第3回新潟国際アニメーション映画祭にて、
片渕が現在制作中の新作アニメーション「つるばみ色のなぎ子たち」では、「枕草子」が書かれた1000年前の京都を舞台に、清少納言が生きた日々が描かれる。イベントの冒頭、約3分半にわたる最新のパイロット映像を披露した片渕は「一番最後に出てきたのは狼です。平安京に狼がいたのか?と思うかもしれませんが、中まで入ってきて倒れて死んでいたという記録があります。今はまだ鉛筆で描いている途中のものですが、ここからまた最新のものに差し替えて皆さんにお見せしていきます」と話した。
本映画祭の第1回から、同作の制作過程を報告してきた片渕。彼は「登場人物がものすごく多い作品。パイロットフィルムを観る限り、どこが『枕草子』なんだ?とおっしゃるかもしれませんが、宮中の営みだけじゃなくて、その外側にあったものを含めたいろんな背景を扱っている。たくさんの次元が重なって1つの世界を作っています」と説明する。続けて「当時清少納言は、政治的な思惑や疫病などが背後にあった中で、言葉を選ばずに言うと“あえてのんきなものを書いていた”。できるだけそこから世界を広げて(当時の時代背景も)感じていただけるような作品になればと思って挑んでいます」と述べた。
片渕は5、6年掛けて「枕草子」を読み込み、内裏図や当時の生活様式、宮中での役職ごとの仕事内容、清少納言とともに一条天皇の中宮・定子に仕えた1人ひとりの人物像まで掘り下げている。彼は「定子に仕えた女房(女性使用人)だけで20人ほどいるのですが、調べていくとちゃんとパーソナリティがわかってきた。位が高いけどほかの人が取っ付きやすい態度だった人や、慌てるとどもってしまう人、出勤簿を管理する係の人がいたと知り、キャラ付けできるじゃん!と思ったのが、2017年にこの企画を立ち上げたきっかけです」と回想した。
「一番大変なのはキャラクターデザイン」だといい、「当時は茶髪などいないので、髪色がみんな同じ。さらに、服も同じで年齢差もあまりないので、身長や顔のシルエットで見分けられるようにしないといけません」と口にする。片渕は「史実をもとに絵コンテを描きますが、その絵が正しいのか?という疑問がまた始まります。もう一度調べて映像にしたものに対し、専門家からは『筆の持ち方が違う』という指摘も出てくる。磨き上げていく余地がまだあります」と報告し、「十二単を実物大で作ってみて気付くこともありますし、(薄い生地でできた)夏服の透け方など、もう少し自分たちで手触りを感じたいと思う一方で、どんどん絵にしていかなければいけないとも思っています。大事業になってしまっている感じです……」と話した。
観客から「去年の大河ドラマ『光る君へ』は観ていましたか?」という質問が飛ぶと、片渕は「作り方の方向性が違うだろうなと思い、引っ張られたくなかったのであえて観ないようにしていました」と回答。「昔、黒澤明監督が撮影の前から役者に衣装を着させていたという話を聞いたことがあります。私も『自分たちが作るものを本物だと思いたい』という気持ちがあるからこそ、近いことをやっている作品から意識を遠のけたかったんです。『つるばみ色のなぎ子たち』の制作が終わったら観るかもしれません」とほほえみ、イベントの幕を引いた。
すぎまる @sugimarco
【新潟国際アニメーション映画祭イベントレポート】片渕須直、「つるばみ色のなぎ子たち」のキャラデザに苦労「髪色も服も同じ」
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