「TOKYO IDOL FESTIVAL 2011」の様子。

2010年代のアイドルシーン Vol.13 [バックナンバー]

国内最大のアイドルフェス「TIF」はどのようにして生まれたのか(後編)

フジ門澤Pと第1回出演者が振り返る“あの時代”

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2010年代のアイドルシーンを複数の記事で多角的に掘り下げていく本連載。この記事では前回に引き続き、国内最大のアイドルフェス「TOKYO IDOL FESTIVAL」、通称「TIF」の黎明期に焦点を当てる。前編でその舞台裏に迫った2010年の「TIF」第1回は、ブレイク前夜のももいろクローバーのステージをはじめ、今やアイドルファンの中で語り草となっているが、当事者たちの手応えはどうだったのだろうか。今回も初期「TIF」の総合プロデュースを担当したフジテレビ・門澤清太プロデューサーと、当時の出演者による貴重な証言をお届けする。

取材・/ 小野田衛

タイムテーブルなんてあってないようなもの

史上初の本格的なアイドル専門音楽イベント「TOKYO IDOL FESTIVAL 2010」は、2日間で約5000人もの入場者を集め、大盛況のうちに幕を下ろした(参照:総勢40組以上!品川を熱く盛り上げたアイドルフェス大成功)。今から約13年前、2010年の出来事だ。さまざまなグループが一堂に会する「TIF」によって、アイドルブームが一気に過熱化していったことは疑う余地もない。前例など存在しない中、総合プロデューサー・門澤清太の執念と情念によって開催までこぎつけた経緯を紹介した記事前編に続き、後編ではさらにディープに内側に迫っていく。

「TOKYO IDOL FESTIVAL 2010」グランドフィナーレの様子。

「TOKYO IDOL FESTIVAL 2010」グランドフィナーレの様子。

記念すべき第1回の「TIF」は、お台場ではなく、品川で開催された。「初回はタイムテーブルなんてあってないようなものでした」と笑うのは、元バニラビーンズのレナ。その口調からは初回ならではの混乱ぶりも伝わってくる。

レナ

レナ

「会場は品川のステラボールが中心だったんですけど、隣にあるホテルの宴会場もライブステージになっていたんですね。ところがステラボールから宴会場までの移動時間とかが、まったくスケジュールに考慮されていなくて……。当日は1グループにつき新人の芸人さん1人が現場マネージャーみたいに帯同してくれたんですけど、その方もあまり品川一帯の位置関係を把握していなかった(笑)。アイドル、マネージャー、芸人さんと全員がてんてこ舞いだったのを記憶しています。あれも今思えばいい思い出だったなあ」

まだグループ結成から間もなく、メンバーの年齢的にも子供そのものだった東京女子流。6月の記者会見では緊張のあまり泣いてしまった山邉未夢だが、本番の8月は心から楽しめたと振り返る。

山邉未夢(東京女子流)

山邉未夢(東京女子流)

「緊張は特にしなかったですね。本当に右も左もわからなかったし、いろんなアイドルさんが集まるフェスというのも初めてに近かったんですけど。ももクロさんが仲よくしてくれたし、バニラビーンズさんがたくさん助けてくれたので、すごく居心地がよくて。ステージ裏では、一緒に宿題をやってくれたりしました(笑)。ライブ自体も若さゆえの特権で、なんにも緊張せずに『楽しい~~~~!』って気持ちだけでパフォーマンスしていました」

「戦国時代」という言葉は一切使わなかった

終わったとき、みんなが笑っているイベントにしよう──。これは門澤が総合プロデューサーとしてスタッフ全員の前で訴えた「TIF」のコンセプトだった。そして出演者も関係者もファンも笑顔で家路に就いたのだから、当初の目的は十分に果たしたと言えるだろう。しかし「僕自身はまったく笑えませんでしたね」と門澤は自嘲気味に語る。

「今だから言いますけど、ビジネス的な面では失敗ですよ。会社に大損を与えたというほどではないので、『大惨敗』は言いすぎかもしれないですけど。なにせTシャツとか冊子なんて全然売れず、余り散らかしていましたから(苦笑)」

ポジティブに解釈すると、ここで大きな利益を出しすぎると、それはそれで問題化する恐れもあった。「お前らテレビ局ばかり儲けやがって!」と各事務所から突き上げをくらう可能性も考えられるからだ。しかし大の大人がビジネスとして取り組んでいる以上、「笑顔になれたから大成功だね」と無邪気に喜んでいる場合ではなかろう。今まで「TIF」についてビジネス面から深く語られた機会が少なかったため、ここは踏み込んで話を聞くことにした。

門澤清太プロデューサー

門澤清太プロデューサー

──タレント側は物販で利益が出せるかもしれない。主催者側としては、ゲート収入がすべてだったんですか?

