映画「
小学校からの友人である隆一との喧嘩を題材にした「1人のダンス」、映画を撮れなくなった自分を主人公にした「夢半ば」など、自らの実人生で直面した出来事を映画に昇華させてきた安楽。本作は隆一の「幸せに暮らしている俺ら家族を撮ってほしい」という言葉から、安楽が作家として何ができるのか、自らに問いながら親友の家族を記録した作品だ。
隆一と朱香の夫婦には、
舞台挨拶には珀久くんも出席する予定だったが、数日前に風邪の症状が出てしまい、大事を取って入院しているそうで、この日の参加は叶わなかった。隆一は「付き添いができない病院なので、今朝、面会だけして来ました」と報告。朱香も「主役が不在ですが、今日は来ていただきありがとうございます」と笑顔で話し、「私たちは変わらず、すごくハッピーなので、温かく見守っていただけたらうれしいです」と呼びかけた。
朱香は映画の感想を「最初から泣きっぱなし。映画は珀久ちゃんの声が出てるんですけど、今は手術の影響で声が出ない。初めて観たときは、その声を何年かぶりに聞いただけで涙がぼろぼろ出てしまって」「あんぼー(安楽)の編集の温かさというか、私たちの思い出をこういうふうにまとめてくれたんだと感じた」と吐露。隆一も「我が家にとって一番大事なもの、家宝をくれたなと思ってます。宝物です」と続けた。
「なぜ君は総理大臣になれないのか」などドキュメンタリー監督として知られる大島は、審査員を務めていた映画祭で鑑賞した本作に惚れ込み、盟友の前田とともにプロデューサーを買って出た。そのときまだ決まっていなかった劇場公開のために尽力し、大島は「映画が大好きになったと同時に、同じくらい、隆一さん、朱香さん、それから珀久くん。私よりも20歳以上も若いご家族に惚れ込んで、ここまで来ました」と話す。
さらに、本作の魅力を「小さな家族の物語。大きな事件が起きるわけではなく、たんたんとした日常が撮影されてます。その日常の中に、隆一さんと朱香さんがつらかったときを振り返るシーンがありました。実は10分ほどのワンカット、編集なしで続いているところがあります。そこが本当にすごい。安楽さんとご家族の信頼関係がなければ、あのシーンは撮れない。こういう素晴らしいシーンはドキュメンタリーになかなかないんです」と続ける。
本作で初めてドキュメンタリーを監督した安楽だが、わからないことがあってもすぐに質問するのではなく、家族の日々を丹念に撮ることを大事にしていたという。彼は「初めて散歩している3人を撮ったとき、あまりに幸せそうで俺の心配なんて吹き飛ばされたんです」と述べつつも、「でも、だんだんと気になってきて。やっぱり“この前のこと”を僕は知らなくて」と述懐。安楽がカメラを回し始めたのは、家族が前を向き始めたタイミングと重なっており、珀久くんが入院してメンケス病と診断されるまでの不安と孤独の渦中にあった時期を知らなかった。
大島が言及したシーンについて、安楽は「あのシーンで、隆一たちは『人に話せなかった』と言ってるんですけど、僕はその話せなかった1人でもあるんです。2人が話さないなら話さない理由があるから、それを僕が聞くこと、映画のために引き出すことが、彼ら家族を傷付けることだと思っていて。僕は大前提、友達ですし、彼らの味方。それだけは絶対にしないと決めて。でもずっと気になってはいて。何年掛かってもいいからいつか聞けるタイミングがきっと来るだろうと思ってたら、半年ぐらいで来て」と明かす。
映画の中で、隆一と朱香は「このつらさを話しても友達が困るじゃん」「支えがお互いしかいなかった」と、カメラを回す安楽にその時期の心境をまっすぐに話していく。安楽は「ドキュメンタリーは取材の積み重ねだと思うんですけど、僕にとってこの映画は取材ではない。一緒にいること。友達として一緒にいて、珀久くんも含めた4人、そして猫のフィガロもいて。その4人だけで映画を作るという感覚でした。そのためだけに彼らがわざわざ(つらい時期を)思い出すようなことをしてほしくなかった」と語った。
映画に映っているのは2024年春までだが、朱香は同年の9月に珀久くんの妹となる長女を出産。またフィガロだけでなく、猫がもう1匹仲間に加わった。映画に「ONE DAY」という楽曲を提供し、アーティストとして活動する隆一は、2025年にアーティスト名をRYUICHIからRYUFOに改名。現在、ソロでの楽曲制作を続ける。
安楽は映画の中にある珀久くんの声が撮れたことをきっかけに編集を開始した。撮影を始めた頃は1日中カメラを回すこともあり、素材は膨大。一度、すべての映像を観て印象に残った出来事を残し、エピソードを羅列したが、どんなに削っても3時間になってしまったそう。これでは想定した「映画」にならないと考え、そこからは安楽がしゃべらない映像、カメラが客観的に出来事を収めただけのものなど、およそ1年にわたって編集を続けた。最終的には40以上のバージョンが生まれ、現在の納得がいく形に仕上がった。
編集を続ける間も撮影を続けており、安楽は「なかなか終われなかった。編集も終わったから撮影しない、みたいなことはできなくて」と回想。「回す頻度はめちゃめちゃ減りましたけど、未だに回してます。でも、この間、家に行って1秒もカメラを回さない日が初めてあって。こうやって僕たち以外の人も公開に向けて進んでいって、何か自分の中で気持ちが変わったんです。今日も持ってきたけど、まだ回してない。カメラを通していろんな会話ができたから、これからはカメラがなくてもしゃべれるし、大丈夫な気がしてます」と話す。
長年の親友である安楽について、隆一は「友達とか抜きにしても、こんな人はいない。ほかの人には、自分たちの生活を預けてないんです。ちゃんと優しさに包まれるようなものにしてくれたのは、彼の性格とまめさ、優しさ。自分は親とか友達に甘えるのが苦手で、でもあんぼー(安楽)に家族を撮ってほしいと言ったときは、甘えたんだなって。たぶん誰かそばにいてほしかった。あのときすごく甘えてたんだな、と最近になって気付けました」と吐露する。
これを聞いていた配給会社所属のMCは、大島が本作のために考え、却下されたキャッチコピーを思い出したそう。大島は「俺も思った(笑)。それは『この映画は愛と友情の物語』。でも、そうとしか言いようがない。あまりにもベタすぎると言われて却下されたんですが、本当に“愛と友情の物語”だと思います」と語った。
東風が配給する映画「ライフテープ」は、ユーロスペースほか全国で順次公開。
映画「ライフテープ」予告編
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