石川浩司

愛する楽器 第8回 [バックナンバー]

石川浩司の日用品パーカッション

くだらないもの、楽器じゃないもので音楽を作る

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アーティストが特にお気に入りの楽器を紹介するこの企画。今回は元“たまのランニング”石川浩司が改良を続けながら約40年使っている自作の日用品パーカッションへのこだわりを語ってくれた。

取材・/ 松永良平 撮影 / 阪本勇

成り行きで始めたパーカッション

自作の日用品パーカッション。正面から見ると組み立て式のポール部分に目、鼻、口が描かれている。

自作の日用品パーカッション。正面から見ると組み立て式のポール部分に目、鼻、口が描かれている。

そもそもの話をすると、僕はパーカッションをやるつもりはまったくなかったんですよ。たまに入る前はギターの弾き語りをやっていて、1人でライブハウスに出ていたんです。そこで弾き語りをしているアングラなミュージシャンと友達になって、僕の住んでいた高円寺のアパートを溜まり場にしたりして、よく遊ぶようになったんですね。そういう友達が集まって毎月定例ライブを開いていました。でも、それぞれソロのシンガーソングライターの集まりだったので、彼らと一緒にバンドをやるなんてことは全然考えてなかったんです。

その頃、僕は毎週木曜日を楽しみにしてました。なぜなら僕の家の近所は木曜が燃えないゴミの日で、いろんな“いいもの”が捨ててあるんですよ(笑)。電化製品とか、まだ使えるようなものがね。ある晩、そのゴミ捨て場にスネア太鼓が1個落ちてましてね。「これはまだ使えそうだ」と思って持ち帰って、毎月の定例ライブで誰かが歌ってるときにふざけて叩いてたら、「それ、面白いな」って評判になったんです。

たまというバンドは、そのライブで生まれたんです。2年間くらい定例でやっていると、もう出演する人が一巡しちゃって。また同じ人が同じ感じで出ていると、観る方もやる方も飽きちゃうので、「バンドごっこをやろう!」ということになったんです。でも、みんなちゃんとしたバンドのようにはできないから、そのときは1日限りで、僕と知久(寿焼)と柳原(陽一郎)の3人でバンドを組むことにしました。

誰かがメインで歌っているときは残りの2人がバック演奏というか、おふざけで茶々を入れるようなことをやって。そしたらお客さんの反応がよかったので、「これはこのままバンドにしちゃったら面白いかも」となったんです。そのとき僕が太鼓を持っていたということもあるし、3人の中で僕が一番ギターが下手だったということもあって、「じゃあ、お前(石川)は太鼓な」と(笑)。そういうわけなので、成り行きでパーカッショニストになってしまったという感じですね。

僕はThe Beatlesから音楽に入ったんですけど、あんな大メジャーバンドでも後期はわりと実験的なことや、変なことをやってますよね。僕も高校生の頃からちょっとへなちょこな感じとか、ノイズが入る感じが好きで、プログレッシブロックを聴き出して。成り行きで叩き始めた太鼓に、もともと好きだったプログレのアート性とかパフォーマンス的な要素が合わさって、自分なりにできることが今のスタイルだったんです。

サワラよりヒノキのほうがいい

最初に太鼓を拾ったからというのもあるんですけど、ちゃんとしたパーカッションをやる気はなかったので、なるべく楽器じゃないもので演奏したら面白いんじゃないかと思ってました。この木桶だったり、100円ショップで買った手鍋だったり、いろんなものを叩いてます。ただ、そういう楽器じゃないものを叩くと、えてして実験音楽になっちゃうんですね。実験音楽としてアートっぽく完結させるのも面白くないので、楽器じゃないものを叩いてるけど、“ちゃんと演奏になっているか”を意識してやっています。

この組み立て式のキットを考案したのは、パスカルズをやり始めた頃ですから、1995年くらいですかね。僕は車を持ってないので、電車で持ち運びするため、大きめの旅行バッグに入る最低限のものをセレクトして今の最終ラインナップになった感じです。昔は、よりパフォーマンス的にやってましてね。この無印良品の組み立てキットの筒棒をいくつも縦につなげて、シンバルを3、4mくらいまで高くセッティングしてたんです。だからシンバルを叩くときは真剣にジャンプしないと届きません。時には叩きたくても、かすることしかできないこともあった。そういうパフォーマンス性のある演奏をしていたんです。

