DEVICEGIRLSこと和田一基。

映像で音楽を奏でる人々 第19回 [バックナンバー]

DEVICEGIRLSが20年を超えるキャリアの中で感じた、VJという仕事に必要なこと

電気グルーヴをはじめとするライブ現場やクラブで彼は何を学んだのか

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印象に残っているのはFUJI ROCK FESTIVALでの電気グルーヴのVJ

一番印象に残ってる仕事はやっぱり「FUJI ROCK FESTIVAL」での電気グルーヴのVJですね。特に2014年のライブは初めてメインステージであるGREEN STAGEでVJをしたので、心臓バクバクでした。ちなみに、このときのライブの模様は映画「DENKI GROOVE THE MOVIE? ~石野卓球とピエール瀧~」の軸にもなっているんですが、この映画の中にはフジロックが初開催された1997年の電気のライブも映っていて、実はその観客の中に大学時代の自分もいるんです。映画を観ているときに昔の自分と今の自分がスクリーンを挟んで向かい合っていて、不思議な感覚になりました。あの頃、お客さんとしてフジロックにも電気のライブにも行っていた自分が、こうして長く携わらせていただいているなんてありがたいなと改めて思いました。自分はVJをたまたま早く始められてただけなんですけどね。恵まれてます。

フジロックではRED MARQUEEステージ夜の部のVJも担当しているんですが、個人的には昨年の石野さんのDJで電気グルーヴの「虹」が流れたときの、お客さんもスタッフもVJである自分も一体感と多幸感に包まれた時間が忘れられないです。みんな笑いながら泣いてる感じでした。この感覚は、今年の5月5日にSUPER DOMMUNEで配信された、電気グルーヴの楽曲をプレイしている過去の番組の映像にVJをかぶせたときにも感じられました。「虹」が流れた際にYouTubeのチャットに流れる多くの視聴者の皆さんからのコメントや虹のアイコンを、その場で取り込んでVJ素材として昇華できたときに、「配信という環境でもお客さんとの一体感は生まれるものなのだな」と驚きました。コロナ禍で閉塞感がある中でも、演者しかいない会場と各地さまざまな場所で観ている視聴者の皆さんとで一体感を味わえたこと、離れた場所にいてもつながりを実感できたことに高揚感を覚えました。もちろん、大勢のお客さんと同じ場所で一緒に味わうことには及びませんが、これも1つの形として進化する可能性は感じました。それでもやはり少しでも早く、多くのお客さんと同じ場所で楽しめる日が来ることを願わずにいられないです。

2017年のライブツアーでは、複数の縦型LEDスクリーンの置き位置を手前と奥で差を付けることにより、ステージの奥行をより感じてもらえるような演出プランを考えました。実は途中でさらにもう一段階、透過性のあるメッシュ幕を登場させて、前面から別映像の素材を投影し、映像のレイヤーが重なる世界を作ってみたりもしたんです。その映像が投影された幕の中にステージ上の演者が完全に入った状態でパフォーマンスしたりと、全編を通していくつも違うシーンを作ることができたので、ぜひDVDを購入してご覧いただきたいです!(笑)。

前年のツアーの映像演出が“奥行感”だったのに対し、翌年のツアー「クラーケン鷹」は“浮遊感”をコンセプトにしました。映像が空間に浮かんでいるように見せたくて、LEDスクリーンを輪のようにして吊るしました。この形状を使ってどう効果的に映像を観せられるのか、演出プランを考えて制作するのはとても楽しかったです。各セクションのご尽力により、LEDスクリーンが上下に可動するという仕組みが叶ったので、ここでもいろんなシーンを作ることができました。

VJは今、コロナ以前の興奮や価値を違う形で模索している

VJや映像演出の仕事をしていることで、MVのディレクターやCDジャケットなどグラフィックのお仕事も声を掛けていただく機会があったりするんですが、MVもVJや映像演出と同じマインドで作っています。僕は誰にも気付かれないレベルであっても遊び心を入れたがりなんです。例えばグループ魂彦摩呂」のMVだったら、彦摩呂さんは元・幕末塾だから踊ってもらいたいなとか、食レポ中のお店の壁に貼ってあるお酒のポスターの人物が楳図かずおさんになっていたら面白いんじゃないかとか(笑)。宮藤官九郎さんをはじめ、審美眼や知識を持ったアーティストの皆さんとお仕事をさせていただく機会も多いので、いつもドキドキです。そういうときに役立っているのが、前述した一見無駄だと思っていた、子供のころからの雑多な知識欲ですね。

彦摩呂さんにはやっぱり食レポしてもらわないと!ということで、「彦摩呂」のMVは食レポとMVをマッシュアップしたような感じにしました。子供の頃にあこがれていたテレビ番組を作っているようで楽しかったです。歌唱シーンをどうしようと考えたときに、なぜかEMF(1990年に「Unbelievable」が全米1位になったイギリスのロックバンド)が頭の中に浮かんだので、シチュエーションはEMFのMVのようにムービングライトの中にしたかったんです。楽器と料理のリンクというテーマもあったので、彦摩呂さんが持つ“バーベキュー串”と似た楽器を考えて、グループ魂の港カヲルさんが持つ楽器は、EMFのイメージ=マッドチェスターから派生してThe Stone Rosesのイアン・ブラウンが持ってる“スティックタンバリン”にすることを思い付きました(笑)。

