第38回東京国際映画祭が開催されている11月1日、コンペティション部門に出品されているアメリカ映画「アトロピア」が東京・TOHOシネマズ 日比谷で上映。監督・脚本のヘイリー・ゲイツが上映後のQ&Aに登壇した。
本作の舞台は2006年、イラク戦争に派遣される米軍兵士の訓練のために、中東の街並みを映画のオープンセットのように再現した砂漠の中の架空都市「アトロピア」。ここで働く人々は町長、化学者、過激派の兵士、DVD販売人、結婚を控えた花嫁など、それぞれの役割を与えられ、街での生活を作り上げる。米軍の新兵たちはロールプレイとして現地の生活や文化を知りながら、実戦ながらに街を攻略。ロマンス、コメディ、戦争風刺に満ちたユニークな物語が展開していく。
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アトロピアは米カリフォルニア州に実在する軍事訓練施設であり、同じような施設はアメリカ国内に数多く存在しているそう。ゲイツは「9.11以降、イラクに派遣される兵士の訓練のために使われていたということを知り、とても驚きました。偽物の街が軍の基地の中に作り上げられているのがとても興味深い。アメリカでもおそらく多くの人がこういった施設の存在を知らないと思います」と、この題材に惹かれた理由を明かす。
もともとは施設を記録したドキュメンタリーとして構想したが、軍からの許可を得ることができなかったそうで「こういった奇想天外な施設を作り上げるのは、少しバカげているし、いいコメディの題材になると思いました。だったら、映画を撮ろうという方針に転換したんです」と述懐。2019年に同じ題材を扱った短編映画「Shako Mako」を監督し、その後、今回の長編映画に発展させた。ストーリーは一見安全に思えるものが内部に侵入して害を及ぼす「トロイの木馬」を参考に構築しているという。
主人公はアトロピアで働きながら、ハリウッドでの活躍を夢見るイラク系アメリカ人の女優フェイルーズだ。自分が注目を集めるために新兵に賄賂を渡したり、いい役を得ようとほかの俳優と交渉したり、その必死な姿が笑いを誘う。ゲイツは本作を作るにあたって実際にアトロピアで働いた経験のある女優にインタビューしており「その中に、とても演伎が上手でどんどん軍に気に入られたという方がいました。彼女はより難しい役を与えられ、(劇中同様に)マスタードガスを作る化学者の役を演じたそうです。ただ、この映画の主人公ほど必死な女優は、実際にお会いしたことはありません」と語った。
1990年に生まれ、イラク戦争が始まった2000年代に10代を過ごしたゲイツは「当時のイラク戦争に関する映画は、やはり軍の方針に沿ったものが多く、反戦のメッセージが強い作品はなかなか作られていなかった」と回想。本作では軍と映画産業のつながりも示唆されており、「人々がまだ観たことのないアプローチの映画を作りたい」「軍がいかにいろいろな業者、協会とつながりながら資金を得ているか、皆さんには知っていただきたい」という思いが強かったという。
そして「アメリカという国は悲しいかな、戦争をしていなければ自尊心が保てない、自分を信じられない国になってしまったような気がしてなりません。このときはイラクでした。『アトロピア』にもイラク人、イラクの町並みが出てきます。でも次の年になったら、ロシア人のアトロピアが作られるかもしれない。また、その次の年には違う国の俳優が演じる別の設定のアトロピアになるかもしれない。私はそれがとても悲しいことだと思っています」と語った。
第38回東京国際映画祭は11月5日まで開催。
マサ・ッそ凸 @masassoDECO
偽物の街で戦争のロールプレイ、実在の訓練施設を描いた「アトロピア」監督Q&A https://t.co/86hfQz6wIo