小栗旬ら出演「フロントライン」にはコロナ禍の日本が凝縮、増本淳・関根光才が制作を語る

小栗旬、松坂桃李、池松壮亮、窪塚洋介が共演した映画「フロントライン」。このたび企画、脚本、プロデュースを担った増本淳、監督の関根光才への囲み取材が行われた。

本作の舞台は2020年2月3日に横浜港に入港し、その後日本で初となる新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船ダイヤモンド・プリンセス。対応を担った、災害医療を専門とする医療ボランティア的組織・DMAT（ディーマット）らの姿が描かれる。小栗がDMATの指揮官・結城英晴（ゆうきひではる）、松坂が厚生労働省から派遣された役人・立松信貴（たてまつのぶたか）を演じ、池松はDMAT隊員・真田春人（さなだはると）、窪塚は東日本大震災で結城と活動した“戦友”とも呼べる過去を持つ仙道行義（せんどうゆきよし）に扮した。

企画の発端は、増本が過去に手がけたNetflixシリーズ「THE DAYS」の制作時にあったという。増本は「2020年3月の終わりくらいに、コロナの影響で撮影がストップしたんです。どう再開するか悩んでいたとき、ダイヤモンド・プリンセスに乗っていた方に話を伺うことができた」と回想。「僕らが見ていないところで、これだけたくさんの人が努力されていたのかと。乗客と言語の壁があり、立ち向かう相手は未知のウイルスなので、彼ら（DMAT）は作業の中で躊躇もしたし、間違うこともあった。でも、その中でベストを尽くしたということが映画になると思った」と経緯を説明する。そこから5年というスパンで公開まで突き進んだことについては「相当迷ったんですけど、やはり早く公開するべきだろうと。コロナ禍に感じた『当たり前の日常が、実は素晴らしいことだった』という気持ちは日々薄れていると感じます。当時の感情を忘れてしまう前に公開したほうがいいと思ったんです」と明かした。

増本から監督のオファーを受けた関根は「脚本を拝見して、これはすごいなと。読んだときは2023年の春頃で、多くの人が社会生活に戻っていた時期。“あの頃”がまるでなかったように生きている人も多いなと感じていたんです」と振り返り、「教訓として学ばなきゃいけないことも相当ありましたし、観た人に“議論のテーブル”を差し出すという意味でも大きな役割を果たすのでは、と思いました」と述懐。そんな彼について、増本は「撮影に入るとかっこいいシーンや面白い話に思考が傾きがちなところを、関根さんは傷付いてる人、痛みを伴ってる人々のことを常に忘れないで撮ってくれる。配慮があるんです」と称賛する。そして関根から脚本の修正依頼を受けたことに触れ「『この台本には増本さんの怒りがあふれすぎている。もうちょっと抑えてもらったほうが、いろいろな人に響く物語になると思う』と。“目から鱗”でしたし、自分とは異なる意見を持つ人を切り捨ててしまっていることに気付かせてもらえたんです」と感謝を伝えた。

劇中ではDMATのみならず“全員が主人公”と感じるほど重層的な物語が紡がれる。増本は「命懸けで職務に向き合わなければならなかった人たち全員に焦点を当てることで、観た人に“自分の物語”にしてほしいと思っていました」とコメント。「ダイヤモンド・プリンセス号でのエピソードは言ってみれば世界のコロナ禍での出来事の凝縮版です。『世界がもし100人の村だったら』のように世の中を凝縮した舞台として描きたかった」と狙いを明かす。関根も「日本の政治体制や運用のされ方、それが市井の人々や医療現場にどういうふうに落ちていったのか。あの船には当時の日本が凝縮されていたように感じていました」と続いた。

撮影では「ジョーカー」や「バービー」「レヴェナント: 蘇えりし者」など数々のハリウッド大作映画で使用されたカメラ「ALEXA 65」が持ち込まれ、持ち上げるドローンもあわせて製作された。それは「冒頭5分で観客を船の中に連れて行ってくれ」という増本のリクエストに応える試みだという。関根は「会議室や食堂、客室、廊下など狭い場所でダイヤモンド・プリンセス号の臨場感をどう生み出していくか。しかも今回は目に見えないウイルスと対峙する物語です。日常が急に変わる感じを表現するのもかなり難しかった」と述懐する。登場人物の話に移ると、増本は「テレビドラマとして作るとしたら、船の中で指揮を執る仙道が主人公になると思うんです。でもこの作品はただ船に乗り込んで助けていく話ではなく、重篤な人を医療施設に送ることしかできないという無力感や苦しみも描かれる。そんな状況を俯瞰して見ることのできる人を中心に据えようと考えたとき、結城を主人公にしたい、そして小栗さんに演じてほしいと思ったんです」と打ち明けた。

最後に増本は「勉強をしに本作を観に行こうという考えはもちろん素晴らしいと思いますが、そんなに堅苦しく考えないでほしいという思いもあります。もっとフランクに『小栗くんを見たい』『松坂くんかっこいい』『なんかすごそう』みたいなモチベーションも大歓迎です。あらゆる人に観てもらうことに価値があると思いますので。それで『ついでにちょっと勉強になったね』となっていただけたら作り手としてこれほどうれしいことはありません」と言葉に力を込めた。

「フロントライン」は6月に全国で公開される。

映画「フロントライン」先行特別映像