンがありますよね。

小島 そうですね。ストーリーフラグやプレイ状況をチェックして音楽を流すので、一度歩いた道であっても、いつもと違う雰囲気を感じられるんです。カットシーンで曲がかかるのは映画と同じですけど、ゲームの操作中にふと音楽が流れ始めて、カメラがグッと引いていく。カメラを引きすぎると、これまでと視点が変わってゲームとして遊びづらくなるので通常はあまりやらないんですが、映画的な演出とのバランスを取りつつ成立させました。今までのゲームにも映画にもないようなことを取り入れたかったんです。ただ、さらに面白いことも思いついたので、続編ではもっと新しいことをしようと考えています。

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「こんなに制約があったらできない」と言ってしまうと、そこでもう終わり

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小島秀夫 @Kojima_Hideo

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