諏訪敦彦や西川美和ら監督有志、業界のハラスメント防止に向けた要望書を文化庁に提出

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映画監督によるあらゆる暴力に反対する声明を発表していた映画監督有志の会が、3月24日、ハラスメント防止に向けての要望書を文化庁に提出していたことが明らかに。現在「文化芸術分野の適正な契約関係構築」に関する契約書のひな型とガイドラインの作成を進める検討会議に対して、ハラスメント防止策の項目を組み込むことへの議論と検討を求めた。

映画監督有志の会による文化庁・省庁へのハラスメント防止に向けての要望書提出時の様子。諏訪敦彦(左奥)と西川美和(左手前)。

映画監督有志の会による文化庁・省庁へのハラスメント防止に向けての要望書提出時の様子。諏訪敦彦(左奥)と西川美和(左手前)。

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一部週刊誌で映画監督の立場を利用した性加害を告発する報道が出たことを受け、「私たちは映画監督の立場を利用したあらゆる暴力に反対します。」という声明文を出していた映画監督有志の会。是枝裕和諏訪敦彦岨手由貴子西川美和深田晃司舩橋淳が連名で名を連ねており、3月18日の発表から数日で300を超える賛同のメッセージが寄せられたという。声明では改善に向けたアクションを起こすことを明言しており、今回、具体的な改善方法を模索すべく動き始めた形だ。

2021年9月から「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」を進めていた文化庁。文化芸術分野においては契約の書面化が進んでおらず、口頭でのあいまいな契約や一方的な契約内容による予期せぬ不利益が特にフリーランスの人々に生じることが問題視されていた。有志の会は現在の映画界も同様とし「そのことがハラスメント、精神的・身体的暴力などさまざまなトラブルの要因の1つとなっています」と説明。検討会議では各分野の芸術の担い手がプロフェッショナルとして尊厳のある仕事ができるようにするため、この3月での公表を目標に、わかりやすい契約書のひな型とガイドラインの作成を進めていた。

一方で映画監督有志の会は、要望書において、それまでに行われた3回の検討会議について、検討期間の短さや当事者メンバーの割合の低さ、実態把握のためのアンケート実施期間の短さ、回答を得た業種の偏りといった問題を指摘。そのうえで「当事者、それも声を上げづらい現場労働者の意見をきちんと反映できているのか、公正な議論と検討が尽くされているのか、疑問を持たざるを得ません。実際、すでに公表されている3回の議事録を読む限り、ハラスメント防止に関する議論は、問題の深刻さに対しまだ不十分です。今回作成される契約書のひな型は、今後のモデルケースとなる極めて重要なものとなります。だからこそ、省庁には拙速に結果を示す前に、議論のためのより十分な期間を設け、現場スタッフ、俳優らへのヒアリングをより丁寧に広範に行ったうえで、どうすれば態様が多岐にわたるハラスメントを防止できるのかを真摯に検討することを要望いたします」と求めた。

諏訪は要請の場において文化庁の担当者に声明の反響を伝えながら「実にさまざまな現場の声が届いています。事態は想像以上に深刻です。そのような状況の中で、ぜひハラスメント防止の観点から幅広い現場の調査と契約書の項目についてもっと十分に時間をかけて検討していただきたい」と危機意識を共有。西川は賛同のメッセージの中に「痛ましい実情の告白」が多数あったことに触れつつ「そういう苦しみの受け皿が映画・映像業界にまったく用意されずに来たことの表れでもありますし、また過酷な労働環境の中でスタッフや俳優はプレッシャーを受け続け、傷を負った人が上の立場に立ったときには無意識に加害的になっているような連鎖もあります。ハラスメントの問題を重要な課題として捉えていただき、作成中の契約書のひな型のプラス面が将来的には広く当事者に伝わるようにしていただきたいと思います」と伝えた。

文化庁側の担当者は「この取り組みは始まったばかりで、まずは最初の一歩として踏み出そうとしております。その中でさらに現場の方の声を取り込みながら使っていただける、よりいいひな形をまずは作っていきたいと思っています」と認識を話した。要請ののち、3月28日には文部科学省にて第4回の検討会議が開催。今回公表された資料では「制作や実演の現場において暴言等による精神的な攻撃や演出等を理由とした性的な言動などパワーハラスメントやセクシャルハラスメントに関する問題(中略)も生じている」と現状の認識を提示しながら、契約書で明確にすべき事項の1つとして「制作管理者が行う安心衛生に関する責任体制の確立、安心衛生教育の実施、作業環境やトラブル・ハラスメント相談体制の整備等の取組」が挙げられている。

検討会議は今後、第5回、第6回と開催を重ね、6月から7月頃に会議の取りまとめと契約書のひな形の公表を予定。また映画監督有志の会は、マスコミに向けた文書の中で「ハラスメントについては、まず私たちも含めこの問題の当事者である映画業界自らが事態の深刻さを認識し、改善に向けた具体的な対策を講じる必要があると考えます。今後は省庁に限らず映画業界団体に対してもハラスメント防止に向けた働きかけをしてまいります」とつづっている。

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映画監督有志の会「拙速に結果を示す前に、議論のためのより十分な期間を設け、現場スタッフ、俳優らへのヒアリングをより丁寧に広範に行ったうえで、どうすれば態様が多岐にわたるハラスメントを防止できるのかを真摯に検討することを要望」。当事者の少ない検討会議に対し、働きかけた意義は大きい。

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