基本的にはそうですね。あっ、それとは別にCSの放送もありましたけど。

──そこも伺いたかったところなんです。テレビ局が主催しているイベントだから、本業の放送事業で旨味がないのなら開催する意味がないじゃないですか。実際、そっちの面でのメリットはどうだったんですか?

当時はCSフジテレビONEで放送していたのかな……。放送しているチャンネルがあって、そこの加入者が増えることがメリットとしては当然あります。ただそれもダイレクトに数字が見えるわけではないし、今のNeflixみたいに派手に加入者数が増えるわけでもなかったですからね。

──まだサブスクが一般化する前でした。例えばですが「世界唯一のアイドルフェス『TIF』が観られるのはCSフジテレビだけ! 今すぐ加入しましょう!」といった感じでプロモーションすれば、テレビ局としても開催のメリットがあると思うのですが。

本来はそれをしなくちゃいけなかったんですよ。だけど僕の本音としては、あまり騒ぎ立てたくなかったんです。気付かれると都合が悪いというか……。

──都合が悪いとは?

フジテレビって会社組織じゃないですか。結局、企業というのは「儲けろ」という話にどうしたってなるわけですよ。まったく実績のないイベントなのでまあそれも当然なんですけどね。だけど「儲けろ」という話になると、本当にやりたいことができなくなるんです。例えば「入場料をもっと上げろ」「この会場は小さくしろ」「こんなステージの特効は必要ないんじゃないか?」「バンドなんていらないだろ」「そもそもこんな長い時間やる必要あるのか?」とか……。営利団体として、極力、無駄を省こうとするのは自然なこと。でも、僕自身は商業主義みたいなのがどうも苦手で。

──失礼ですが、あまりサラリーマンに向いていないような気もします(笑)。

本当に向いていないんだと思う(笑)。だから、「TIF」では「戦国時代」という言葉を一切使っていないんです。そこは僕なりのこだわりだった。

──それはなぜでしょうか?

戦国時代とはなんだったのか、そこを冷静に考えてほしいんです。乱世の中、とにかく自分が勝ち抜いて、他人を殺しまくって、ほかの者を消し去って、自国だけが上がっていくイメージ。みんながハッピーになれる世の中では決してないんですよ。だから「アイドル戦国時代」という言葉から連想されるのは、子供たちを無理に戦わせている大人たちのエゴ。「とにかく何があっても絶対に負けるな」「人を踏み潰してでもいいから自分だけはのし上がるんだ」と商業主義で煽られているような可哀想な状態ですよ。

──確かにそういう面もあるかもしれません。

それに対して「TIF」の精神としては「どんな子供たちでも輝ける場所があっていいんじゃないか」というところを打ち出したかった。だから「来る者は拒まず」という姿勢でしたしね。もちろん急に全然知らない人たちがメインステージの真ん中に立てるわけじゃないにせよ、当時から「多様性」という言葉を使っていたくらいですから。そもそもアイドルというジャンル自体が多様性を象徴する文化ですしね。2012年からはAKBグループも出るようになりましたし。

AKB48は「TIF2022」にも出演し、人気メンバーが集結しての熱いパフォーマンスを繰り広げた。「TIF2023」には48全グループの出演が決定している。

AKB48は「TIF2022」にも出演し、人気メンバーが集結しての熱いパフォーマンスを繰り広げた。「TIF2023」には48全グループの出演が決定している。

──最初はSKE48でしたよね。そこも分岐点だったと思います。「AKB48などメジャーで露出が多いグループ以外のアイドルにもスポットを当てる」というのが初期「TIF」のコンセプトと捉えられていたので、メジャーグループの参加にアレルギー反応を示すファンもいました。

そういう意見もありましたね。でも多様性を謳う以上、メジャーだからという理由で出ないのは逆に変でしょう。ハロプロさんだって初期からお願いし続けていたんですよ。毎年、ハロコンの中野サンプラザ公演と日程的に被っちゃうから無理だっただけで。

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