車椅子の落語家・林家かん平の活動を追ったドキュメンタリー「
1990年、41歳のときに脳溢血で倒れ、右半身不随や言語障害のリハビリを行いながら高座に上がり続けてきたかん平。「アイドル7×7監督」の竹藤恵一郎が監督を務める本作では、同居する母の介護や自身のリハビリなどに苦労しながらも、兄弟子や芸人仲間、高校の同級生たちに支えられ、自らの体験をもとにした創作落語を高座で語るまでを映し出す。かん平のほか、海老名香葉子、
2015年の春から1年にわたって撮影を行った竹藤は「リハビリの様子や寄席の楽屋はもちろん、風呂場にまでカメラを持ち込んだのだから、本人にとってはいい迷惑だったろう。しかし映画を愛するかん平師匠は『監督、もっと注文してください』『もっと厳しく』と言い続けた」と現場を振り返っている。
竹藤恵一郎 コメント
「身障者の落語家のドキュメンタリーを撮ってみませんか」そう言われ、自分に務まるかと若干の不安を感じながらかん平師匠に会ったのだが、この人の日常を撮ってみたいと思ったのは、まず師匠が映画好きであるという点。そして、言葉の端々に差し挟んでくるユーモアに惹かれたからである。20年以上にわたって障がいをかかえ、歳もとり、母親も90を越えて寝たきりになってしまったというのに、この明るさ、バイタリティの源はどこにあるのか。それを知りたいと思った。
とは言え、師匠は体の自由がきかないため、外出もままならず、自宅へうかがって話を聴くことから始めた。その時にドラマの台詞「頑張っていればきっと神様がご褒美をくれる」に感銘を受けたことや、新たなチャレンジとして新作に取り組むことを聴き、その過程を記録するために密着させてもらうことになった。
リハビリの様子や寄席の楽屋はもちろん、風呂場にまでカメラを持ち込んだのだから、本人にとってはいい迷惑だったろう。しかし映画を愛するかん平師匠は「監督、もっと注文してください」「もっと厳しく」と言い続けた。映画の中で師匠が「紋付を着ると芸人、これを脱ぐと障がい者」と言う場面があるが、カメラを前にした彼は「芸人・林家かん平」と「障がい者・渋谷一男(かん平の本名)」を演じ切ろうと決意したのだと思う。真打昇進の折には深作欣二監督、俳優の室田日出男氏などそうそうたる映画人たちに祝辞をもらった師匠だ。だから撮影中はいつも「監督、それじゃあまだまだ甘いよ」と言われているように感じた。
師匠が脳溢血で倒れてから四半世紀。これまでには並々ならぬ苦労があったと思われるが、師匠の佇まいは飄々としていて、暗さや悲惨さを感じさせない。不謹慎と思いつつも、その言動に笑わされることがたびたびある。かん平師匠の芸人根性がそうさせるのだろうが、これは高齢化社会と呼ばれて久しい現代の人々が生きるためのヒントになるのではないか。涙を笑いに変えて、明るく前向きに頑張る師匠の姿は、きっと観客に生きる勇気を与えられるものと信じている。
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