細野ゼミ 6コマ目(中編) [バックナンバー]
細野晴臣とロック
ロックンロールとロックの境目をThe Beatles、The Rolling Stones、The Whoの音楽から考察する
2021年6月16日 20:00 17
活動50周年を経た今なお、日本のみならず海外でも熱烈な支持を集め、改めてその音楽が注目されている
ゼミ生として参加しているのは、氏を敬愛してやまない安部勇磨(
取材
機材の進歩とロックの変化
──60年代に入ると日本でも徐々にロックが定着していきます。日本でも受け入れられた一番の要因はなんだったんでしょうか?
細野晴臣 たぶんエレキブームと関係あるよね。
ハマ・オカモト そうですよね。エレキブームの影響がデカいのかなって思う。
細野 あと60年代にサーフィンブームがあったでしょう? サーフバンドのエレキインスト曲がけっこうヒットしたんだよ。そこらへんも影響あるのかな。その中からThe Beach Boysが出てきたり。
ハマ やっぱりThe Beach Boysはデカいんじゃないですか。ブライアン・ウィルソンの存在含め。
細野 彼らが出る前は、サーフィン系のホットロッドバンドはエレキギターがメインだよね。ベースもエレキでウッドはいない。それまでのインストバンドってJohnny & The HurricanesとかThe Champsとかいっぱいいたけど、大体サックスが入ってるんだよ。
ハマ あ、確かに! そうかも。
細野 そう、すごく古臭い(笑)。ジャズのミュージシャンがバンドを作ったりしてるんだよね。
ハマ すごく歪んだサックスの音が入っていたりしますもんね。
細野 サックスブームは一時期すごかった。
ハマ フェンダーの功績もけっこうありますよね。フェンダーには僕も半分足を突っ込んでるんでアレですけど(笑)。50年代半ばにバンドをエレキ化させたっていう。
細野 フェンダーだよね。ギブソンじゃなくて。
ハマ 楽器がエレキ化したことで大きな音を出せるようになって。「すごくデカい音を出せるようにしてほしい」という要望をThe Whoのピート・タウンゼントから受けて、マーシャルが高出力のアンプを開発したという話もありますし。そういう動きが一気に進んだんでしょうね。
細野 機材の進歩もすごく関係あるね。
ロックンロールとロックの境目
ハマ ちなみにThe Beach Boysってデビューは何年なんでしたっけ?
細野 62年くらいかな?
ハマ イギリスのロックバンドでいうとThe Yardbirdsも意外とデビューが早いじゃないですか。64年とかで。
細野 ジョニー・バーネットっていうロカビリー系のシンガーがいて、彼がThe Yardbirdsの曲の原曲をやってるんだよ。
安部勇磨 原曲があるんですね。
細野 うん。あれだよ(イントロを口ずさむ)。
ハマ あ! その曲……。
細野 思い出した。「The Train Kept A Rollin'」だ。
ハマ そうだ!
細野 あれの原曲はジョニー・バーネットがやってる。
ハマ あの曲、カバーなんですね。
細野 ジョニー・バーネットはエディ・コクランと同時期に活躍したロカビリーシンガー。ロカビリーとロックンロールのはざまの時代というかね。そこらへんの人たちが、のちの世代に与えた影響はすごい。
ハマ 「The Train Kept A Rollin'」がThe Yardbirdsに受け継がれ、のちにシナロケ(SHEENA & THE ROKKETS)がインスパイアされて「レモンティー」が生まれるという(笑)。
細野 ああ(笑)。
ハマ 「レモンティー」はもともと超カッコいい曲なんだけど、元ネタがわかると余計カッコいい(笑)。
ハマ 話を戻すと、The Beach Boysとかいわゆるエレキ系のサーフバンドが出てきた60年代初頭がロックンロールとロックの境目なのかもしれませんね。
細野 その頃僕は中学生だったけど、もうThe Beatlesが出てきたからね。
ハマ そっか。そこからThe Beatles旋風が吹き荒れて。
──The Beatlesはロックンロールを広めるために多大な貢献を果たしたグループとも言えますよね。初期にロックンロールの名曲を多数カバーしていますし。
細野 うん。ただThe Beatlesが登場したことで、オリジナル曲を演奏していたグループが全然売れなくなっちゃったんで、そういうアメリカのグループがすごく寂しい思いをしてたっていうのは聞いたことがある(笑)。
──元ネタなのに……っていう。
安部 時代が変わっていく瞬間なんですね。
ハマ でも好きでコピーバンドやってたみたいなノリが当時もあったんだね。「好きだからやってます!」みたいな。The Beatlesのメンバーも、ロックンローラーに憧れて、みんなリーゼントにしてたわけですもんね。だからオリジネイターに対する複雑な気持ちは、やっぱりあったんでしょうね。
僕はThe Beatlesばっかり聴いてた
──細野さんはThe Rolling Stonesはどんなふうに捉えてましたか?