奥田民生さんの「サテスハクション」は、リリックビデオなのでアラビアンっぽい日本語をデザインするということに全制作時間の半分くらいを費やしました(笑)。このご縁から、先日終了した民生さんのライブツアー「ひとり股旅2020」の配信カウントダウン映像も作らせていただきました。

僕がVJを始めて以降、映像機材は著しく進化して小型化し、PCで映像を感覚的に送出できるアプリケーションが出始め、映像をDJライクに扱えるようになるなど、VJを取り巻く環境が大きく変わりました。そして今は、そのときと同じかそれ以上に表現の幅がすごい勢いで広がってきている時期だと思います。配信やオンライン上でのライブエンタテインメントが増え、制限がある中でも、関わるすべての演出セクションがコロナ以前の興奮や価値を違う形で模索しています。VJという役割も、これまでのVJという言葉に収まりきらない広義な存在になってきていて、とんでもなく面白いアプローチや凄い世界を作る人がたくさん出てきていて自分も刺激を受けています。オンライン上で個人でライブを楽しむときも、いずれまた会場に大勢で集まれるようになって一緒にライブを楽しむときも、アーティストの後ろにある映像演出やVJにも気にかけてみてもらえたらうれしいですね。って僕みたいなもんが言うのはおこがましいですけど!

和田一基とハリネズミの“へじ”ちゃん。

和田一基とハリネズミの“へじ”ちゃん。

DEVICEGIRLSが影響を受けた映像作品

Underworld「Footwear Repairs By Craftsmen at Competitive Price」(1998年)

和田の私物のUnderworld「Footwear Repairs By Craftsmen at Competitive Price」VHS。

和田の私物のUnderworld「Footwear Repairs By Craftsmen at Competitive Price」VHS。

文中でも話していますが、めっちゃ影響を受けた作品集です。観倒してボロボロ(笑)。界隈の方にとってはベタでしょうが、僕にとってはエバーグリーン。プロモーションビデオというよりもビデオアートとして成り立っていて、偶然性を紡いでリズムを作っていく手法とか、ずっとイマジネーションの基になっています。この作品の影響で、いまだに東急ハンズで変な素材を見つけては「これ、なんかの映像ネタになるかな?」と集めてたりしますね。「自宅で撮影した炭酸水」「偶然撮れたノイズ」といった素材を映像ネタ化して巨大なLEDスクリーンに表示して、それを大勢の人が見て盛り上がってくれたりするのは確信犯的でゾクゾクしますし、インスタレーションのときに感じたポテンシャルを引き出す感覚に近いと思っています。映像の作り手であるTomatoと音楽の作り手であるUnderworldとがシームレスに関係してるというスタンスも素敵です。

セリーヌ・ディオン「Live in Las Vegas: A New Day...」(2007年)

和田の私物のセリーヌ・ディオン「Live in Las Vegas: A New Day...」DVD。

和田の私物のセリーヌ・ディオン「Live in Las Vegas: A New Day...」DVD。

セリーヌ・ディオンがラスベガスでやった長期公演のDVDです。このために建設されたデカい劇場で、数年間にわたって行われた伝説のショーです。当時お仕事させていただいていたポルノグラフィティPerfumeの演出チームの人たちがこれを観に行ってて、「本当にすごいから観に行ったほうがいいよ」ってオススメされたので、一緒に会社をやっている映像クリエイターの堀とラスベガスに行ったんですよ。そしたら行った期間にちょうどやってなくて。代わりにシルク・ドゥ・ソレイユとか「オペラ座の怪人」を観て帰ってきました(笑)。

これを観ると「セリーヌ・ディオンって『タイタニック』の人でしょ?」みたいなイメージがマジで打ち砕かれます。舞台上の映像が「スクリーンに流れるもの」という概念に収まってなくて、情景と一体化してるようなんです。ダンサーたちがバッと動いて正確にピタッと止まるその陣形すらも含めて、客席から見えるすべてがデザインされた景色の一部って感じで。本当に素晴らしいショーです。こういった完成されたショーエンタテインメントと、決めごとの少ないクラブVJは一見対極に見えますが、映像演出によってお客さんに盛り上がってもらうことを目指しているのは同じなので、僕はどちらも突き詰めていきたいと思います。

DEVICEGIRLSの今後のVJスケジュール

電気グルーヴの1年9カ月ぶりのライブにてVJを担当。

「FROM THE FLOOR ~前略、床の上より~」のワンシーン。

「FROM THE FLOOR ~前略、床の上より~」のワンシーン。

配信ライブ「FROM THE FLOOR ~前略、床の上より~」

2020年12月5日(土)20:00~

ファンクラブ「DENKI GROOVE CUSTOMER CLUB」会員限定で配信。
視聴チケットは12月8日18:00まで発売。チケット購入者は12月8日23:59までアーカイブ映像を視聴可能。
詳しくはこちら

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