創業90周年を迎えたIMAGICA GROUPによる「IMAGICA GROUPオリジナル映画製作プロジェクト」の第1弾作品が、第78回カンヌ国際映画祭の会期中である5月14日にカンヌ ジャパンパビリオンで発表。寺田ともかが脚本・監督を担う「マリア」に決定した。
「IMAGICA GROUPオリジナル映画製作プロジェクト」は、グループ会社内で国際映画祭への出品および受賞を視野に入れた映画企画を募集し、毎年1作品を選定して製作を行うもの。同プロジェクトを5年間にわたり継続することで、クリエイターの発掘・育成を図る。第1弾で集まったのは88企画。このたび行われた記者発表会には「マリア」のプロデューサー・土川はなのほか、審査員を務めた
貧困と犯罪が溶け込んだ工業地帯を舞台とする「マリア」は、訪問介護ヘルパーをしながら生きる18歳・永田マリアの物語だ。ある日彼女に予期せぬ妊娠が発覚するが、中絶しようにも金がなく、相手の男は逃亡。たった1人の家族である母親は、薬物依存症の更生施設に入っていた。行く当てのないマリアは、高齢者宅で遭遇した19歳の少年・金井ケンのことを思い出す。彼はドラッグディーラーとして生活保護を受ける高齢者たちから睡眠剤や精神薬を安く仕入れ、必要な人間に売ることで生計を立てていた。そしてマリアはある悪事をケンに持ちかけるため、彼が5歳の妹と暮らす古びた長屋に転がり込むのだった。
土川は企画選出について「飛び上がるほどうれしかったです。そして、同時にプロデューサーとしてこの企画を映画という形にして世の中に届けるという責任の重さも感じました」と吐露。登壇が叶わなかった寺田はコメント映像を寄せ、「私は大阪南部の田舎町で生まれて、介護の仕事をしているシングルマザーの母に育てられました。私自身もつい最近までソーシャルワーカーとして普通に福祉現場で働き(今も働いていますが)、とても遠い場所だと思っていたカンヌでこうしてお話しする機会をいただけたこと、本当に光栄に思っております」と伝えた。
企画内容を読んだときの思いを聞かれた市山は、「完成度という点では何も問題なく、新人ならではのいい意味でのフレッシュさがあり、大変魅力的な作品だと思いました」と称賛。坂野も「製作にあたって、脚本が一番なのは間違いありません」と前置きしつつ「実現可能性という点で、とても現実的だということが選んだ1つのポイントでした。期待しています」とエールを送る。そして是枝は「寺田さんの企画が断トツでした」と評し、「本当に脚本にリアリティがあって、ユーモアもあってよく書けているなと正直少し驚きました」とたたえた。
寺田ともか メッセージ全文
これは私が初めて書いた長編の脚本です。私は大阪南部の田舎町で生まれて、介護の仕事をしているシングルマザーの母に育てられました。私自身もつい最近までソーシャルワーカーとして普通に福祉現場で働き(今も働いていますが)、とても遠い場所だと思っていたカンヌでこうしてお話しする機会をいただけたこと、本当に光栄に思っております。
この作品は、1人の女の子の尊厳に関する物語です。主人公は18歳のマリアという女の子で、物語は彼女が思いがけない妊娠をするところから始まります。物語の背景には、格差、貧困、ケアワーカーたちの労働環境の厳しさ、高齢者の孤独死、戦争の傷跡(加害も含めて)、そしてとりわけ女性たちが受けるジェンダー差別や性的搾取の問題などがあります。しかし、映画のトーンとしてはとてもコミカルで、笑えるシーンもたくさん書いています。なぜなら、私がソーシャルワーカーとして働く中で出会う人々は、確かに厳しい現実に置かれているし、いわゆる弱者と呼ばれる人々かもしれませんが、彼女たちは常に苦痛にあえいでいるわけでも、逆境を甘んじて受け入れているわけでもないからです。
主人公のマリアは、そのような同情的な目線を跳ね返すユーモアを持った人物で、ただ支援を必要としている弱い存在ではありません。自分の尊厳を奪おうとするものとは正面から戦います。そんな彼女の姿を、愛とリスペクトを込めてユーモアたっぷりに描きたいと思っています。これから撮影の準備に臨んでいきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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【イベントレポート】IMAGICAオリジナル映画第1弾は寺田ともか監督作「マリア」、是枝裕和「断トツでした」
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