細野ゼミ 3コマ目 [バックナンバー]
細野晴臣と映画音楽(後編)
映画音楽が持つ役割を安部勇磨(never young beach)&ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)と考える
2021年1月7日 20:00 24
「西部警察」の劇中音楽はめっちゃファンキー
──細野さんは映画音楽と言えば、どんな作品や作家が思い浮かびますか?
細野 20世紀の映画音楽は好きだよ。全部好き(笑)。例えばヒッチコックが劇伴で使ってたバーナード・ハーマンとか、すごいなと思う。殺人シーンとかでみんなが使う、「キャッキャッキャ」っていう、あの音を作った人だから(笑)。
安部 へえ!
ハマ あれ発明ですよね。
細野 あと大作では、デヴィッド・リーン監督の映画に音楽を付けていたモーリス・ジャールっていうフランスの音楽家も好きだね。ジャン・ミッシェル・ジャールっていう人のお父さん。この人は小ぶりの作品も素晴らしいしね。特徴があって、聴くとすぐわかっちゃう。最近の作家だとダニー・エルフマンとかトーマス・ニューマン。ランディ・ニューマンの従弟かなんかだね。そのへんの人は聴くとわかるんだよ。
ハマ いろいろ聴かないとですね。この連載を読んで映画音楽をチェックする人が増えるといいですよね。新しめのものも細野さんがオススメしてくれたやつも。
安部 ちなみにハマくんは、いつから映画音楽を意識して聴いてたの?
ハマ 高校2、3年くらいかな。
安部 早くない? 細野さんも15歳から聴いてたっていうし。みんな早いなあ(笑)。
ハマ 僕の場合、「Wattstax(ワッツタックス)」っていうドキュメント映画がきっかけかな。STAXっていうブラックミュージックのレーベルのイベントを映画化した作品なんだけど。そこからカーティス・メイフィールドの「Super Fly」とか、「Shaft」とかマーヴィン・ゲイの「Trouble Man」とか、ソウルミュージシャンが音楽を手がけたサントラを聴くようになった。ソウルのミュージシャンが制作したサントラにはファンキーな作品がいっぱいあるんだけど、日本にも大野雄二さんとかファンキーな映画音楽をたくさん残している人がいることを知って。ドラマでも「西部警察」の劇中音楽とか、めっちゃファンキーなんだよ。
細野 全部ファンキーだよね。
安部 へえ!
ハマ 「Shaft」フォーマットというか(笑)。特にああいう70年代の映画って音楽がカッコいいのはもちろん、バンドっぽいサウンドがすごく多いから。
細野 そうそう。
ハマ よくコピーしたりしてました。僕は「Super Fly」がサントラ盤だということをあとから知ったんですよ。単純にアルバムとしてカッコいいから。
──サントラの名盤ってありますよね。
ハマ 多いですよね。それが高3の頃だから、ズットズレテルズとかやってた時期。だからああいう感じのサウンドなんです。Pファンクとかも聴くようになってて。
安部 いいなあ!
ハマ 「いいなあ!」って会ってたじゃん、その頃すでに(笑)。下北沢で会ってたよ。
安部 そっか(笑)。でも僕は映画を観ると、つい字幕とか追うのに必死になっちゃって。
ハマ それはタイミングだから。勇磨は今日から映画音楽に本格的に目覚めるということで(笑)。
安部 いや、ちょうど映画音楽に興味が出てきたタイミングだったんで、ホント勉強になるわ。ありがとうございます、2人とも。ちなみに「Shaft」っていうのは、どういうサントラなんですか?
ハマ 「黒いジャガー」っていうブラックムービーのサントラ。アイザック・ヘイズが音楽を担当していて、ワウのカッティングギターを多用していたりファンキーなサウンドがめちゃくちゃカッコいい。のちの「孤独のグルメ」にも使われてるからね。井之頭五郎がお店を探すとき、めっちゃ「Shaft」みたいな曲が流れてる(笑)。
細野 ふふ(笑)。
安部 細野さんも「Shaft」ってお好きなんですか?
細野 うん、好きだったよ。音楽が大ヒットして、僕もシングルを買った。
安部 めっちゃ勉強になる。俺今、誰よりもたぶんゼミしてる(笑)。
細野 ちなみに僕はドラマの「相棒」とか、年代ごとに劇中で使われてる音楽のアレンジが変わっていくのをずっと聴いてる(笑)。
安部 ドラマの劇中音楽にもちゃんと系譜があるんですね。
ハマ あるんだよ。
──新しい映像の見方が広がりますね。
安部 ちょっと大人になれました。
ハマ でも楽器やってると、ちょっと悶えることあるじゃん、「あっ、こんなシーンにワウギター入ってる!」みたいな(笑)。前回、勇磨が「銀河鉄道の夜」のサウンドについて、「『ぶー』って音はどういう楽器を使ってるんですか?」って細野さんに質問してたよね? 僕も、そういう感じだったと思う。サウンドから映像に興味を持った。
音と映像の相乗効果で映画は総合芸術に
──では改めて映画音楽の魅力を教えていただけますでしょうか。
細野 難しい(笑)。
ハマ 難しいですよね(笑)。1つ言えるのは、音楽って物語を考える余地みたいなものを与えるきっかけにはなるでしょうね。音と映像の相乗効果が生まれると、いわゆる総合芸術になるというか。
細野 映画が好きなほど映画音楽の話が盛り上がる。音楽好きだと偏っちゃう。
ハマ 僕は偏ってるほうですけど、細野さんは真逆じゃないですか、きっと。
細野 まあ古い人間なんで。20世紀にいい映画をいっぱい観てきたから。小学生のときに観た映画も音楽自体が耳に残っている。子供の頃、日比谷の映画館で「ホワイト・クリスマス」という映画を観た帰りに、姉と一緒に「こういう感じじゃなかったっけ?」って劇中に流れた曲を歌ってみたりしてね。で、ちゃんと覚えてる。そうやって音楽好きになっていったわけだ。だから僕にとって映画からの影響って、すごく強いんだよね。
ハマ&安部 なるほど!
