坂本和隆×髙橋信一インタビュー|Netflix10周年、躍進の裏には“リスクを許容する”文化とコンテンツ作りへの情熱があった
各ジャンルのベスト・イン・クラス=もっとも優れた作品を生み出し続ける
2025年12月5日 11:30 3
各ジャンルのベスト・イン・クラスを作っていきたい(坂本)
──「全裸監督」で大きな一歩を踏み出したあと、Netflixの勢いはさらに加速していきました。これまでにターニングポイントになった作品はありますか?
髙橋 「今際の国のアリス」シーズン2(2022年12月22日配信)が出たときの衝撃は大きかったですね。日本国内はもちろん、グローバルでの広がり方が予想以上でした。主演の
──「今際の国のアリス」は
坂本 僕たちは基本的にどんなジャンルの作品であっても、まずはローカルファーストで作ることを心がけています。そのうえで、各ジャンルのベスト・イン・クラス=もっとも優れた作品を生み出し続けていきたい。例えば恋愛・ロマンスジャンルで言えば、
──そのほかポイントとなった作品はありますか?
坂本 例えばマンガ原作という大きなテーマで言うと、やはり「ONE PIECE」(シーズン1 / 2023年8月31日配信)は大きい。日本でもっとも愛されていると言っても過言ではないこのマンガを、グローバルチームとタッグを組んでどう作っていくか。その流れのなかで、「幽☆遊☆白書」(2023年12月14日)や映画「シティーハンター」(2024年4月25日配信)といった作品を、最先端のVFXを駆使してリデザインしていく挑戦も印象的でした。あとオリジナルストーリーの作品で言えば、「サンクチュアリ -聖域-」(2023年5月4日配信)や「極悪女王」(2024年9月19日配信)も多くの方に支持していただけた実感があります。改めて、まだやれていない物語や映像表現にどう挑戦していくかということを、各ジャンルで重ねてきた10年間だったなと思います。
──どの作品も“2匹目のどじょうを狙う”のではないのがすごいです。
髙橋 確かにそういう作品はないですね。
坂本 先ほど“バトンリレー”と表現しましたが、同じジャンルであってもまた違う挑戦をしていきたいという感覚は強くあります。
Netflixは成功体験を次の挑戦につなげていく場所(髙橋)
──Netflixのオリジナル作品には、常に日本のトップクリエイターたちが集結しています。Netflixに、なぜこれほど多くのクリエイターが信頼を寄せているのでしょうか。
坂本 製作プロセスにおいては、監督をはじめとするクリエイターの方々と“ビジョンをどう共有するか”という点をすごく大事にしています。なので、脚本作業の前段階で作品の世界観や設定を明確にした、「ストーリーバイブル」と呼ばれる資料を時間を掛けてきっちりと作りますし、カメラテストやVFXの狙いについても時間を掛けてコミュニケーションを取ることで、全員でブラッシュアップした内容を把握できるようにしています。そのうえで、最終的にどんな成功体験をお渡しできるのか。作品を重ねていく中で、クリエイターの方々に「もう一度Netflixでやりたい」と思ってもらえるかどうかを大切にしています。そういった成功体験があるからこそ、僕たちのビジネスも維持されていくわけですし、それが何よりかなと思っています。
髙橋 そうですね。製作プロセスにおいてはその通りで、それに加えて僕個人としては、最初の段階で「一緒に何をやりたいのか」「この作品における新しいチャレンジはなんなのか」というところにちゃんと耳を傾けることを大事にしています。そうして成功体験をしてもらい、じゃあ次は何をやりましょうか?と次の挑戦につなげていく。今、僕たちと専属契約を結んでくださっている
──Netflixにおける“成功”とは、視聴数だけではないんですね。
髙橋 口コミの強さや熱量みたいなものは、クリエイターの方々に一番感じていただけるポイントだと思っています。大根監督が「地面師たち」(2024年7月25日配信)で「今まで感じたことのない熱量をさまざまな場所で感じた」とおっしゃっていたのが印象的です。ごはんを食べに行って、隣の席の人が「地面師たち」の話をしていて思わずTシャツをあげちゃった、みたいな(笑)。
坂本 そうそう。“熱狂”は肌で体感するんですよね。
髙橋 あと俳優さんで言うと、「シティーハンター」の
──ちなみに、思っていたほど結果が出なかった場合は……。
坂本 僕たちが大切にしているのは、結果が出なかったときに「なぜ思うようにできなかったのか?」を徹底的に話し合うこと。100%確実なヒットの方程式はないかもしれませんが、うまくいかなかったことから全力で学ぶことはできる。Netflixにはそういう精神が根付いているのも大きいなと思います。
──目を背けたいところですが、あえてそこに向き合うと。
坂本 はい。そして同じ道を絶対に繰り返さない。
髙橋 坂本から言われて、僕自身も大事にしているマインドセットに「この作品が最後になってもいいのか?」というものがある。これは常に考えています。監督やスタッフ、俳優の皆さんと向き合うときに妥協だけはしたくない。配信されたあとに「なんであのとき、ああ言わなかったんだろう」と後悔することだけはしないように、という思いが作品に熱量を乗せていくんだと思います。その感覚はチーム全員で共有しています。
「イクサガミ」は誰も観たことのないアクションに(髙橋)
──なるほど。最近の取り組みとして、
髙橋 ありがとうございます。「イクサガミ」は、「『今際の国のアリス』とはまったく違うデスゲームってなんだろう?」と考えた末にたどり着いた企画です。京都・天龍寺で292人のツワモノたちが一斉に殺し合うという、これまで観たことのない映像表現にどう挑戦するか。そのときに、俳優としてだけでなく、アクションをどう作るかという視点も含めたトップランナーである岡田さんに「一緒に作品を作ってほしい」と声を掛けさせていただきました。
──主演としてだけでなく、プロデューサーも兼ねてのオファーだったんですね。
髙橋 はい。アクションにおいて「今までやれてないことはなんですか?」という話から始めて、やれてないことのリストをいろいろと聞かせていただきました。岡田さんから直接連絡してくださったキャストの方もいたり、「ひざが悪いんですか? じゃあひざにあまり負担のないアクションをやりましょう」など、本当に細かくプロデューサー・アクションプランナーとして立ち振る舞ってくれて感謝しています。
──脇を固めるキャストには
髙橋 それは、岡田さんと
Netflixシリーズ「イクサガミ」予告編
挑戦の積み重ねの先にしか、面白いものは生まれない(坂本)
──では最後に、今後の挑戦についてお聞かせください。
髙橋 すでに広く認められているトップクリエイターの方々とご一緒できることもうれしいですが、同時に、2026年配信予定の「ダウンタイム」で監督を務める
坂本 今後も「どうリスクを取っていけるか」がとても大きいと思っています。会社が大きくなると、どうしても安全な方向に進むのが人間の心理ですよね。でもそうなると、“まあまあの悪くない作品”ばかりが並んで、視聴者の皆さまに面白みを感じてもらえなくなってしまう。だからこそ、自分たちがどう挑戦を積み重ねていけるかがすごく大切だと思っています。挑戦の積み重ねの先にしか、面白いものは生まれない。振り返ったときに「Netflix、面白いことやってたな」と思われることがとても重要なんじゃないかと。Netflixを開けば面白い作品と出会える、作り手の方にとっては面白い作品に挑戦できる。そうして自然と人が集まってくれる場所であり続けたいです。
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「岡田准一と藤井道人監督が挑戦するなら『その船に乗りたい」と言ってくださった方々が本当に多かった」 #イクサガミ
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