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映画業界のセクハラ・性加害対策はこの10年で“前進”したのか?深田晃司×森崎めぐみと考える

ワインスタイン事件、「#MeToo運動」の広がり、インティマシーコーディネーターの導入…ハラスメント意識はどう変化したか

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映画業界のセクハラ問題は、撲滅に向け前進しているか

──日本では2022年頃に映画業界における性加害問題が週刊誌を通じて報じられ、ハラスメント撲滅を求める声明の発表が相次ぎました。そこから3年が経ちましたが……。

森崎 残念ながら性加害はそう簡単になくなりません。ただその状況を根本から変えていくために、私たちはハラスメント加害者更生プログラムを実施しています。

深田 映画業界のハラスメント対策の難しさの1つに、スタッフ・キャストがみんなフリーランスで、職場に連続性がないということがあります。例えば企業で行われているような加害者更生プログラムは、本来長期的な時間を掛けて行うものです。一方で映画の現場においては、映画会社や監督が同じであっても、昔の◯◯組のようにいつも同じメンバーということはなく、1つの作品のために1~3カ月集まっては解散し、それぞれが別の現場に移っていく。一般企業のように時間を掛けて更生を促していくことが難しい。

森崎 座組ごとに解決するのはかなり難しいと思います。しかし私たちが行なっているハラスメント加害者厚生プログラムは企業や座組とは関係なく、個人が受けるものです。撮影が終わって座組が変わっても、自分のペースで継続できます。先日ある性加害の告発を目にしましたが、驚くほど手口がワインスタインと似ていました。時代が変わっても、することは同じなんだと思いました。

深田 何万年と生きてきた人類が、この10年でいきなり進化するなんてことはないですもんね……。

──変わってきたことも、変わらないこともあるということですね。お二人から見て、この10年で映画業界のセクハラ問題は、撲滅に向け前進していると思いますか?

森崎 はい。コンプライアンスの意識は向上していますし、ニュース報道などでも「ハラスメントはあってはならない」ということが前提になっているのは、ものすごく大きな変化だと思います。

深田 確かにそうですね。前向きな話をすると、感覚として(セクハラ問題への意識は)いい方向に変わってきていると思います。2000年頃の映画業界ではセクハラ・パワハラという言葉さえ浸透していませんでしたが、今はみんなハラスメントについて認識するようになりましたから。自分の座組を含め、多くの現場でハラスメント講習も行われています。その中で少し気になるのは「今は昔と違って、パワハラもセクハラもないよ」と言いきってしまう人が多いこと。たまたまその人の周りにはないのかもしれませんが、「ない」と言っている人が意外と加害当事者であるケースもあります。

もちろん肌感覚としてハラスメントは減ってきていると思います。でも残念ながら、完全になくなってはいない。この認識を持つ必要があります。人が集団でモノを作ろうとすれば当然みんなが違う不完全な人間同士だから、お互いに迷惑を掛け合うこともあるだろうし、嫌なこともある。ときに加害もあれば、ハラスメントは起きますよね。“0を目指すけど、0にはならない”ことを前提にして、じゃあどう予防と対策をしていくのか。ハラスメント講習をするのか、起こってしまったときにどうすれば被害者が声を上げやすくなるのか、あるいはメンタルケアをするのか、相談窓口を設けるのか……、常に考えなければいけないんです。だから「うちの座組ではもう(ハラスメントは)ないです」と言いきって、考えるのをやめてしまうのは本当に危ない。

森崎 私も同感で、人間は間違いを犯すし、ちょっとしたことでハラスメントを起こす側になってしまう。だからこそどのように自制するか、どのようにハラスメントをしてはいけない空気を作っていくのかが重要だと思います。近年では、テレビや映画で出資者(スポンサー)側が、ハラスメントが起きた作品から降りるという選択を取るようになってきました。個人的には、これも進化の表れだと思います。

インティマシーコーディネーターはなぜ必要?“無自覚”かもしれない権力性を考える

──この10年間の象徴的な出来事として、インティマシーコーディネーター(※)の導入が挙げられます。日本では浅田智穂さんが、2021年に配信スタートしたNetflix映画「彼女」に初めて参加しました。ここ数年は多くの映画やドラマでインティマシーコーディネーターのクレジットを目にしますし、世間的な認知度も高まっていますよね。

※編集部注:ラブシーンなどのセンシティブなシーンを撮影するにあたり、俳優が肉体的・精神的に安心して撮影に取り組めるよう、俳優と監督の意向を事前に確認しサポートする専門職。アメリカでは2017年にハーヴェイ・ワインスタインが性暴力および性的虐待で告発されたことをきっかけに需要が高まった

深田 インティマシーコーディネーターという仕事が、日本よりも自分の意見を言うことに積極的で慣れているであろうアメリカで始まったということそれ自体が、俳優が監督に意見をすることがどれだけ難しいか、そしてこの仕事がいかに重要かを端的に示していますよね。

森崎 インティマシーコーディネーターの導入は大きな前進だと思います。2019年に、アメリカの俳優組合からインティマシーコーディネーターについて説明を受けて、「日本でハラスメントが多いなら導入したほうがいい」とアドバイスを受けました。その内容を聞けば聞くほど「日本に必要だ」と強く思い周知しましたが、すぐには広まりませんでした。

深田 監督やプロデューサーは、インティマシーコーディネートの導入、またそういった発想自体を嫌がる傾向は一部で確かにあると思います。つまり、監督は俳優と直接話すべきだという考え方。それが監督の神聖な仕事だという感覚ですよね。

森崎 確かに俳優との信頼がなければできないことではありますが……。

深田 自分が持っている高い権力性を自覚できていない監督もいると思います。以前聞いた話ですが、ある映画学校で学生の俳優がプロの映画監督の作品に出演するという実習があって。監督自身が脚本も書いていたのですが、脚本が遅れに遅れて、結局それが俳優たちに渡されたのが撮影前日の夜でした。そこにはキスシーンやいわゆる濡れ場が含まれていた。俳優は戸惑いつつも、断ったら脚本は成立しないし、つまり翌日の撮影ができなくなるタイミングで、引き受けざるを得なかった。あとから実は俳優は嫌だったという話が監督の耳に届くと、きょとんとして「嫌だったら言ってくれればいいのに」と言うんです。でもそこにはベテラン監督と学生という、ものすごい権力勾配があるわけで。プロの俳優であっても、監督に直接交渉するのは容易ではないのに。それなのになぜか監督側は対等な気持ちでいるんです。それってずるいところがあって、「高い権力性に無自覚」と先ほど言いましたが、本当に無自覚なのか。無自覚なようで、たぶん余程のスターではない限り、俳優が自分に簡単に意見を言えないことを映画監督はどこかでわかっているんですよね。だけど対等を装うことで、NOと言ってくれなかった相手が悪いという雰囲気に持っていくんです。

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「起きてほしくない」バックラッシュへの危惧、大切なのは過程に目を向けること

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