細野 彼らも最初はカバーやってた。The Beatlesより、さらにブルース寄りのカバーをやってたね。
ハマ 土着的ですよね、すごく。
細野 別に嫌いじゃないんだけど、僕はThe Beatlesばっかり聴いてたんだよね(笑)。
──やっぱり当時からThe BeatlesとThe Rolling Stonesの話になると、どっち派みたいな感じになったんですか?
ハマ いまだにありますからね、それは(笑)。
──ちなみにOKAMOTO'Sはストーンズ派というイメージが強いです(笑)。
ハマ うちは僕以外がストーンズ大好きですからね(笑)。僕は完全にThe Beatles派で、いまだにThe Rolling Stonesはあまりわかってない。1stアルバムだけが好きみたいな(笑)。ギターのコウキはThe Beatlesも好きなんですけど、特にショウとレイジはストーンズがルーツにあるんで。だからバンド的には、ストーンズからの影響をよく指摘されましたね。でもデビューした頃は謎の反骨精神があって、ショウとレイジは、影響を受けたアーティストを聞かれるたびに、イギー・ポップやヴァン・モリソンの名前を挙げてました。実際影響は受けてるし、間違ってはいないんですけど。放っておくとすぐに3人でストーンズの話をするんで最近は禁止令を出しています(笑)。
安部 ははは(笑)。
ハマ もうやめてって(笑)。
細野 ロックっていうとThe BeatlesじゃなくてThe Rolling Stonesかもね。
ハマ ロック感ありますよね。
──The Beatlesはポップ感ですよね。
安部 確かにそうですね。
ハマ どうしてもその二大巨頭の話になりますよね。
──とはいえ60年代に入ると、それ以外にもいいバンドがいっぱい出てくるじゃないですか。
ハマ The Kinksとかもカッコいいし。
──The WhoやLed Zeppelinとかもそうですけど、70年代にかけて彼らがロックを別の次元に持っていったような印象もありますね。
ハマ スタイルみたいなのが出きてきたり、あとはやっぱ見た目のカッコよさとかも出てくるんじゃないですかね。
細野 見た目ね、そうそう。
ハマ 装いというか。変な話、顔がカッコいいとか。
細野 メインはやっぱりイギリスなんだろうね。
ハマ 60年代にモッズとかロッカーズみたいなユースカルチャーが発生したり。モッズスーツを特注するとか、ああいう装いの文化も生まれて。細野さんはThe Beatles以外にイギリスのバンドを聴いたりしてたんですか? The HolliesやManfred Mannとか、当時たくさんバンドがいたと思うんですけど。
細野 大好きだった。特に初期のThe Whoは強烈だったね。
ハマ そうなんですね。The Whoをリアルタイムで聴かれてるというのは、すごく貴重な体験ですね。僕は後追いだから。
──細野さんからThe Whoの話を聞けるのはレアです(笑)。
細野 「My Generation」とか、その前の「I'm a Boy」とか大ヒットしてたんだよ。僕は「Happy Jack」って曲が大好き。
ハマ いいですね!
細野 あれはね、イギリス人にしかできないよ。
ハマ The Whoは、もしかしたら一番好きなイギリスのバンドかも。
安部 へえ。
ハマ すっごい好きなんですけど、特殊ですよね。余談になっちゃいますけど、The Whoって録音がすごく下手で恵まれてないっていうか。音が本当によくなくて、ドラムの音がずっと割れてるんですよ。シンバルとか。もうちょっといいエンジニアが録ってたら何かが変わってたんじゃないかなって思う。
細野 それ、いつ頃の録音?
ハマ それこそ、今細野さんがおっしゃったシングルのちょっとあとくらい。「I Can See For Miles」とか出した頃の。曲はすごくいいのに、キース・ムーンがライドを叩くと「ザーッ」て(笑)。やっぱりThe Beach BoysとかThe Beatlesを聴くと、音のよさに「うわー!」ってなるから。エンジニアの妙があったんだろうなって思います。
細野 でもね、さっき言った「Happy Jack」とか、そこらへんのレコードを今聴くと、すごくいい音だよ。今では作れないような音。ダイナミックな。
細野晴臣 Haruomi Hosono _information @hosonoharuomi_
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