ニラジ・カジャンチ

エンジニアが明かすあのサウンドの正体 第11回 [バックナンバー]

RIRI、SUGIZO、[Alexandros]らを手がけるニラジ・カジャンチの仕事術(前編)

アーティストとの信頼関係がすべて

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三浦大知のボーカル

──ボーカルのディレクションはどのようにやっているんでしょうか?

RIRIはまだ若いのでサウンドを重視した歌い方をしていて面白いんですよ。経験豊かなシンガーだったら、どういう言葉をどういう表情で歌うのか、歌詞とリンクさせて考えると思うんですけど、RIRIは彼女の体の響きで選ぶんです。言葉は関係なく、曲のグルーブやノリを聴かせるための声の出し方なんですよね。だから僕がRIRIにボーカルディレクションをするときは、言葉の話じゃなくて声を喉と体のどのへんから出すかという話なんですよね。それと、RIRIは英語と日本語のハイブリッドでやってるので、どうしても日本語だと滑舌がよくなって、英語パートを歌うと音の輪郭が丸くなるんですね。なので彼女が日本語で歌うときにもわざと滑舌を悪くして、なるべく丸くなるように伝えていますね。

──三浦大知さんの歌録りはどのような感じでしょうか?

大知はずっとボーカルディレクションをやっていてミックスはD.O.I.さん。大知は引き出しが多すぎてなんでもできちゃうんですよ。でも彼のすごいところは、それらをすべて曲の中で出しているのに「僕はうまいでしょ?」ってアピールをしないところ。声の使い方で、フェイクとかものすごく細かいことができて、曲を何回でも聴けるようにテクニックを使うんだけど、それがしつこくない。R&Bのテイストをしっかり残しつつ多くの人が聴けるポップスを作っているのが素晴らしいですね。それをできる人はなかなかいないです。あと彼は声のレンジがすごく広くて、いろんな声質を持ってるんですよ。アルバムを通して聴くといろんなタイプがあるのがわかると思います。

ミックスはボーカルから着手

──RIRIさんのミックスを聴いて感じたんですが、オケの質感はあるのにボーカルの帯域をうまく避けてミックスされていて、これには何か秘密があるのでしょうか?

ミックスをするとき、みんなリズムから組んでいくと思うんですが、僕はほかのエンジニアと違ってボーカルからミックスするんですよ。リバーブの広さ、奥行き、ディレイのかけ方、どこまでワイドに作るのか、フランジャー的なかかり方にするのか、そういう空気感も最初に決めちゃうんです。その次にローエンドを作るんですよね。

──なるほど。でも、ローエンドはキックの音が一定なので音量管理が簡単でベースにしやすいですけど、ボーカルはダイナミックレンジ(※音量差)が広すぎて、ベースにするには難しくないですか?

僕はけっこうボーカルにコンプをかけるかもしれないです。それで一旦ボーカルを決めちゃったら、動かさないんですよね。だから、僕はボーカルに細かく音量のオートメーション(※音量をコントロールするフェーダーの動きを記録し、自動的に上げ下げする機能)も書きません。みんなボーカルを立たせるために細かく調整していると思いますけど、僕は最初から決めてるんでやる必要がないんですね。

ボーカルトラックに音量のオートメーションを描いた画像(提供:中村公輔)

ボーカルトラックに音量のオートメーションを描いた画像(提供:中村公輔)

──オケから組んでるとどうしても聞こえないところが出てきますからね。ではボーカルが聞こえるようにほかの楽器をミックスしている感じですか?

そうですね。セクションごとに楽器のバランスを変えているんですけど、どの楽器を出したいかというよりは、「どれがボーカルを邪魔しているか」という聴き方をしていて。だから引き算の考え方かもしれないですね。そのほうがレベル管理がしやすいです。そのスタイルがうまくいくと、クライアントのミックスチェックがすごく短くて済みます。アレンジャーもレコード会社も、だいたいボーカルが聞こえていて、質感や奥行きがよければ大丈夫だから。

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ニラジ・カジャンチ

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ニラジ・カジャンチ

アメリカ生まれ、日本育ちのエンジニア / スタジオオーナー。アメリカでキャリアをスタートさせ、マイケル・ジャクソン、リル・ジョン、ティンバランドらの作品を担当する。2000年代後半に日本に来てからは三浦大知、RIRI、Chara、佐藤竹善(SING LIKE TALKING)、大森靖子、Little Glee Monster、SUGIZO、[Alexandros]ら幅広いアーティストを手がける。

中村公輔

1999年にNeinaのメンバーとしてドイツMille Plateauxよりデビュー。自身のソロプロジェクト・KangarooPawのアルバム制作をきっかけに宅録をするようになる。2013年にはthe HIATUSのツアーにマニピュレーターとして参加。エンジニアとして携わったアーティストは入江陽、折坂悠太、Taiko Super Kicks、TAMTAM、ツチヤニボンド、本日休演、ルルルルズなど。音楽ライターとしても活動しており、著作に「名盤レコーディングから読み解くロックのウラ教科書」がある。

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ニラジさん☺️

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