細野 昔の映画は音楽をちゃんと聴かせてくれたんだよ。歌うシーンが出てきてね。日本でもそうだよ。日活とかのアクションものも、なんの脈絡もなくキャバレーのシーンが出てきて、歌う人が登場して、いい歌を歌っていた。そういうシーンがいっぱいあったから音楽が好きになったところもあって。ただ、その一方で音楽が全然印象に残らない映画もある。僕はそれを目指してるというか。印象に残らなくていいやと思ってる。昔の映画では、大らかにいい旋律を作ろうとか、いい感動シーンを作ろうとか、みんな真面目にやってたんだけど、今そういうことをやると浮いちゃうし。昔のような映画音楽が作れない時代なんだよ。
ハマ まあ作品の内容にも左右されますしね。
──なるほど。作れない時代っていうのはまた寂しいですね。
細野 うん。遠慮しちゃうよ。
音楽好きな映画監督は?
──そういえば今回、デイヴィッド・リンチが話題に挙がらなかったですね。
細野 挙げとこうよ。すごく影響されたよ。
──最高の映画監督であり最高のミュージシャンですけど。やっぱり登場したときは独特でしたか?
細野 そうですね。それ以降、「ツイン・ピークス」っぽいっていうジャンルができちゃったんで(笑)。
──細野さんはリンチの作品だと、どれが一番お好きだったんですか?
細野 「ツイン・ピークス」には本当に深く入り込んでたね。「ブルーベルベット」もすごく好き。全部好きだな。「ワイルド・アット・ハート」も。全部音楽的な感じがある。
──音楽的な映画監督っていますよね。リンチもそうですし。
ハマ 音楽好きな人、多いですよね。世間的にはクエンティン・タランティーノとか有名かもしれないけど。デヴィッド・フィンチャーも音楽好きですよね。
細野 そうね。ミュージックビデオとかも作ってるし。
ハマ 確かに好きな人は多いかもしれないですね。
──ソフィア・コッポラとか。
ハマ ああ、そうですね。
細野 まあ、いい映画監督はみんな好きだろう。
ハマ 映像と音楽って密接ですよね、すごく。
──映像と音楽という要素で考えると、いつか「ミュージックビデオ」というテーマの回があってもいいかもしれませんね。MVというテーマを設けたら今日の話と内容は変わりますか?
細野 どうだろう。僕はあまりしゃべれないかもしれない。
ハマ 僕も映画ほど熱心に観てきてないなあ。もちろん好きなものはありますけど。ところで細野さんって今までMVをあまり作ってないですよね?
細野 そうだね。映像があると音楽のイメージが固定されちゃうっていうか。想像力が飛ばなくなっちゃう。ビジュアルが強いんで。
ハマ あまり観た覚えがなくて。ライブの映像はあるけど。
細野 でも、これから作ってみたいなとは思ってるんだけど。
ハマ いいですね!
安部 それはなんで作ってみようと思ったんですか?
細野 気分だよ(笑)。まあアイデアがあるから。
ハマ おお、観たい! 細野さんが作る映像が好きだから観てみたいです。
細野 ときどき、「この曲、映像があるといいな」って思うことがあるんだよ。それで映像を作ってみたいなと思って。やるんだったら全部自分で手作りでやりたい。人が入ってくるとプロジェクトになってくるんで。
──それは楽しそうですね。
細野 楽しい。楽しいことがやりたい。
──もうすでに曲はあるんですか?
細野 いや、今まで出してきた曲の中の1つをピックアップして。
──それで映像アルバムみたいなものを作ったら面白そうですね。
細野 今までのものをぽつぽつと作っていけばそういうのもできるね。
ハマ 映像のインスピレーションが湧いた曲からなる1枚っていう。
──それはすごく興味深いですし、楽しみにお待ちしております。
ハマ 確かにそれは観てみたいな。あとは勇磨が劇伴に挑戦するという、ね。
安部 いや挑戦してみたいですよ。でも全然お声がかからないんで(笑)。
ハマ こういう場で言うのは大事なんじゃない?
細野 そうだよ。
安部 ぜひやってみたいです。今日の取材でも、いろいろなことを学べたんで。まずは「Shaft」や「切腹」とか気になる作品を家に帰ってさっそくチェックしようと思います。
細野晴臣
1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2020年11月3日の「レコードの日」には過去6タイトルのアナログ盤がリリースされた。
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安部勇磨
1990年生まれ、東京都出身。2014年に結成された
・never young beach オフィシャルサイト
・never young beach (@neveryoungbeach)|Twitter
ハマ・オカモト
1991年東京生まれ。ロックバンド
・OKAMOTO'S OFFICIAL WEBSITE
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