旅行バックから出てきたほかの“楽器”。

旅行バックから出てきたほかの“楽器”。

パスカルズでヨーロッパツアーに行ったとき、パフォーマンスを披露したらすごく反応がよかったんですよ。公演後になんと、シルク・ドゥ・ソレイユからオファーをいただきました。「あのパフォーマンスがすごかった。連絡がほしい」と言われたんですけど、僕はシルク・ドゥ・ソレイユのことをあんまり知らなかったうえに、そのときもう40歳くらいになってたので「この歳でサーカス団に売られるのは嫌だなあ」と思って、断りました。でもあとで聞いたら、それはとんでもないオファーだったそうで(笑)。まあ、僕は集団行動とか苦手なので、どっちにしろやらなくてよかったなと思ってます。多少はお金をもらえたかもしれないけど(笑)。

木曽ヒノキの桶。

木曽ヒノキの桶。

今使っているパーカッションで一番気に入っているのは木桶です。このパーカッションは僕にとっては楽器なんですけど、桶と鍋とゴミ箱は結局、日用品ですね。そういうのをもう40年近く叩いてる。僕が使ってる木桶はね、木曽ヒノキ製。普通はサワラっていう木で作られた桶が多いんですけど、やっぱり木曽ヒノキ製のほうがいい音がしますね。この桶も20年以上使ってるけど全然壊れない。本来の楽器である太鼓とシンバルのほうが壊れやすい。日用品のほうが、多少乱暴に扱っても壊れないようにできてるんですね。まあ、僕はステージでパーカッションをキットごと倒したり転がしたり、めちゃめちゃやるので、楽器を愛してる方々からは怒られるかもしれない(笑)。

ゴミに救われた人生

パスカルズでは、僕のほかにドラムが1人いるので、僕はパーカッションだけどノイズっぽい役割なんです。キット以外に、鎖も使います。鎖は静かな曲で擦るようにチャラチャラ音を出したり、激しい曲のときは太鼓やシンバルを暴れ者みたいに叩きます。ガムテープもわりと使いますね。剥がすときに出る音をマイクに近づけて拾ったり、そのうちガムテープを自分の体中に巻き付けたり。

ビニールを鳴らす石川浩司。

ビニールを鳴らす石川浩司。

ただのポリ袋もマイクに近付けるとけっこういいノイズが出ますね。かぶったりもできるし(笑)。昔パスカルズでヨーロッパツアーに行ったときは、洗濯してる時間もないからランニングが足りなくって、ツアーの途中からステージでは黒いポリ袋にハサミで穴を開けてランニング代わりに着て、そこに各地のフライヤーとかを貼り付けて、それも鳴らして音にしてました。で、ライブが終わったら投げ捨てて帰ってましたね(笑)。

ブリキ缶に入ったビー玉。これも楽器だ。

ブリキ缶に入ったビー玉。これも楽器だ。

ビー玉もすごく使えます。缶の中で揺らしたり、太鼓の上に一気にいっぱい落としたり。あとで拾うのが大変ですけど(笑)。お客さんに投げてあげちゃったりもできますしね。あとは、例えば第2部の演奏が静かな曲で始まるときは、PAの人にこっそり僕のボーカルマイクの音量を上げておいてもらって、硬めのおせんべいをガリガリッてかじってリズムにするとかね。

ライブハウスにあるものでも、「これは叩いても怒られないな」と思えるものは、なんでも叩きます。壁とか鉄骨とかね。僕も最近は年齢的にライブハウスの店長さんより年上になってきたんで、もうよっぽどのことをやらない限りあんまり怒られませんから。苦笑されるだけで(笑)。なるだけくだらなく、楽器じゃないものを鳴らして、でもちゃんと音楽にするということが僕はやりたいんです。

燃えないゴミの日にスネア太鼓を拾ったことで僕の人生は大きく変わりました。“ゴミに救われた人生”です(笑)。

石川浩司

東京都出身、1961年7月3日生まれ。1981年に東京のライブハウスでギター弾き語りのソロ活動を開始、84年からたまのパーカッション、ボーカルを担当。90年に「さよなら人類 / らんちう」でデビュー。 同曲はヒットチャート初登場1位となり「第32回日本レコード大賞」最優秀ロック・新人賞をはじめ数々の音楽賞を受賞した。現在はソロで“出前ライブ”などのギター弾き語りおよび、パスカルズ、ホルモン鉄道、イシマツなどのバンドで活動。著述家として旅行記、エッセイなど10冊以上の著作があり、Webマガジン「DANRO」ではコラム「元たま・石川浩司の『初めての体験』」を連載中。2019年3月には、趣味でコレクションしている空き缶3万缶の中から選りすぐりのお宝650缶を紹介した「懐かしの空き缶大図鑑」を刊行した。

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松永良平 / Ryohei Matsunaga @emuaarubeeque

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